静岡県東部からJリーグへ-アスルクラロ沼津の挑戦-

逆転劇にわいた愛鷹 ホーム開幕戦vs佐川印刷

JFLの洗礼を受けた開幕戦から一週間。愛鷹連峰の麓に位置する愛鷹広域公園競技場に、1,872人の観客が歓喜にわいた。かつてジャトコサッカー部のホームゲームで賑わったこの競技場は、愛鷹と書いて「あしたか」と読む。03年のジャトコサッカー部の解散から10年余。源頼朝がその湧き水の清さに感嘆したという言い伝えが残り、映画「もののけ姫」の登場人物アシタカの名の由来とも言われるこの美しき地に、再び熱気が戻ってきた。

JFL参入後初のホーム開幕戦

「多くの人が足を運んでくれて声援を送り続けてくれたことに感謝したい。逆転できたのはサポーターのおかげだと思っています」(望月一仁監督)
 
アスルクラロ沼津のホーム開幕戦は、劇的な逆転勝利で幕を下ろした。JFL12年目、昨年はリーグ6位だった佐川印刷京都サッカークラブを相手に先制されても怯まず、逆転してからは一丸となって一点を守り抜いた。
昨季、東海社会人リーグの最終戦に詰めかけた1,315人を上回るサポーターと共に手にしたJFL初勝利。望月一仁監督は「相手のほうが力は上だった」と謙虚に振る舞いつつも、勇敢に戦った選手たちを讃えた。

実力差と手応え

3月23日16時、愛鷹連峰にキックオフを告げる笛がこだました。
 
前半早々、チーム一のテクニシャン木暮郁哉が見せ場をつくる。相手ペナルティエリア内で浮き球を華麗に扱いジャンピングボレーを放つ。ボールは惜しくもキーパーの正面だったが、チームを鼓舞。JFLでもやれる、そうソニー仙台戦後半で感じた手応えが、チームに落ち着きを与えているようだ。
この日は、加入して間もない経験豊かなディフェンダー尾崎瑛一郎(前ガイナーレ鳥取)も、まずまずの連携を見せる。アスルクラロはホーム一色の声援にも後押しされ、佐川印刷と互角に渡り合う。
 
それでも均衡を破ったのは佐川印刷だった。前半18分、コーナーキックのこぼれ球に反応した吉木健一に、豪快なミドルシュートを打ち込まれた。一瞬、前節がリフレインする。
自力で勝る佐川印刷はその後も攻撃の手を緩めない。前節、負傷した東間勇気の代わりにキャプテンマークを巻いた高野光司を中心に守備を固め、なんとか1失点で折り返した。

采配と応援と気迫がもたらした逆転劇

「前半は攻守ともに選手の距離間が悪かったので、ハーフタイムに距離間を意識するように選手たちに言いました」と望月監督。
その指示が功を奏し、後半は連動性の増したアスルクラロが反撃に出る。
後半3分、左サイドを駆け上がった村上聖弥のクロスに真野亮二が冷静に合わせて同点に追いつくと、15分には右サイドからのクロスをファーポストに詰めていた木暮がヘディングで折り返し、最後は犬塚友輔が押し込んだ。
 
逆転。この日、もっとも愛鷹が、いや、沼津がわいた瞬間だった。
 
その後は、佐川印刷の猛攻が始まる。しかしアスルクラロの集中力は試合終了まで途切れなかった。ツートップが前線から追い回してパスコースを限定し、中盤でボールを奪う。残り時間が少なくなるにつれ焦りの色が濃くなる佐川印刷に、この日の沼津のディフェンスをこじ開ける力は感じなかった。
 
次節はアウェイのHonda FC戦。言わずもがな、JFLでもっとも実績のあるチームの一つだ。この新たな“静岡ダービー”でチームの真価が問われる。
 
「次節のHonda FCは連動性のある動きを得意としていて、選手の距離間で攻撃のリズムを変えることもできます。攻撃ではサイドバックが起点になるでしょう」
 
望月監督は試合後、次節の展望をそう語った。JFL最多優勝チームに、アスルクラロがどう挑むのか注目したい。
 

PICK UP

約10年間、チームを支え続けた主将・川村淳一

JFL初勝利を誰よりも喜んだのは、この日、ベンチでチームを支えた主将の川村淳一だった。今年で33歳になる。
 
「ぼくは03年にジャトコにいた。その後、10年以内に東部にJFLのチームを作ることを目標に頑張ってきました。今日がその記念すべきホームの一試合目。そこで勝てたことは本当にうれしい」
 
いまはJ3に昇格するという目標がある。そのスタートを切ることができた。声援にも勇気づけられた。
 
「ジャトコが解散してから、県の2部から再スタートして、上のリーグに上がるにつれて沼津の人たちが試合に足を運んでくれるようになった。それを実感しているから声援が力になります」
 
1999年から3年間はヴィッセル神戸に所属した。Jリ―グも地域リーグも経験しているが、共通して言えるのは“気持ち”が大切だということ。
 
「試合に向けてどういう準備をするか。ぼくは個人というよりもチームが上に行くことしか考えてないです」
 
経験を重ねることでまわりが見えるようになった。派手なプレーはなくなったが、精神的に落ち着き、波もなくなった。
 
「このアスルクラロというチームに感謝している。山本社長と巡り合ったからこそ、10年間かけてまたこうしてJFLの舞台に戻れた。沼津のプレーヤーは自分一人になってしまったけど、この喜びをピッチの上で表現したい」
 
サポーターから“兄貴”と呼ばれ、慕われている。ミスター沼津の新たな挑戦は始まったばかりだ。
 
 
取材・文:出川啓太/遠藤由次郎

DATA

試合結果

ファーストステージ第2節(会場:静岡県愛鷹広域公園多目的競技場)
アスルクラロ沼津(2-1)佐川印刷京都サッカークラブ
得点者:吉木健一前半18"(佐川京都印刷)、真野亮二後半3"、犬塚友輔15"(アスルクラロ)
メンバー)
FW 10.木暮郁哉(→岡庭和輝[後半43分])9.畑直樹(→緑悟[後半36分]) MF 14.柳澤隼(→中野翔太[後半34分]) 8.犬塚友輔 7.村上聖弥 6.真野亮二 DF 31.尾崎瑛一郎 25.馬場将大 20.高野光司 3.西村竜馬 GK 30.石田良輔

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