静岡県東部からJリーグへ-アスルクラロ沼津の挑戦-

勝利までの距離 vs鹿児島ユナイテッドFC

今年からJFLに昇格したアスルクラロ沼津は、今、難しい局面にいる。ホーム開幕戦(第2節)での勝利以来、勝ち星に恵まれないのだ。ここ4試合の総得点は2、平均シュート数は4.75本という数字が表すように、得点力不足という問題がある。ただし勝利までの距離が遠いかと問われれば、そうとも言い切れない。ここ4試合の失点はわずかに3なのだ。勝利までの距離。それはゴールまでの距離と同意義なのかもしれない。

悔しさをにじませる選手たち

「期待されているのを肌で感じますね。だからこそ本当に悔しい。点を取って勝ちたいです。そのためにもフィニッシュの精度を高めないと……」この日、右サイドで見せ場を作った岡庭和輝は、試合後に悔しさをにじませていた。
 
第7節、対鹿児島ユナイテッドFC。ゴールデンウィークの最初の日曜日ということもあって、この日もホームの愛鷹の地には2,000人近いソシオ(サポーター)が駆けつけた。
 
その中での0-1での惜敗。
勝てないことへの歯痒さを全面に出していたのは、前出の岡庭だけではない。開幕戦からすべての試合に出場しているゴールキーパーの石田良輔もまた、試合終了後に天を仰ぎ見たまま、しばらくの間、悔しさを噛み締めていた。
 

特色豊かな両チームの戦い

「繋ぐサッカーをしたいと思っているのですが、前半はそれができていて、何度か決定機も作ることができました」
 
望月一仁監督が試合後に語ったように、試合の立ち上がりはいい流れの攻撃が続いた。ボールの支配率を上げたいアスルクラロにあって、これまで前線でボールが収まらなかった。しかし、今節はキープ力のあるボランチの柳澤隼をフォワードに置くことで、それは解消された。
 
センターサークル付近で、しっかりとボールをキープする時間ができたことで、チームの攻撃にリズムが生まれた。選手たちの「勝つぞ」という意気込み、気迫もひしひしと伝わってくるプレーが随所に見られる。
 
前半7分には、尾崎からのパスを真野亮二が繋ぎ、最後は柳澤がシュート。しかしこれは惜しくもキーパーの正面に。
 
鹿児島ユナイテッドの執拗なサイド攻撃に対しても高い集中力を見せ、無失点で前半を折り返した。
選手たちのプレーの質もアスルクラロのほうが頭ひとつ出ていたようにも思う。

サッカーは一筋縄ではいかない

「今日はこれまでで一番良いサッカーができていた時間帯もありましたが、サッカーの勝敗は90分のトータルで決まりますからね」
 
右サイドバックを務めた経験豊かな尾崎瑛一郎が言うように、試合は90分間で決まる。そして良いサッカーをしたチームが勝つとも限らない。
決定機のあるときに得点しておかないと、得てして敗北を喫する。サッカーとはそういうものだ。
 
後半に入ると、アスルクラロの良いリズムの攻撃が消えてしまう。後半5分を過ぎると、サイド攻撃を主とした鹿児島ユナイテッドのサッカーに飲み込まれていく。両チームともに、ボールを放り込むようなサッカーになっていく。
 
鹿児島ユナイテッドからしてみれば、それは狙い通りのサッカーだ。一方で、アスルクラロが趣向するサッカーとは言いがたい。
 
そして後半22分に均衡が破れる。コーナーキックからの流れで、一瞬の隙を突かれて失点。
 
失点からすぐの後半26分。交代したばかりの緑悟が、裏に抜け出してゴールキーパーと一対一になるも、シュートはわずかにゴール右を外れていった。時間の経過とともに高いポジションを取るセンターバック高野光司のスルーパスから真野が飛び出すも、ゴールは生まれない。
そして、そのまま試合終了のホイッスル。
 
相手との圧倒的な力の差があるわけではない。JFL1年目とは思えないほどの戦力もある。安定した守備もある。テンポの良い攻撃ができる時間も生まれてきた。あとはこれらをどれだけ継続できるか、高い意識で取り組めるかに懸かってくる。
 
勝利を重ねれば、スタジアムを訪れるソシオは、どんどん膨れ上がっていくことだろう。そうなればチームの調子は倍速で上向く。その好循環を生むためにもまずは1つずつ勝っていくことしかない。勝利への距離は遠くない。安定した守備はある。あとは点が生まれるのを待つのみだ。
 

PICK UP

チームの意識改革に挑む尾崎瑛一郎の“背中”

「この静岡県には、3チームもJクラブがあるにもかかわらず、毎試合2,000人も観に来てくれているというのは、本当に凄いこと。自分たちだけでサッカーをやっているわけじゃない。クラブ、スタッフ、スポンサー、そしてソシオ(サポーター)の皆さんに支えられているんだと感じる毎日です」
 
静岡県静岡市出身の尾崎瑛一郎(29歳)は、アスルクラロ沼津に来てまだ2か月も経たない。しかし、チームへの思いや戦う気持ちは誰にも負けない。
 
「ガイナーレ鳥取のあと、このアスルクラロ沼津というチームに入るときに感じたのは、“サッカーだけをやっていればいい”というのではないということ。このチームは今年がすべてと言えるほど大切な時期にあります。その中で自分ができることのすべてを出し切りたいです」
 
高卒で入団したのは、当時J2にいたアルビレックス新潟。そこで経験したのは「サポーターの力」だった。数万人が観る中でプレーすることの興奮、そして成長していく自分を感じた。
 
その後、出場機会を求めて異国の地シンガポールへ。そこでの4年間とJFLからJ2への昇格を経験したガイナーレ鳥取での6年間。尾崎はその豊かなサッカー経験を存分に発揮する心づもりだ。
 
「一番思うことは、負けていることに対してどれだけ危機感を持っているか。スタンドのお客さんが増えていない、もしくは減ってしまったことに対して何を感じるか。でもそれは自分で感じないと意味がない。僕が“感じないとダメ”と頭ごなしに言ったところで、若い選手の成長にはならないと思います。自分で気づくこと。そこが大事ですよ」
 
そう語る尾崎だが、若い選手に“感じないとダメ”と伝えようとしていないわけではない。ある試合の終了後のロッカールームでのこと。彼はチームスタッフとともに最後まで後片付けをしていた。もちろん尾崎がアスルクラロのマネージャー兼選手という立場がそうさせている面もあるが、それだけではないはずだ。
 
僕には、彼が「オレのこの必死な姿を見て、お前たちは何も感じないのか?」と語っているように思えた。
 

DATA

試合結果

ファーストステージ第7節(会場:愛鷹広域公園多目的競技場)
アスルクラロ沼津(0-1)鹿児島ユナイテッドFC
メンバー)
GK 30.石田良輔DF 28.北脇里規 31.尾崎瑛一郎 20.高野光司 3.西村竜馬 
MF 17.岡庭和輝 10.木暮郁哉(→7.村上誠弥[後半25分]) 8.犬塚友輔 16.中野翔太FW 14.柳澤隼(→9.緑悟[後半15分]) 6.真野亮二(→9.畑直樹[後半34分])

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