静岡県東部からJリーグへ-アスルクラロ沼津の挑戦-

天皇杯はJ1・マリノスに屈するも この経験がクラブに成長をもたらす vs 横浜F・マリノス

─天皇杯3回戦(2017.7.12)─

J2京都サンガF.C.との天皇杯2回戦に勝利したアスルクラロ沼津は、3回戦突破を目指し、J1の横浜F・マリノスとニッパツ三ツ沢球技場で対戦した。公式戦としては、初となるJ1勢との対戦、さらにはリーグ戦・AC長野パルセイロとの対戦から中二日ということもあり、非常に難しい戦いを強いられた。結果は、前半に3失点を喫し、後半に2点を返したものの、最終的には2−4で敗戦、4回戦出場には至らなかった。しかし、この経験は、アスルクラロというクラブにとって大きな財産となった。

J1の実力を肌で感じた前半

前半からギアをトップに上げて、相手ボールに食らいついた。しかし、「J3では奪えるところも、今日は奪えなかった。前半はそれでリズムが崩れてしまった」と中盤の底でチームを支え続けた菅井拓也が話してくれたように、横浜F・マリノスの面々は、高い技術で淡々とアスルクラロの守備網をすり抜けていった。
 
そうした中、前半14分に喜田拓也のミドルシュートがアスルクラロのゴールネットを揺らす。さらに43分には前掛かりとなったアスルクラロの守備陣をあざ笑うかのような巧みなパスワークを見せ、裏のスペースへ抜け出した前田直輝が齋藤学にラストパスを送る。齋藤がこれを落ち着いて決めて2点差をつけると、前半ロスタイムにも齋藤が追加点を奪う。
 
前半で3失点。それは、相手がJ1のチーム、それもリーグ最少失点(J1リーグ第18節時点)という横浜F・マリノスであることを考えると、心が折れてしまっても仕方ない状況だった。
 
しかし、後半に入り、諦める選手はアスルクラロに1人もいなかった。選手だけではない。スタンドに駆けつけた“アスルサポーター”にもまた、諦めている人は誰一人としていなかった。
 

J1相手に2ゴールが生まれるも……

「3点差がついたことで、中盤での相手のプレッシャーが弱くなった」と菅井が語ったように、後半に入るとアスルクラロがボールを保持する時間が増えた。そうした中、後半9分にリーグで10得点(J3リーグ第16節時点)と波に乗る薗田卓馬がピッチに入ると、薗田は早速スタンドを沸かせる。
 
天皇杯2回戦に続いて先発出場を果たした伊東輝悦からパスを受けた薗田は、相手ディフェンスを背負ったまま、鋭い切り返しで前を向くと、相手を交わした瞬間に、素早く左足を振り抜いた。ニアサイドを狙ったこの左足シュートは、惜しくもゴールポストに弾かれるも、相手に威圧感を与えるに十分な一発だった。
 
「前半ベンチから見ていて、“狙い所”というのをイメージしていました」と話す薗田は、その後も、相手ディフェンスの裏にできたスペースを狙い続けた。
 
そして、後半35分。薗田は、その執拗な狙いを一転させ、バイタルエリア(ペナルティエリアの外、相手ディフェンスとボランチの間に出来たスペース)で足元にボールを要求する。
 
そこへ、前澤甲気からピンポイントにパスが送られると、薗田は、このパスを最もシュートが打ちやすいところへワンタッチコントロールし、ゴール右上を狙いすましてシュートを放った。
 
「アスルクラロに薗田あり」ということを示すに十分な一発だった。このゴールで2点差につめたアスルクラロは、さらなる追加点を奪うため、全力でゴールを目指し、サポーターは大きな声で選手たちの背中を押した。カテゴリーで劣るチームが大きな敵にぶつかっていくという、まさに天皇杯らしい熱き戦いが見られた。
 
しかし、前掛かりになった相手のミスを見逃さないのがJ1クラブの真骨頂である。田中舜のキーパーへのバックパスがずれると、横浜F・マリノスのウーゴ・ヴィエイラがすかさずパスカットし、そのままシュート。これで4失点となり、万事休す。その後、後半ロスタイム4分に、左コーナーキックから太田一輝が得点を奪うも、とき既に遅し。2−4にて敗戦。
 
アスルクラロは、3回戦で姿を消すことになった。
 

PICK UP

J1クラブとの“2つ”の差

アスルクラロが見せた、ゴールへの執念。諦めない姿勢。そういった全力プレーに、ホーム側、アウェイ側に関係なく、胸を打たれた観客は多いはずだ。実際、SNS上にはマリノスファンからアスルクラロの選手たちへの称賛の声も挙がっていた。
 
横浜F・マリノスのエリク・モンバエルツ監督も、試合後の記者会見で開口一番、「沼津のプレーを讃えたい、素晴らしかった」と話している。
 
この「諦めない気持ち」は、この数年間アスルクラロを追って、実感してきた最大の特徴である。しかし、一方でそうした称賛の声の裏で、J1との差を感じさせられた場面が2つあった。
 
一つは平日ナイトゲームという中でも、4,458人という観客を集めるクラブ力である。もちろんアスルクラロ目当ての観客も少なくなかったが、その大半は横浜F・マリノスのサポーターであった。そして、やはり迫力が違った。陸上トラックがないということもあるかもしれないが、2回戦で対峙したJ2・京都サンガF.C.とは、一味も二味も違うサポーターの“圧力”があった。
 
「マリノスはサポーターや地域と一丸となって戦っていた。その雰囲気は、さすがJ1という凄いものがあった」と吉田監督。対してアスルクラロは、週末に行われるリーグ戦でも一試合平均2,500人強。J3リーグの中で、この数字は決して悪いものではないが、やはりJ1・J2のチームと比べると物足りない。今後のアスルクラロの成長には、やはり観客数も欠かせないことであるように感じられた。
 
もう一つは、後半27分での出来事だ。横浜F・マリノスのサポーターが大きく沸いたシーンがあった。それは、先日のカンボジアで開催されたAFC U-23選手権2018の予選にも出場した、遠藤渓太が交代出場でピッチに姿を現したときだ。
 
遠藤は、ジュニアユース、ユースとずっとマリノスで育ってきた選手で、昨年トップチームに昇格した19歳だ。そうした選手がピッチに立った瞬間に、サポーターから一層大きな声援が送られる。そこにJ1クラブとしての強さを感じさせられたのである。
 
代表取締役・副会長を務めるアスルクラロの創立者・山本浩義氏は、以前「なるべく早くユースチームをつくりたいと思っている」と話していた。現在でもアスルクラロには、U-15世代、つまり中学生までのチームはある。しかし、トップチームとの懸け橋となるユース(高校生)世代にはチームがない。
 
もちろんJ2・J1ライセンスを取得するためには、このユース世代のチームをつくることは必須だが、そうした“ライセンス問題”だけでなく、地域に根ざしたクラブとしての成長のためにも、これは一刻も早く乗り越えるべき課題であろう。
 
そうした差を実感できたことも、今回の天皇杯での大きな収穫ではないだろうか。
 
文・取材/遠藤由次郎
 

DATA

試合結果

(会場:ニッパツ三ツ沢球技場)
横浜F・マリノス(4-2)アスルクラロ沼津
 
アスルクラロ沼津メンバー)
GK 20.石井綾 DF 4.田中舜 21.渡邉志門 2.藤嵜智貴 MF 15.菅井拓也 8.河津良一 14.白石智之 16.小牧成亘(→19.薗田卓馬[後半9分]) 25.伊東輝悦(→13.鈴木淳[後半38分]) 11.前澤甲気 FW 29.渡辺亮太(→17.太田一輝[後半16分])
 
横浜F・マリノスメンバー)
GK 31.杉本大地 DF 2.パク・ジョンス 23.下平匠 27.松原健 34.ミロシュ・デゲネク MF 5.喜田拓也 6.扇原貴宏 10.齋藤学 25.前田直輝(→18.遠藤渓太[後半27分]) 33.ダビド・バブンスキー(→14.天野純[後半40分]) FW 17.富樫敬真(→7.ウーゴ・ヴィエイラ[後半30分])
 
 
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