背中押します。あなたの「サッカーの夢」を叶える本。

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サッカーボールという球体の、存在や意味、形についてもっと考えてみたいです。

  • ワールドカップをたたかうボール (記録への挑戦)
  • ボールのひみつ―野球、バレー、サッカー、バスケ、テニスetc.様々なボールの歴史や秘密
  • サッカーボール型分子C60―フラーレンから五色の炭素まで
  • 円と四角
  • 球体の神話学


選書 幅 允孝(ブックディレクター)

Profile

ワールドカップをたたかうボール (記録への挑戦)

岩崎龍一(ポプラ社)

いまYouTubeで観ることのできる古い試合の映像は、最新のカメラで撮られたものとは違って荒く、どうもプレーが重たく見えてしまうことがある。それは選手の足が遅かった訳でもなんでもない。ひとつにはボールそのものの精度向上があったのではないだろうか。
サッカーボールは、古くは短冊状の革を組み合わせ糸で縫って作られていた。それが五角形と六角形を組み合わせたお馴染みの形になるのは、70年のメキシコW杯、アディダスがボールを提供し始めてからだった。初めてテレビ放送がなされた大会デビューであることから「テレビ時代のスター」=テルスターと呼ばれたそのボールは、06年ドイツW杯の画期的なボール「+チームガイスト」まで使われ続けるスタンダードとなった(現在でも一般的なボールはテルスター型)。「+チームガイスト」と南アW杯の「ジャブラニ」は、それまでの糸で縫うタイプではなく、接着剤と熱で貼り付ける“サーマルボンディング”という方法で製造されている。糸をなくすことで水分吸収を防ぎ、可能な限り完全な球体へと近づかせ、蹴る場所によるムラが出ないよう表面は均一にされている。ボールタッチやピッチ上での動きも滑らかで、水を吸収し重くなることもなく、プレーヤーの動きに対して“素直”な現代のボールは、サッカーを高速化させたともいえそうだ。

ボールのひみつ―野球、バレー、サッカー、バスケ、テニスetc.様々なボールの歴史や秘密

新星出版社

1984年メキシコW杯は、マラドーナの5人抜きや神の手ゴールという奇跡が起こった大会。そしてサッカーボールが天然皮革から人工皮革に変わった大会でもある。天然という性質上ひとつひとつにムラがあり、水の吸収もよかったものが、人工皮革になることで天候の影響が少なく、繊細なボールタッチが可能になった。その影響をおそらくもっとも有効に活用したのがマラドーナの足だったのだ。
円周68~70cm、直径22cm、重量420~445g、合成ゴムで作られたボール。バレーボールが色を変えることで視覚的なプレーしやすさを向上させ、バスケットボールは黒い溝を太くすることでグリップ力を強化した。サッカーというスポーツは他のスポーツにはない道具の進化を遂げてきた。できうる限り真球に近づけたい、どこをどう蹴っても均一のボールコントロールが可能なものを作るという意志のもと、確実に進化してきたボールはプレーに直接的な影響を与えてきた。表面のデザインの自由さも他の球技には見られない。他の球技のボールと比較しながら、サッカーボールの特殊性が眺められる本書。ボールの進化は、競技の進化とも繋がる。テクノロジーの進化がそのまま反映されるボールデザインの歴史は、サッカーをもう少し深く楽しませてくれる。

サッカーボール型分子C60―フラーレンから五色の炭素まで

山崎昶(講談社)

サッカーボールと言われて思い描くものは、おそらく五角形と六角形を合わせたサッカーボールだろう。
85年ごろから、世界中の化学/科学者の間で話題となった、“炭素原子60個からなる究極の美しいシンメトリー構造をとる”物質は、「サッカーボーレン」や「バックミンスターフラーレン」と呼ばれた。炭素原子60個が集まった分子“C60”の安定する形が、正五角形20個と正六角形12個を球形に組み合わせたもので、サッカーボールの表面構造と一緒だったのだ。この発見があるまで、炭素だけでできる安定した分子構造は、炭素原子が平面上に敷き詰められた状態のグラファイトと正四面体を形作るダイヤモンドの二種類だけだった。発見者であるハリー・クロート教授ら三人は、この発見にノーベル化学賞も受賞している。
超電導性を持つ希少な有機化合物であり、最近ではエイズウイルスに効果があるかもしれないとさえ言われ、後に生成過程からカーボンナノチューブの発見も導いた。科学者を研究に駆り立てたひとつには、真球に近づけようと開発されたサッカーボールと同じ、美しい構造があった。数学や科学はその真理に美しさを秘めている。サッカーボールがその美しさを共有しているとしたら、現在のジャブラニ型から戻ることもひとつおもしろみのあることなのかもしれない。

円と四角

松田行正/向井周太郎(牛若丸)

サッカーボールは球であると同時に円でもある。センター“サークル”の中心に置かれ、動き出す前のボールを俯瞰で見れば、そこには二重の円が描かれる。“円形と四角形に昇華した護符・カリグラフィ・宇宙図・サイン、そして視覚詩をひたすら集めた”本書。“円は自然や宇宙をあらわす”のなら、選手はさしずめ小さな宇宙で運行する星のようなものかもしれない。
マレーヴィチの真っ黒く塗りつぶされた円を描いた「黒い円」から始まる円と四角を巡る形の旅は、回転する円の図で終わる。置かれたボールが蹴られ回転し運動するかのように。アメリカ・インディアンやケルト、日本の三つ巴紋は、「+チームガイスト」や「ジャブラニ」以降の角が丸く作られているボールのデザインとも通底する感覚がある。
正五角形と正六角形を組み合わせた形は美しい分子構造と同じであり、新型のボールデザインは民族の文様に近づいた。原初的な美しさと祈りにも似た表層を経て、サッカーボールはこれからどんなものへと変わっていくのだろうか。真球といういまだ自然界に存在しない造形を目指し、もしそれが実現できた暁には、さらなるサッカーの進化が起こりそうだ。

球体の神話学

高橋睦郎(河出書房新社)

“人間という動物は百万年ともそれ以上ともいわれる誕生いらい今日まで、美しいもの、完全なるものとして、さまざまな球体に憧れ、愛し、ときには怖れてきた”。詩人にかかると、ひとつの球体は世界中に偏在するありとあらゆる球体(と球体に近い何か)へと変貌を遂げる。地球であり月、人間の頭部であり睾丸。さらには真珠、豆、パチンコ玉にもなる。明確な中心を持つ安定した形態の球体には、様々な象徴性が宿る。それゆえ著者は、鉛玉が現金へと変わるパチンコという遊戯=プレイに、無限に金を生み出す錬金術との関係を見て取る。そこにはあらゆる存在の原型としての完全な球がイメージされている。
パチンコ玉から始まる本書は、同じ玉の遊戯=球戯で締めくくられる。球戯は人類の発生とともに生れ、そのひとつには太陽ボールと月ボールと呼ばれた玉を昼夜が入れ替わるように投げ合うものもあったそうだ。中国、春秋戦国時代から盛んになった蹴鞠は軍事教練として行われていたという。日本の蹴鞠の原型がそこにあるとは思えないほどの激しさ。日本書紀に記された蹴鞠の鞠が“分銅型の革を縫い合わせて球状にし、中に毛髪を詰めたもの”であることから、それはあたかも人間の頭の代替のように思える。呪術的な意味も読み取れるそうした行為が、現代のサッカーの原初の形としてあるということを忘れてはいけない。

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幅 允孝(はばよしたか)

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。
国立新美術館ミュージアムショップのスーベニアフロムトーキョーやTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、LOVELESSなどにおける本のディレクションや、d-labo(スルガ銀行ミッドタウン支店内)などのライブラリー・ディレクションを手掛ける。ほか、編集、執筆、ディストリビューション等、本周りのあらゆる分野で活動中。最近では、渋谷のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、銀座のHANDS BOOKSがオープンしました。
BACH : http://www.bach-inc.com

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