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黒人選手は身体能力が優れているというのは、本当ですか?

  • 金メダル遺伝子を探せ
  • 人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか
  • 黒人アスリートはなぜ強いのか? その身体の秘密と苦闘の歴史に迫る
  • ケニア! 彼らはなぜ速いのか
  • 黒人リズム感の秘密


選書 幅 允孝(ブックディレクター)

Profile

金メダル遺伝子を探せ

善家賢(角川書店)

ジャマイカのウサイン・ボルトが2009年の世界選手権の100m走で叩きだした9秒58という記録は、人間の限界ギリギリのところまで到達したと思わせるほどに圧倒的なものだった。その100m走のスタートラインに並んだ選手は、すべて黒人選手だったことに気づいただろうか。NHKの番組、「追跡!AtoZ ~いま一番知りたいテーマを追う!超リアルドキュメント」は、そうした結果として身体能力が高いと言われている黒人選手の遺伝子を、徹底的に研究しているひとりの博士を取材することから、番組を作り始めた。
グラスゴー大学の“DNAハンター”ヤニス・ピツラディスは、世界中のアスリート1000人以上から採取したDNAを研究。そこから彼が発見したのは、瞬発系競技の能力に関わる「ACTN3」と呼ばれる遺伝子。筋肉の構造を強める働きを持ち、ジャマイカのスプリンターの75%が、このACTN3遺伝子が「CC型」と呼ばれるタイプだという。このタイプの人は、瞬発力を生み出す速筋繊維に、筋肉の構造を強化する特殊なたんぱく質を生成できるため、瞬間的で爆発的な筋収縮にも耐え得る強さを持てるのだそうだ。この遺伝子が、あらゆるスポーツの瞬発力を活かすものであり、金メダルへの可能性にもなっている。とはいえ、このひとつの遺伝子が即結果に繋がるものではない。現段階では向いている可能性の参考程度にしかならないが、ここから研究が進めば競技に最適な人間が生まれながらに選別される未来がくるのかもしれない。

人種とスポーツ

黒人は本当に「速く」「強い」のか

川島浩平(中央公論新社)

黒人が人種由来の優れた身体能力を持つアスリートであるというイメージ、情報はいったいどこから、どういう根拠の元に生まれてきたものなのだろうか。そのステレオタイプな物言いは、おおよそ多くの真摯なスポーツ好きにとってはあまり意味がないだろうが、一般の人々の中ではまだまだそのイメージは消えていない。
アメリカ研究を専門とする著者は、人種とスポーツの関係を歴史と科学の観点から“人種”による能力の差をリサーチしている。19世紀、アメリカでは人種分離政策のもと黒人は白人から不可視の存在と位置づけられ、あらゆる面で劣った、野蛮な人間として扱われていた。徐々に娯楽であるスポーツの世界へと進出した黒人たちは、30年代以降急速に増加。特定のスポーツではあるが、ある一定の居場所を確保する中、黒人選手が残す優秀な成績は生得的に身体性が優れているからだとするステレオタイプなイメージが形成され始める。
しかし出場する機会を得ただけで、一気に好成績を残すということは難しい。著名な黒人ジャーナリストや教育者、スポーツ選手たちの何人かは、それぞれに生得説を否定的に捉えつつ、差別され困難な状況を生き抜いたことで、身体的に強いものが残ったという自然淘汰説がイメージ形成に影響したとも言われている。しかし黒人とひとくくりにしても育った国も地域も違い、あらゆる状況が個別である。結果だけが全てではない。すべては社会的、政治的状況までも含めた複合的な現象の一断面にすぎないと著者は締めくくっている。

黒人アスリートはなぜ強いのか?

その身体の秘密と苦闘の歴史に迫る

ジョン・エンタイン(創元社)

本書の現代は「TABOO : Why black athletes dominate sports and why we're afraid to talk about it」。著者は、なぜ黒人だけがスポーツを席巻しているのか、そしてなぜそれについて言及することが憚れるのかを問う。著者は、遺伝子によって選手の素質が開花するかどうか、優れた選手になるかが決まるとしているのだ。
例えば、こういうことだ。100mや200mの短距離走の世界記録保持者のルーツはほぼ全て西アフリカに行き着き、ヨーロッパ系でも足が速いアスリートは南欧に多く、これはアフリカの血が北よりも混ざっていることによる。アジア系の人種は柔軟性が高く、体操やスケート、水泳で強さを発揮し、東アジア地域の人は上半身の反応速度が速く、格闘技や卓球で強いなどなど。眉唾にも思えるような持論が、立て続けに展開されていく。
60年代半ば、NBAの選手構成は黒人20%、白人80%だったのだが、90年代は黒人85%以上に変化する。そしてケニアの長距離トップアスリートの殆どがナンディ地区という小さな地域に住む部族の出身か、またその親戚であるとするデータも披露される。
「人間には相違がある。たとえ善意からのものだとしても、言葉をいくら重ねたところで、こうした人類社会の万華鏡は否定することはできない。今や自明のことを認めようではないか。いや喜んで受け入れようではないか。こう語ったところで、それは人種主義でもなければ、妄想でもない。白人はジャンプができない、と」。この言葉でこの本は締めくくられている。

ケニア! 彼らはなぜ速いのか

忠鉢信一(文藝春秋)

東京からアテネまでの夏季五輪陸上競技で54個のメダルを獲得したケニア。2007年の世界6大マラソンのうち、5大会でケニア勢が優勝。そしてそのうち4大会は、リフトバレー州という地域を故郷とする「カレンジン族」出身の選手が制している。ケニアの人口中でもわずか10%に過ぎないその部族から、なぜ優秀なランナーが多数生まれてくるのか、その疑問を解き明かすべく著者は、『金メダル遺伝子を探せ』にも登場したヤニス・ピツラディスの元を訪れる(こちらが先)。
簡潔に言ってしまえば、ピツラディスはカレンジン族と長距離走について遺伝子に、その理由はないとしている。彼が考えたのは、子どもの頃からの長距離通学の経験であり、カロリーと水分摂取の関係だった。この見解にどこか納得のいかなかった著者は、遺伝説をとるコペンハーゲンの運動生理学者のサルティン教授を訪ね、彼の酸素供給や乳酸の効率的利用との関係における酵素説を聞く。そのサルティン教授の教え子でもあるラーション研究員は、膝から下の足の長さだと語った。結局、著者はどの説も不十分であると判断。彼は直接ケニアのトレーニングキャンプに行き、コーチや選手を取材、そこで聞こえてきたのは、必要なのは自信とトレーニングであり才能ではないということだった。結局結論はどこか曖昧なものではある。だが、それが黒人優勢説自体の曖昧さそのものなのかもしれない。

黒人リズム感の秘密

七類誠一郎 a.k.a. Tony Tee(郁朋社)

スポーツの分野に限らず“黒人”がもつ独特の身体技法が注目されている。そのひとつがリズム。ブラックミュージックと呼ばれるリズムを強く打ち出した音楽は、黒人独特のリズム感、タイム感から出てくるのだと一般には信じられている。それではなぜ黒人スポーツ選手の動きはリズミカルになり、日本人はなぜリズム感が悪いのだろうか。黒人のリズム感は後天的に体得できるものなのか。東京学芸大学大学院で運動生理学の修士課程を修了し、85年に渡米。マイケル・ジャクソンやマドンナなどの振付師ビンセント・パターソンのアシスタントを経て、様々なPVなどに出演し、多くのスタジオで後進を育てた著者が、自らが実践的に身につけた黒人独特の“ノリ”を理論的に解説している。
著者のトニーは、自らがノリ=リズム感を習得していない研究者たちの不備をつき、ダンサーでもある自身が黒人のリズム感を法則化した“パルスリズム”の習得までを導く。そこには体幹運動をより発展させた、インターロックという体の中心である体幹・脊椎を波打たせる身体運動がある。とはいえこのインターロックも、著者が分けた先天的なフィーリングと後天的なノリのリズムにおいて、後者を身につけることに過ぎないという。近づけるが黒人のそれとは根本的には違う。ダンスを通じて彼はそう答えを出しているようだ。

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幅 允孝(はばよしたか)

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。
国立新美術館ミュージアムショップのスーベニアフロムトーキョーやTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、LOVELESSなどにおける本のディレクションや、d-labo(スルガ銀行ミッドタウン支店内)などのライブラリー・ディレクションを手掛ける。ほか、編集、執筆、ディストリビューション等、本周りのあらゆる分野で活動中。最近では、渋谷のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、銀座のHANDS BOOKSがオープンしました。
BACH : http://www.bach-inc.com

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