背中押します。あなたの「サッカーの夢」を叶える本。

064

ブラジルW杯をより楽しむためにブラジルについて教えて下さい

  • 未来の国ブラジル
  • ブラジルへの郷愁
  • ブラジル・カルチャー図鑑 ファッションから食文化までをめぐる旅
  • ブラジル(世界のともだち)
  • アントニオ・カルロス・ジョビン - ボサノヴァを創った男


選書 幅 允孝(ブックディレクター)

Profile

未来の国ブラジル

シュテファン・ツヴァイク(河出書房新)

1881年、ウィーンのユダヤ系の裕福家に生れ、第一次世界大戦中はロマン・ロランとともに反戦平和の活動に従事したシュテファン・ツヴァイクは、20、30年代のヨーロッパにおいて傑出した作家だった。ところが、ヒトラーがドイツで政権を掌握した後、ユダヤ人だったツヴァイクはロンドンに亡命し、その後アメリカに渡る。そしてツヴァイクは晩年の7年間、3回に渡ってブラジルを訪れている。最後の方伯である1942年、第2の妻とともに自ら命を絶ち、その生涯を閉じた。
2回目の方伯の後に書き上げた本書は、ヒトラー独裁とユダヤ人迫害に絶望したツヴァイクが、ブラジルに差別のない理想の国を見出したことがありありと描かれている。“「人種、階級、肌の色、宗教、主義主張の違いにもかかわらず、人々が平和に共存できるか?」”という未だに解決しない大問題に対し、ツヴァイクは“どの国もこの問題をブラジル以上に幸福にかつ模範的に解決”できておらず、ブラジルのそれは世界的な驚異だと言う。“混血とは欧州の狂信的な人種理論では、破壊的なものであり、血に対する罪として恐れられているが、ここでは国民的文化形成の手段として意識的に活用されている。新しい人々が絶えず流入し、相互に適応しながら同じ寄稿と生活条件の下で一つの全く独特のタイプの国民を作り上げたとは何たる奇跡か!” いまのブラジルを見る限り、ツヴァイクがブラジルの現実をどこまで正確に表現しているかわからないけれど、確かに代表選手たちを見るだけでも、人種混淆は珍しくもなければ、それがブラジルの自由度を裏付けているようにも思えてくる。

ブラジルへの郷愁

レヴィ=ストロース(中央公論新社)

1930年代にレヴィ=ストロースがブラジルを旅した記録であり、文化人類学、構造主義のバイブルともなった『悲しき熱帯』が出版された1955年から39年後に出版された、その30年代の旅で撮りためた180枚の貴重な記録写真に言葉を寄せた写真集。
第二次大戦を経て、近代的な科学兵器やヒトラーの純血主義と非人道的な行為によって多様性が踏みにじられた経験からかはわからないけれど、レヴィ=ストロースは、侵略と近代化によって失われていくブラジルの民族と風習と暮らしを丁寧に写真と言葉によって記録し、ヨーロッパ中心主義を批判した。プロローグでもレヴィ=ストロースは、地べたに座るインディアンや粗末な土器しか作れず、織物も草木を編んだ簡単なものしかないということを自分が示したからといって、“読者は彼らが人類の未開の姿を表していると思い込まないようにすべき”だと改めて警告している。
そして“インディアンのなかで、われわれの目には最も物質的に貧しいと思われる人々のうちにも、数千年のあいだ奇跡的に保存されてきた古い生活様式の生きた証をみるべきではない.そうではなく、彼らは、彼らの先祖にとって大異変であった[白人による][発見]とそれにつづく侵略の被害を免れた、最後の人たちなのである”。賞賛すべきは、インディアンたちが人口をどれだけ減らされようと、“生命力をもった社会を再生させ、社会という状態を発明し直した”ことなのだ。安全、安心、すべてがエレクトリックになっていく日本に生きて、ブラジルを未開と見るのは簡単にして、盲目的な見方なのだ。ブラジルは国そのものがその多様性を体現しているとも言える。
 

ブラジル・カルチャー図鑑 ファッションから食文化までをめぐる旅

麻生雅人、山本綾子(スペースシャワーブックス)

ブラジル・カルチャーと言われて何を思い浮かべるだろうか。サッカーはもちろんだけれど、カーニバルにサンバ、ボサノヴァ、建築好きならオスカー・ニーマイヤー、ストリートカルチャーが好きならグラフィティのオズ・ジェメオスという人も多いかもしれない。本書は、ファッションやアート、建築、フード、音楽、祝祭、暮らし、そして歴史など、ガイドブックには載らないリアルなブラジル各地のカルチャーやライフスタイルを現地在住の日本人が中心となって分かりやすく紹介している。
正直、こんなにブラジルのことを知らなかったのかというほど新鮮なことばかり。どうしても映画「シティ・オブ・ゴッド」やドキュメンタリーなどで見るアマゾンの印象ばかりが先行し、人々の間で息づいている文化があまり見えてこなかった。移民文化が生んだ多様やフードスタイルや現住民族の文化との混淆から生まれた装飾品のセンス。突発的ではなく、多くの人を受け入れ、開拓し大きくなってきたブラジルの懐の深さとおおらかさ、そして今なお残る圧倒的な自然と古代からの文化のミックスは、ブラジルに自由とポジティブな空気を満たしている。
載っていなかったけれど、ブラジルといえばジゼル・ブンチェンを始め、超絶美人なモデルを多数輩出している国でもあるということを最後に言っておきたい。五感をフル回転させて楽しめる国、それがブラジル。
 

ブラジル(世界のともだち)

永武ひかる(偕成社)

世界36カ国を写真家が訪ね、衣食住を中心に子どもたちの暮らしを撮りおろし、紹介する「世界のともだち」シリーズ。ブラジル編で登場するのは、リオデジャネイロの“陽気なカリオカ”のミゲル、11歳。“カリオカ”はリオで生まれた人のこと。11歳の少年を通して、家族との関係、親戚との付き合い、学校、季節の行事、サッカーばっかりやっているわけではない子どもの遊びなどを見ていくことで、ブラジルの中流(以上の)家庭(お父さんは大学で教える音楽家で、お母さんは国家公務員)がどんな生活をしているか、どんな社会の中で大きくなっていくのかがわかってきます。何も知らずに写真だけ見ていると何の問題もない幸せな家族に見えながら、実はお父さんとお母さんは離婚していて、すでに再婚もしているのだという。お母さんは、ミゲルとお姉ちゃんに、時間を掛けて説明し、いまでは父方の再婚相手も含めた大きいゆるやかな家族関係が続いているのだそうだ。どの家庭もそう上手くいくわけではないだろうが、どこかブラジル的な気質も関係しているのかもしれない。
これを読んで旅行前の情報にという本ではないけれど、毎日に楽しみを見出そうとする子どもの視線というのは、その国を知るのにちょうどいい。2012年には自然が美しく調和する都市として、リオ全体が世界遺産に登録され、今年のW杯、そして2年後にはリオ・オリンピックが開催される。2010年代、2年毎に大きな国のイベントを迎えるブラジルのポテンシャルはこうした子どもたちが担っている。
 

アントニオ・カルロス・ジョビン - ボサノヴァを創った男

エレーナ・ジョビン(青土社)

ジョアン・ジルベルトのアルバム『想いあふれて』の裏に書かれた「このバイーア出身の新しい才能(BOSSA NOVA=ボサノヴァ)」という言葉から、ボサノヴァという音楽は名付けられ誕生した。そしてその言葉を書いたのが、作家ヴィニシウス・ヂ・モライスと共に『想いあふれて』を作ったアントニオ・カルロス・ジョビンその人だ。ボサノヴァは、誕生してすぐ大学生たちの若い人々に、若い自分たちの感覚に合う、新しいスタイルを持った完全にブラジル製の音楽として熱狂的に受け入れられる。
その後、アメリカへと渡ったボサノヴァ。ジャズの影響を指摘されると「ジャズは知らない」と言い続けたジョビンは、ボサノヴァを「ラテンジャズ、ブラジルジャズと命名しても、意味はない。こういうカテゴリーからブラジルを解放することが必要」だと、ブラジル独自の文化を常に意識し、声にしていた。そのことをわかっていたジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクは、「ニューヨークのインテリたちに音楽ジャズに欠けていたものをもたらした。すなわち、リズム、スウィング、ラテンの情熱」だと語った。
ジョビンの妹エレーナによる本書は、侵攻と虐殺、混血化によって成り立ってきたブラジルにおいて、家族という最も信頼のおける存在だからこそ書けたものであるのは間違いない。エコロジストとしてブラジルの自然を護ろうとした男ジョビン。ボサノヴァは、ブラジルの持つ気候風土、国民の気質、生きる環境が生んだブラジル製の音楽だ。ボサノヴァをいかに聞くか、ブラジルを楽しめるかどうかは、そこにヒントがあるかもしれない。
 

閉じる

幅 允孝(はばよしたか)

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。
国立新美術館ミュージアムショップのスーベニアフロムトーキョーやTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、LOVELESSなどにおける本のディレクションや、d-labo(スルガ銀行ミッドタウン支店内)などのライブラリー・ディレクションを手掛ける。ほか、編集、執筆、ディストリビューション等、本周りのあらゆる分野で活動中。最近では、渋谷のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、銀座のHANDS BOOKSがオープンしました。
BACH : http://www.bach-inc.com

ページの先頭へ