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竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

カメラ/FinePix S100FS 提供/富士フイルム株式会社

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第百四十三試合

国際タイトルのボール

今年もスルガ杯こと「スルガ銀行チャンピオンシップ」を観てきた。4回目でやっと駿河国で開催でき、ジュビロのみなさん、スルガ銀行をはじめ関係者のみなさんは誇り高いことでしょう。おめでとうございます。
 
専門誌にも書いたのだが、ジュビロの10番・山田大記が特に良かった。相手ボランチとCB、屈強な4人の男の間にできた小さなギャップにするすると入り込んで、味方からのボールを引き出す。おのずと相手ディフェンスは中央に絞り、ジュビロは頻繁なサイドチェンジを繰り返すことができた。「ゲームにのリズムに乗れなかった。そして自分たちのゲームに入るまでの時間が永遠に感じられた」と敵将・アントニオ監督が嘆いたとおり、序盤はジュビロのサッカーだった。欲をいえば、サイドチェンジのボールにもっと緩急をつけ、攻撃のスイッチのようなスピードのあるパスが混ざるとより強い意思を持った攻撃ができるのではないだろうか。今後のリーグ戦の課題ともなりうる部分だ。
 
ただ、主導権を握ったからといって必ずしもリードがもらえるわけではないのがサッカーで、こと南米のチームには一瞬の油断が命取りになる。インデペンディエンテはセットプレーから不運なオウンゴールで先制を許すが、33分には右CKからトゥッシオが、48分にはパッラが3人に囲まれつっかかりながらも無理やりボールを運び、慌てて飛び出してきた川口までもチップキックで抜き、ネットを揺らす。いくらチームとして連動できてなくても、ゲームに入り損ねてもセットプレーや個人技で大挽回してみせる。このへんの言語化しづらい勝負強さというべきものがまだまだJクラブには備わってないのだろうか、逆転されてしまう。
 
それにしてもサッカーっていうスポーツはどのゲームを観ても、発見や息を呑む瞬間や語るべきプレーが存在するなあと切に思う。前述の個人技や山田大記の警戒に値するポジショニングもそうだ。迷いなく右足を振り抜き同点ゴールを記録した荒田智之の大仕事。持ってるキーパー・ヨシカツ先生のPK連続ストップ。南ア以来だという駒野のPKはキックというよりその所作は敬虔な祈りのようにも見えた。そのすべてを誰かに話したい、伝えたいという衝動こそがひょっとしてスポーツの、サッカーの持つ力で、たぶんそれをスルガ銀行は強く信じ、こういった意義ある大会を続けているのだろうな、ともフと思った。
 
もうひとつ、何よりも僕が嬉しかったのは、インデペンディエンテの選手が本気でJクラブを倒しにきていたことだった。表彰式でジュビロの選手がぴょんぴょんはしゃいでいるのを横目にして、ベンチ脇のパイプ椅子をブン投げていた選手がいれば、体育座りをしながら手元の芝をプチプチといじっている選手もいたし、スタンドではサポーターが怒り狂ってペットボトルを投げ入れ汚い言葉を吐き続けていた。
 
おお、そうか。お前ら本気で勝ちたかったし、悔しいのだなあ。と僕は日本人としてにやりとしてしまう。ひょっとして南アで日本代表がカメルーンやデンマークに勝った時より心が動いたかもしれない。僕らにとって、欧州カップ戦やW杯、トヨタカップなんていう国際タイトルはかつて手の届かないものだった。でも今はこうして世界の人々に敵とみなされ、悔しがらせることができる。世界のサッカーに参入できている。そうして芽生えつつあるプライドを胸に、来年はどのJクラブがどのチームを迎えるのだろうか。まずはナビスコ杯が楽しみだ。
 
そして最後になってしまったけれど、松田直樹選手、たくさんの熱いプレーをありがとうございました。僕には「ご冥福」なんて実は意味も知らないそんな定型文で、マツさんに何かを言うなんてできません。俊輔が「今にも動き出しそうだ」と言ってたけどそれは本当で、コチシュやガリンシャと1対1を楽しんでください。抜かれんなよ。

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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