いま、おおね公園にいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

カメラ/FinePix S100FS 提供/富士フイルム株式会社

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

Profile

第百四十四試合

大根のボール

僕がボールを蹴り始めたのは「大根ラディッシュ」という冗談みたいな名前のチームだった。野菜ではなく「おおね」と読む。「だいこん~」なんてバカにされることもよくあったけど、僕らは強かったので、いつも試合で倍返しにしてやった。本当だ。大会に出場すればだいたいメダルは持って帰ってきたし、6年生の時は神奈川県を制したことだってある。僕は決勝戦でエガミ君のヘディングをアシストをしたのだ。思えばあれが僕のピークだったのだろうなあ(遠い目)。
 
ラデッシュの代表は創設の1977年からずっとタヤマ監督だ。噓と裏表がなくて、いいプレーはきっちり褒めて悪いプレーはしっかり叱る、きっぱりした人だ。みんなにはそのまんま「カントク」と親しまれ、良くいえば「老後にサーフィンを始めたジョセフ・ゴードン=レヴィット」で、悪くいえば「ダイエットに失敗した松崎しげる」といった風貌だ。とにかく年中、日焼けしている。カントクはゲームで使える、たとえばゴール前での強烈なシュートや相手ラインの裏に転がすパスやトラップでの方向転換など、それらのコツだけは教えてくれるけど、基本的に練習はゲーム中心だ。これはあとから聞いたのだが、個人技を重視するとどうしてもゲームから学ぶことが多いので「とにかくピッチで学べ」と自由に遊ばせた、とのことだ。でもカントクもよく楽しそうにプレーしていたから、ひょっとして自分がサッカーしたいだけだったかもしれない。なんにしても僕らはビックリマンよりキンケシより練習が楽しくて、ほとんどサボらなかった。
 
そう考えると僕は少年サッカーでタヤマ監督の下でサッカーの楽しさを知り、ベルマーレでアダチコーチと共にサッカーの難しさに挑み、西湘高校でコジマ先生からチームプレーの尊さを教えてもらった。恩師と仲間に恵まれた理想的なサッカー人生だったなあ、と本当に思う。才能には恵まれなかったのが残念だ。
 
話を戻す。少年サッカーの世界には「○○招待」という言葉がある。招待というのは「杯」と同義で、僕らの場合は「大根招待」、つまり交流のあるチームや興味のあるチーム、対戦してみたいチームに声をかけての大会だ。だいたい16チームくらいだろうか、毎年、お盆前の土日で開催する。土曜日は予選、日曜日は決勝トーナメントだ。僕らの代は当然のように優勝したけど、今のチームは予選を2位で通過したものの、決勝トーナメントの1回戦で町田FCに惜しくも負けてしまった。
 
試合後、カントクと話した。「フリーライターなんてお前もヤクザな商売してんなあ。Jリーグ並みに不安定だろ?」と図星を突かれたので、僕も「決勝観に来たのになあ。負けるもんなあ」と生意気に言い返す。少年サッカーの現状について質問すると「少子化で人数は減ってるんだけど、チームは逆に増えている。ここ20年くらいでサッカーが飛躍的に人間育成の一貫として公的な部分で認められたし、日本中どこに行ってもJのチームはあるし、テレビをつければプレミアだリーガだ、って観ることができる。それによる裾野の広がりには手応えがある」と教えてくれた。レベルについても「昔みたいに突出した選手は少なくなったかもしれないけど、全体的な技術は上がっているのでチームとしていろんなサッカーができるようになった」という。確かにグラウンドに目を向けるとプレスとかチェイスとかシャドーとかリトリートとか、当時の僕らが知らなかった言葉が確かに存在する。
 
「じゃあ、マーが今のチームに入ったら、レギュラー取れないですかね?」マーというのは僕らのセンターハーフでマリノスにスカウトされた絶対的なエースだった。「いや、あいつはスーパーだった。即、レギュラーだろ」「じゃあさ、タケウチは?」タケウチ君は1つ下の主将でユーティリティ溢れる選手で、彼が飛び級で僕らのチームに合流すると、ところてんのようにピッチから出されるのは何を隠そう僕だった。「タケウチも間違いなくチームの中心だ。欲しいねえ。お前らの代はいい選手が多かったからな」「じゃあさ、じゃあさ、オレは?」といちばん聞きたかったことを聞いてみるが「うーん。微妙」だそうだ。相変わらずキッパリしているカントク、今後もラディッシュの活躍を期待してます。ふんっ!

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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