いま、ゴール前にいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第百四十五試合

ストライカーのボール

同い年の左サイドバック・オオシタ君と飲んでいたが「この国の首相というポジションの軽さったらなんたることだ。今は与党も野党もないだろう。大連立だあ!」なんて議論が交わされるワケない。「人生においてオレたちは一体、何点くらい取っているんだろう」という疑問がふとよぎり、フットボールアニマルによる不毛なフットボールシンクタンクが開催されただけだ。
 
しかし、左サイド一筋の彼も、主にボランチだった僕も、あんまり得点の記憶がない。「失点のほうが多いし覚えてるな」と彼は言う。そうかもしれない。「ベストゴールは?」と問われても即答できない。ひょっとしてオレたちってインパクトレスのプレーヤーなのかな、と不安になったから、僕らのチームのストライカー・ヌクイ君を呼んでみた。
 
ヌクイ君はトムフォードのメガネが似合うナイスガイだ。遊びに行っても合コンでもいつも楽しそうにニコニコしてて、何かに悪態をついた場面なんて見たことがない。愛犬はかわいいし、献血も頻繁にしている。この前、カフェで隣のおばはんにコーヒーをこぼされても「冷てえよう」と笑っていた。そんなヌクイ君だが、ゴール前ではムキ出しで丸出しのエゴイストである。決してテクニックがあるわけではない。でもとにかく打つ。コースがふさがれてても角度がなくても横にフリーな選手がいても、彼のプレーは絶対にシュートで終わる。PKやFKを獲得すると当然のようにボールをセットするし、僕がどんなに美しいシュートを決めても「ナイス」とは軽くいってくれるけど、「でも、オレもさ打てたから(パス)ちょうだいよ」と真顔で要求してくる。この前の試合ではハーフタイムに「タケ、ワンツーが効果的だからさ。ワンツー使って突破しようよ」というので4度ほど彼に預けてスペースに抜け出したが、1度もリターンはなく無理やりフィニッシュまで持ち込んでいた。試合中は「ずっとオレのターン」と思ってるっぽい。
 
そんなヌクイ君に文句があるといえばあるんだけど、僕らはあんまり言わない。正確には言えない。ヌクイ君はとにかく得点を量産する。サッカーはゴールゲームだから僕がどんなにキープ力に長けていても、オオシタ君がピンポイントでクロスを送ることができても、それはなんの記録にも残らない。スコアをした人が王様だということを思い知らされ、またヌクイ君のことを考えるといっつも元ブラジル代表の“フェノメノ”ロナウドとリンクする。ロナウドは練習はサボるし、守備はきらいだし、シャワーは長いし、とにかく困ったヤツらしい。でも彼がなんであれだけ愛されるかというとそれはシンプルで、点を取るからだ。ミスだってする。時には罵倒され戦犯に挙げられる。それでもストライカーとは、身長とか髪型とか肌の色とか前歯とかそんなん一切関係なく、シュートを打ち続ける強い人間なのだ。
 
ヌクイ君が来た。オオシタ君と僕は酔っていて「おい、お前のベストゴール言ってみろよ」「オレらのアシストで何点取った?感謝してるのか?」ちょっと絡む。彼はそれらの質問をいつもの爽やかな笑みでかわしてビールを飲む。それでも僕らは質問を変えてチェイスする。「お前、シュートミスとかするよな?ミスしてみんなに怒られる~とか思わないの?」「うーん、うまくいえないけど、ミスしちゃうから何度も打つんだよ」「はあ?」「オレね、あんまりサッカーうまくないからミスするでしょ。その度に危機感を募らせてるんだ。やべーやべーもうサッカー呼んでもらえねえって。それがゴール前でエネルギーになって、そんでね、ゴールするとね、ぜんぶチャラになる。その安堵が快感に昇華する瞬間がたまらないんだ」ハッキリ言ってさっぱりワケ分からん。でも彼は彼の世界でゴールを量産することで折り合いや辻褄を合わせて生きているのだな、ということはホッピーに切り替えて痺れ始めたアタマでも少し理解できた。しかし、ストライカーというのは、ヌクイ君みたいな思考のヤツがいれば、「ゴールがあるから蹴るんじゃない、俺が蹴るところにゴールがあるんだ」 と語るガブリエル・バティストゥータのようなヤツもいる。どこまでも感覚的で刹那的でオリジナルの生き物だ。次はそっち側に生まれてみたい気も、ちょっとする。

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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