いま、名もないグラウンドにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

カメラ/FinePix HS50EXR 提供/FUJIFILM

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

Profile

第四百四十三試合

旅とボール

今年は思いがけず旅にたくさん出た。カーリングの五輪シーズンだったので、北見市常呂町や軽井沢や札幌などホールのある場所、あるいはその近辺にそれぞれ2週間以上滞在したし、カナダはエドモントン、レスブリッジ、レッドディア、カルガリーバンクーバー、アボッツフォードなどなど、どこやねんそれ的な街にも行ってみた。その合間に合衆国に寄って姉の一家にも会えた。
 
国内でも年越し三浦キャンプから吹田天皇杯と八尾新年会を無理矢理つなげて、京都、旭川、盛岡、陸前高田、白馬や野沢温泉、那須や富山、なんば、諫早、広島、神戸、博多、名古屋、明石、鳥取、湯河原、新島、掛川に三島に清水に浜松etc…。我ながら蜿蜿とよく出掛けたと思う。各地で乾杯してくれた方々、ありがとう。
 
師走にまた、軽井沢でカーリング取材。続けてソウルに飛んで平昌や江陵の五輪現地取材をしてくる。年末は勿来で恒例の忘年合宿を敢行する。
 
取材と遊びの境界線がまことに曖昧なのはフリーランスの特権だが、ただの糸の切れた凧とも思えるので、そろそろ誰かに手綱を持ってもらうためにケッコ……という話はやめておこうか。ごほん(咳払い)。
 
上記の旅程や投宿地はすべて手帳に書いてあるが、今年は11月末の時点で自宅にいた日を数えたら170日だった。12月の予定を加えると、2017年は180日外泊する計算になる。
 
前置きが長くなるのは僕の文章の悪い癖No.55(全部で108つある)だが、何が言いたいかというと、たくさんいろんなところに行っているのだから経費よこせでも、俺って世界を股にかけているぜという寒い自慢でもない。経費も欲しいし、自慢もしたいのが本音だが。
 
旅は楽になったなあ、である。
 
エアもホテルも指先で予約できるようになったし、面倒な英語の交渉もインターネットや翻訳サイトが解決してくれる。そのおかげなのか、各地で日本人観光客を見ることも増えた気がする。若い人も多い。
 
そして「かわいい子には、いとしき子には旅をさせよ」は死語になりつつある。
 
本来は、「慣れ親しんだ土地から抜けて、未知の場所で過ごす、あるいは暮らすことは困難が多いが、親元を離れて体験することすべてが成長を促すものとなってくれる」のような意味で、「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」と併用されたり、類似されたりするような意味だと僕は認識している。
 
しかし、最近は親のカードとスマホさえ持っていれば困らない。ポケットwifiを持参して、ライン電話で本国と簡単に無料で繋がり、パリやニューヨークだとブランド品まで買ってくる。
 
嫉妬も入っているのだろうが、なんだかなあと思うこともある。僕も便利さの恩恵で仕事に遊びをくっつけたり、あるいはプライベートでサッカーネタを拾ったりできているわけだが、旅ってこんなもんだったかなあ、でもこれってないものねだりなのかなあ、とも考える。思考は座礁し、動きを止めてしまう。
 
そういう時、僕にはサッカーがある。盛岡で雪中サッカーを見て、カーリング選手と最近の欧州事情を語り合って、三島や名古屋や軽井沢やバンクーバーでボールを蹴った。その都度、友達ができて美味しい酒を飲めた。世の中が変わっても僕の楽しいもの、大切なものはそう簡単に揺るがないよなあ、と思えた。それに気付けただけで、遠くに来た甲斐がある。
 
写真はカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の国境の街・アボッツフォードで見かけた、雨上がりの午後のグラウンドだ。ここからSumas Wayをまっすぐ南下すれば、すぐにアメリカだ。ワシントン州に至る。
 
シアトル出身のビル・ゲイツは「The problem is the future. So I do not look back the past」と言った。いつも問題は未来にあるから、私は、過去を振り返らない。確かにそうだ。世の中の変化を憂いたり、自分の周囲を確認したって何も起こらない。それよりも自分が楽しめる未来をイメージして探る方が有意義だ。今後も旅に絡みとられ、球に引きずられる毎日が続けばいいなと夢想する。甘いだろうか。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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