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竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

カメラ/FinePix HS50EXR 提供/FUJIFILM

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

Profile

第四百四十四試合

引退とボール

土曜日、原稿を書かないといけなかったが、そこそこ頭が痛い。二日酔いから抜け出すべく熱いシャワーを浴びて、インスタント味噌汁を飲んだら少し元気が出てきたので、プライマルスクリームででたらめに踊っていたらサカモトから固定電話に着信があった。
 
サッカーに誘われていたのだった。「お前、来ないの?」「行くって言ったっけ?」「いや、原稿終わったらって言ってた」「終わらなかった。ごめん。頑張って」「ふうん、またな」と、淡白な会話を終えて、またでたらめ踊りに戻った。なんとなく胸にはわだかまりが残った。
 
ありがたいことに、いまだにサッカーはみんなが誘ってくれる。賑やかしでも人数合わせでも嬉しい。しかし、僕のこの1年くらいの出席率は低い気がする。この日だって「原稿終わったら行く」と答えてたら、以前はしっかり終わらせてやったし、二日酔いでもなんでも起きたはずだ。もっと言えば原稿なんか終わらなくてもサッカーして、その勢いで原稿を書いた。
 
もちろん、仕事や原稿を優先させることは悪いことではないと思う。むしろフリーランスとしては当然だろう。原稿だけでなく、スポーツイベントが多い週末にはスケジュールが合わないこともある。仕方ない。そう結論づけて机に座ったのだが、なんとなくyoutubeで小栗旬の味の素のCMを見てしまって、豚汁いいなあ、と思って作って食ったら眠くなって昼寝してしまった。サッカー行けたじゃないか。
 
なんかヌルくないか? プライオリティのトップはグラウンドでボールを蹴ることではなかったか。そうやって生活の、仕事のリズムを作ってきたのだが、何かが変わってしまったのだろうか。
 
急激に怖くなってきたので、この前「もう腰が痛くて引退したよ」とか、ナメたメールをよこしてきたキノシタに「引退ってなんだ。俺ら草サッカーにも引退なんてあんのか。勝手に決めんな。もっとやれよ」と、自分はサボって行かなかったくせに電話した。ほとんどヤカラである。
 
キノシタはケンドーコバヤシそっくりな声で「あのな、サッカーもいいけど、優先すべきことがそれなりにあるだろう。俺はそれが家族との時間なんだ」と至極真っ当なことを言った。怪我や病気も増える。仕事や家族に時間を割く。大人として当然のことだ。
 
だからって引退とか勝手に決めんなよ、となおも食い下がる僕に「分かった、正月明けくらいに飲もう」と言ってキノシタは電話を切った。多分、そう言わないと解放されないと判断したんだろう。いい読みだ。
 
なぜ僕はサッカーをサボったのだろう。行く頻度が減ったのだろう。
 
サッカーがつまらなくなったから? ノーだ。
 
ボールの行方に一喜一憂し、時に知らない選手に全幅の信頼を寄せ、大切なボールを預ける。ゲーム展開はいつも、入口と出口がまったく違うスリルに満ちてる。運び、迫り、ゴールを奪った時の喜びはちょっと他では得ることができない。
 
自分が活躍できなくなったから? それはイエスともノーとも言える。
 
昔は一番槍としてボールを相手陣内に送り込んで、自分も進入していったのだが、機動力がなくなってきた今はピッチ上のオーパーツとしてぽつねんとセンターサークル付近を縄張りにしているだけの時がある。それでも、だからこそ、前述のような喜びは凝縮されるし、色々なものに抗う面白さが出てきた。
 
書いててよく分からなくなってきたので、ともかく来週はサッカーを観て、サッカーをしようと思う。
 
ちょうど、石川直宏選手の引退試合がある。引退とはなんだ。サッカーとはなんだ。教えてくれるだろうか。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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