いま、ChachaTower横の芝生にいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百七十八試合

続バトゥーミのボール

ギックリ腰になったけれど、意地汚い僕はうまいもんだけは食いたいので、原付バイクを借りた。
 
黒海沿いを北東に進み、貨物ターミナルを超えたあたりにフィッシュマーケットがあって、その周辺には安くてうまいシーフードレストランがいくつかあると、昨夜、僕からなけなしの100USドル(ジョージアはロシア同様、USドルやユーロがレート的に使いやすい)を不当(いや正当にだけど、ブラックジャック3連発なんてずるい)に奪ったカジノのディーラー、クニアちゃんは言っていた。
 
ちょっと早めの時間に行ってゆっくりシーフードを楽しんで、どっかでワインとオリーブを調達して部屋でゆったりと飲みながらアルゼンチンとクロアチアの試合を観る。そんなパーフェクトプランを立てていた僕だ。
 
でも、寄り道をしてしまった。貨物ターミナルに向かう途中、フェリーポートのすぐ横の芝生で数人がボールを追っていたからだ。
 
昨夜の金網デスマッチはスキルも高くガチだったが、こっちははっきり言ってうまくない。スニーカーでゲラゲラ笑いながらユルプレーを繰り広げていた。とても微笑ましかったのでカメラを構えると、ピースとかしてくれる。
 
彼らは近くの店、といっても店舗を構えている類のものではない、レンタルバイク、お土産屋、ディナークルーズの客引き、ザクロのジュースを絞る屋台などの店員あるいは家族だった。そのせいか英語もちょっとできる。
 
ゲームは基本的には3対3だけど、時折、誰かが「おい、クリス、ちょっと店番しろ」みたいな感じで呼ばれてしまう。その度に数的不利になったチームは、わざと痛んで芝生の上を転げ回ったり、四つん這いになってボールキープしたり、遠くにクリアして時間を稼いだりする。アイスホッケーでいうところのキルプレーだ。黒海マリーシアと呼んでもいい。
 
僕が観戦しながらゲラゲラ笑っていると、「ああ、あいつがいるじゃん」という感じで呼ばれた。ぎっくり腰なのでGKを志願する。まあまあ、いいセーブもできたと思う。クリス君が戻ってくるとまた観客に戻る。それを何回か繰り返した。
 
途中、給水の時に彼らと話した。日本からW杯を観に来たけど、せっかくだからジョージアにも来たんだ。そう自己紹介すると自分の国に来てくれてありがとうとリアクションされると思ったら「何を考えてるんだ勿体ない。バカじゃないか。俺だったら野宿してでもロシアに残る」的なことを散々に言われてしまった。
 
聞けばメンバーのひとり、ラッシュ君の叔父さんはロストフ・ナ・ドヌの韓国vs.メキシコを観に行く予定らしいのだが、そのまま帰って来ないんじゃないかとラッシュ父に思われていて、「毎日、『絶対に帰ってこいよ』ってオヤジは言っている。けど、叔父さんは笑っていてイエスって言わないんだ」と割とデリケートな家庭の事情を明るく話してくれた。
 
彼らと話をしているのは楽しくて、気づけばフランスvs.ペルーは前半を終えていた。これからシーフードレストランに行くと、アルゼンチンvs.クロアチアまで見逃すかもしれない。それを相談すると彼らは、「そのあたりのレストランは高いからやめておけ。いいパン屋を紹介してあげるから。そこのピザは大きいよ」と旧市街のパン屋まで連れてってくれた。
 
確かにそこのピザは巨大だった。そして日本のデリバリーピザだったらMくらいのサイズが、6ラリ(300円くらい)だった。そんなに食べられないので、店の人にお願いしてカットしてもらい、彼らと分けた。
 
僕はアンチョビが特に多く乗った3枚を選ばせてもらって、近くのスーパーで冷えた白ワインを買って、部屋に戻った。なかなかリーズナブルでいい夕飯になった。モドリッチのミドルは最高にカッコ良かった。
 
モスクワに戻る日の夕方、彼らにお礼を言って帰ろうと思ったけれど、激しい夕立が降って来たので会えないままだった。残念だ。
 
でも、また来ようと思う。今度はもうちょっと日程に余裕を持って、サッカーして、シーフードレストランにも行って、この国のトップリーグ、エロヴヌリ・リーガにはディナモ・グルジアというチームがあるらしいので、それも観たい。いつの間にか腰の痛みは和らいでいた。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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