いま、モスクワにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百八十試合

西野ジャパンのボール

グループリーグの1試合を残して僕は帰国したのだが、ロシア最後の夜はモスクワの安宿に泊まった。
 
フロントでチェックインしていると、コロンビアのユニホームを着たガブリエルというメガネ君が握手を求めてくれた。
 
「日本は勇敢だった。あんなにファイトできるとは」「ありがとう。プレーオフでまた会おうよ」「それが最高だな」
 
そんな熱血スポ根マンガみたいな会話ができて楽しかった。そして最終節をこなし、めでたく彼の国も我々の国もノックアウトステージに進出した。彼も喜んでいるだろう。
 
ラウンド16でコロンビアはイングランドに、日本はベルギーに、惜しくも、本当に両チームとも惜しくも破れてしまうわけだが、僕はベルギー戦、とても心を動かされた。あのスター集団と互角に打ち合って、最終的に早すぎる完璧なカウンターで仕留められはしたけれど、ポテンシャルを十分に示してくれた。最高のゲームだった。
 
ただ、この先は批判と反論を覚悟で書くが、「ありがとう。お疲れ様」一辺倒で今回の西野ジャパンを総括する気には一切なれない。
 
まず我々は、ハリルホジッチさんのことを忘れてはいけない。そして二度と同じことを繰り返してはいけない。蒸し返すわけではない。先送りにしていた大切な議論をまた始めようとしているだけだ。
 
我々が熱狂して応援している日本代表を司る日本サッカー協会は、ハリルさんにナショナルチームをお願いしますとオファーをかけて、彼は最低限のタスクをこなした。でも一方的に解雇した。理由はおそらく色々あるのだろうし、真偽のほども定かではないが、それらは関係ない。結果的に一人の指導者のキャリアを損なったのは事実としていつまでも残る。逆に考えれば「日本のナショナルコーチ? 最後でクビにされるんだろ」と、この先思う人だって出てくるかもしれない。
 
後任の西野朗監督は素晴らしい手腕をふるった。短い期間で次々と効果的な手を打ち、日本をベスト16まで押し上げた。それも事実だ。ただ、それはハリルさんの解任と全く別の問題で、違うテーブルで語られなければならない。結果オーライでは決してない。
 
こういうことを発信すると、「空気を読め」とか「冷めるわー」と言われる。挙句の果てには「非国民」と罵られもする。しかし、いつから日本国民とは「理不尽な解雇はさっさと忘れて勝てば官軍」という、結果だけに踊らされる群衆に成り下がってしまったのか。あるいは渋谷で大騒ぎする彼らのほうが、理想の日本国民に近いとでも言うのだろうか。
 
もう少し続けさせてもらうと、例えばスタメン漏洩問題があった。これも真偽のほどは分からない。もちろん、非公開練習を覗き見するのはよくない。関係者が記者に漏らしたとしたらそれも大問題だ。いずれにしても、ルールを守れない輩にはペナルティーが課されるべきだ。
 
ただ、その一方で新聞をはじめあらゆる記事は、日本代表の広報機関では決してない。これは書かないでくれ、書いていいよ、とJFAのお伺いをたてる必要も義理も基本的にはない。報道には自国の利益は関係ないはずだ。
 
誤解されるのは嫌なので何度も書くが、僕はベルギー戦に感動したし、日本代表が決勝トーナメントに進出してくれて本当に嬉しい。でも、ポーランド戦で負けているのに時間を稼ぐというのは、頭で理解していてもやっぱり釈然としない部分もある。時間稼ぎそのものを批判しているのではなく、ただファンとして「攻める試合が観たかったな」と少しがっかりしているだけだ。結果的に西野監督の判断が正解で、その賭けに勝ってくれたので、そのがっかりはベルギー戦で見事に払拭されたが。
 
それでも、明石家さんまさんが「向かっていってほしかった」と正直に発言しただけで「ニワカ」、ここでも「非国民」と叩かれる。彼はきっと「日本代表の勝利」より「面白いW杯のゲーム」を優先するサッカーファンなだけだ。さんまさんに限らず、日本人の中にはエデン・アザールの熱狂的なファンだって、ハメス・ロドリゲスを応援していたバイエルンサポだっているだろう。それを否定することは僕にはできないし、どちらかと言えば共感するかもしれない。僕だって目の前に「アルゼンチンvs.アイスランド」と「日本vs.セネガル」の2枚のチケットを差し出され、どちらかを選べと言われたら前者を選んだかもしれない。どうしてW杯を観ているすべての日本人が日本代表を手放しで応援していると決めつけるのだろうか。
 
ファンやサポーターそれぞれ一人一人に立ち位置や持っている知識、抱いている熱量に差異があるのは当然のことで、受け取り方や考え方は人それぞれ。ハリルホジッチさん解任も、スタメン漏洩も消極的なポゼッションも、千差万別の意見があるべきだ。
 
そして何にもっとも違和感を抱くかというと、サッカーファン、あるいは熱狂的なサポーターの中には「いや、それは違う」「絶対、4-3-3のほうがいい」といった否定や断定をくだす人があまりにも多いことだ。一部は「お前は分かってない」「ニワカは黙れ」といった強い言葉を、しかも匿名で用いる。ニワカも楽しめるのがW杯の素晴らしい部分なのではないか。ニワカがいなくなったらサッカーのマーケットは縮小されていく一方だ。閉塞感が漂い始めたサッカー界に既に辟易して、ロシアに向かわなかったジャーナリストやカメラマンを僕は何人か知っている。
 
議論は活発であるべきだし、サッカーのフェアで冷静で聞く耳を持ったそれは、最高の肴だと僕は信じている。
 
広いところから出る意見はサッカーの発展や強化のために必須だ。
 
何よりも誰かを攻撃する権利は誰にもないはずだ。まずは暴力的な物言いだけはなんとかならないか。ピッチ外の無駄なマウンティングは楽しさを妨げることしかしない。
 
ベスト16という結果がどうだったのか? スペインとポルトガルとアルゼンチンとメキシコと肩を並べた。でも1人少ないコロンビアにしか勝っていない。どちらも本当のことだ。貴方はどう思いますか。建設的でフェアな議論をぜひさせてください。もちろんビールを飲みながら。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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