いま、済州ワールドカップスタジアムにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百八十三試合

6年後の済州島のボール

2012年、大型連休にからめて韓国最南端の島・済州島に2週間、滞在した。作家の椎名誠さんの書き下ろし紀行のお供だ。顛末は『あやしい探検隊 済州島乱入』(角川文庫)にあるが、朝からビールを飲み、昼はマッコリをあおり、夜はソジュで乾杯する。現地出身でガイドをしてくれたキム・ドンス君は「皆さんは済州島の取材でいらしたと思ってましたが、朝から酒を飲んでカジノに出かける。これのどこが取材なんですか?」と聞いたくらいマーベラスな旅だった。
 
もともと、この「日々是蹴球」は仕掛け人の選書家・幅允孝さんから「ボールはどこにでも転がっているから、どっか行ったとき、余力でいいのでサッカーのコラムを書いてください」と、かなり許容の広い依頼で始まったものだ。だからその済州旅のさなか、Kリーグの済州ユナイテッドのゲームを観て書いた。第百八十二試合「済州島のボール」だ。当時はスタジアムMCみたいな人がずっとがなっていて、スタンドではアガシが踊っていた。
 
あれから6年経って、また済州島に来た。ここは中国人にとって、世界で唯一ビザなしで滞在できる異国らしく、中国人相手のレストランやカフェ、ホテルが増えていた。
 
ワールドカップスタジアムにも変化があった。あれだけ元気にがなって踊っていたMCもアガシダンサーズもいなくなっていて、10数人の太鼓を持ったリズム楽隊がサポーターの中心に据えられていた。踊りながら叩いていて、結構かっこいい。なんというかしっかりサッカーのプロリーグの現場になったなあ、と嬉しく思った。もともと、掘り下げられるように作られたスタンドはとても観やすいし、選手との距離も近い。サッカークラブにとってはそれだけでも大きな財産だ。ここ数年はKリーグでも常に上位にいるし、阿部勇樹に肘打ちさえしなければもっと強くなるのかなと思う。
 
この日の慶南との対戦だが、試合前とハーフタイムには散水していたように、済州ユナイテッドは細かくパスを交わすサッカーだった。セレッソにいたこともあるトップのブラジル人アタッカー、マグノ・ダマセーノ・サントス・ダ・クルスが最大の武器で、彼にボールが回るとスタジアムが湧く。
 
ディフェンス面では割と激しいボール狩りを敢行していて、ロシアに行ったオ・バンソクはベンチ入りしてなかったが、それでもプレッシャーは早く重そうだった。彼がいたらもっと厄介かもしれない。
 
スコアは0-0。観客は3111人。スタジアムにはスーパーが隣接していて、そこで仕入れてきたフライドチキンをシェアしている家族もいるし、手をつないで観戦しているカップルもいる。これも隣接している映画館の『ハン・ソロ』の上映開始が気になって、試合なんてロクに観てない子供もいた。島同様のんびりとした牧歌的な雰囲気だった。
 
その一方でタッチラインの内側には、激しいチェイスやいかついボディコンタクトや鋭いターンや卓越したアイデアに溢れている。そのギャップこそが済州島のサッカーなのかな、と勝手に僕は納得した。
 
ところでこのゲームはKリーグの16節、7月11日の試合だったのだが、Kリーグは5月20日14節から6週間の中断期間をおいて、7月7日の15節から既に再開していた。結果オーライなのだが、ロシアで代表が勝ち進んでいたらチームの過半数を占めるKリーガー不在のまま再開してたのだろうか。地元サポーターは「むしろ中断しなくて良かったのに。うちはどうせ代表選手一人だし」と勝手なことを言っていたが、そういう代表とクラブの共存はサッカーの妙味ではある。この島のサッカーは、まだ進む気がするので、また4年後あたりに来ようと思う。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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