いま、ヤンマースタジアムにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百八十五試合

スルチャンin長居のボール

スルガ杯を観に大阪に行ってきた。今年はセレッソ大阪がインデペンディエンテ(アルゼンチン)をヤンマースタジアムで迎えたのだが、インデペンディエンテは大会史上もっとも早い、試合から9日前の7月30日に来日するなど、本気度を見せてくれた。
 
サポーターも駆けつけ、前夜には道頓堀でバンデラッソ(決起集会)を敢行した。しかし、道頓堀というのは海外サポにとって既に有名な決起スポットなっているのだろうか。迷惑がかかっていないのなら、大阪人のノリも相まってそれが文化になってくれることを期待してしまう。
 
翌日、バンデラッソ同様、彼らサポーターは「TODO ROJO」(真っ赤)を合言葉にスタンドの一画を赤く占拠し、試合前からずっと飲んで歌って絶好調だった。
 
肝心のピッチ内のイレブンも身体は動いていたし、タッチも軽かった。順調に調整をほどこしたのだろう。アリエル・オラン監督が、「すべての部分で支配していた」と前半を総括したように、しっかりとボールを保持し、セレッソは前半、たった1本の枠外シュートを打つにとどまった。
 
試合が動いたのは28分。インデペンディエンテのオフェンス陣はサイドを効果的に使ってボールを運ぶ。バイタルエリアのパス交換が少し乱れたが、それがうまくシルビオ・ロメロの前に転がり、彼は最低限のタッチでGKとの1対1を制し、スコアした。
 
暑いし、ひょっとしたらこのままのらりくらりと試合を終わらせてしまったりして、という予感を抱いたのは僕だけだろうか。いいのか悪いのか分からないが、残った約60分、彼らはセレッソをいなし続けた。試合後、オラン監督は「ふたつの危ないコーナーがあった」と振り返ったが、裏を返せばピンチらしいピンチはそれくらい少なかったということだろう。勝ち切る技術、逃げる戦術はやはり南米のクラブは長けている。
 
その一方で、個人的にはセレッソにはもうちょっと前から向かっていって欲しかった。想いや願いがいつもボールタッチに反映されるわけではないが、明らか勝利への執着は不足していた。エルゴラッソは「南米の雄が見せつけた勝利への渇欲」と見出しをつけたが、確かにセレッソはタイトルへの飢えがもっとあっていいクラブだと思うし、もちろん過密日程も鑑みる必要があるが、リーグ戦と両立できるポテンシャルだってあるだろう。
 
あとはそれぞれの選手がもっと自分を試して欲しかった。あの乾貴士だって南米のチームに対しては「正直あまり対戦したことがない」とオフィシャルにコメントを出すくらいだから、南米クラブとその選手とのガチンコはレアなケースだ。メサとのコンタクトでメッシとの距離を測れるかもしれない。これぞ国際タイトルという経験を若い選手がしっかり積み上げていればいいのだが。
 
後半、僕は多くの時間をインデペンディエンテのサポーターと共に過ごしたのだが、彼らは真剣に応援していたし、とにかく声がデカかった。ピッチ周辺に注目しても、サブメンバーやスタッフ、スタンドの関係者、アルゼンチンメディアまでがボールの行方に一喜一憂し、監督はロスタイムが長いとやたらキレていた。
 
そうして一丸となった地球の裏側から来たクラブは、長いホイッスルを聞き、18冠という偉業を達成した。ライバルのボカにトロフィーの数で追いついて大喜びの選手たちは、セレモニーが始まるという関係者のアテンドを無視し、いつまでもぴょこぴょこ跳ねていた。やっと始まったセレモニーでも誰かれ構わずにペットボトルの水を撒き散らして、トロフィーのプレゼンターを務めた田嶋会長も飛沫が飛んできて苦笑いだ。トロフィーを受け取ると代わる代わるに口づけをして、喜びをシェア、増幅させていた。健全なタイトルマッチの光景だった。
 
アルゼンチン在住のライター、藤坂ガルシア千鶴さんのツイッターを引用させてもらうと、「トヨタカップの名残から、アルゼンチンのクラブ/サポーターにとって『地球の反対側に位置する日本まで行ってタイトルをとってくる』ことはとんでもない偉業」らしいが、本当にそうだ。国際タイトルのありがたみと大きさ、南米の選手の思いを改めて知った真夏の大阪の夜だった。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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