いま、ベアスタにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百八十九試合

イニエスタとトーレスのボール

天皇杯のラウンド16でトーレスとイニエスタが激突、共演する可能性があるという。足の指の爪を切るとか自転車の空気を入れるとか、同級生の「嫁のSNSを見たらハートマークを使ってたんだけど、どう思う?」という吐きそうな相談に乗るとか、僕もそれなりに忙しいのだけど、いろんなことをうっちゃって行ってきた。風が強いが、台風は逸れてくれた。少し蒸し暑い夏の終わりだ。
 
残念ながら両雄はベンチスタートだったが、それでもピッチには高橋秀人も高橋峻希も豊田陽平も、そしてルーカス・ポドルスキもいた。Jリーグもだいぶ贅沢だ。
 
宝塚在住のINAC神戸ヲタのイケモトユウイチ(本名)はヴィッセルサポでもあり、「たぶん、郷家友太は化けるぞ」と言っていたので、前半、注目してみた。
 
イケモトは感覚系天才肌のチャンスメーカーが好きなので、郷家友太もそうなのかと思っていたら、走力と推進力を備えたアタッカーで、確かにアンドレスとポルディの近くでプレーしたらフィニッシャーとして化けそうなポテンシャルがある。倒されてもすぐ立つところも良質なFWの片鱗を見せてくれた。
 
ゲームは前半に先制に成功したホームの鳥栖が、後半早々にも追加点を奪い2-0となる。追いかける神戸がイニエスタというカードを切ると、ピッチは動き出した。特にポドルスキは「中央は任せたぞ」とばかりにサイドに陣取り、チャンスを探っていた。
 
ただ、この日の彼のパフォーマンスの質は高くなかった。良く言えば中盤の軸なのだが、結果が出てなければ漬物石と化してしまう。連動性と機動力を欠いていたのは明らかだ。もっと決定的な位置でボールを受けるように彼とチームの意図を一致させないといけないのかもしれない。
 
そういう意味では、イニエスタはリズムやアイデア、動き出しと起点。多くのものをチームにもたらした。特にどっちの方向から敵がどれくらいの強さで寄せてきているか掌握する能力は出色で、それらをかわすのではなく受けていなすというか、身体の残し方が抜群だ。同時にそれを知っていて、常に首を振って周囲をケアしながら彼についていってクリーンシートを生んだ高橋秀人の指揮系統も素晴らしかった。こういう攻防が続けば、日本のサッカーのレベルも面白さも、段違いに跳ね上がるのではないか。
 
0-2だし、トーレスはないかな、でもイニエスタを観られたから十分と思っていたら、64分、大歓声に包まれて神の子は登場した。この写真は直後に撮ったのだが、ピッチ上に3人もW杯を手にした選手がいるなんて、日本サッカー史上、初めてなのではないか。
 
結果はみなさんご存知のように、見事に来日初ゴールを決めて、さらなる大歓声と「can't take my eyes off you」の旋律で「フェルナンド・ドーレス、ららららら~ら」に包まれて、スタジアムはこの日、絶頂に達した。さらにトーレスは短い出場時間ながら両チーム最多タイの3本のシュートを放つなど、ノリノリだった。“師匠”はついに卒業したのかもしれない。神の子の天皇杯戴冠はあるだろうか。
 
帰り際、近くの席に座っていたチビっ子が「走ってるトーレスがカッコよかった」と目を輝かせ、お父さんに伝えていた。お父さんは「そうだね。じゃあ日記に書いてみなよ」とすかさず夏休みの宿題をねじ込んでさすがだった。チビっ子は「うん」と即答していたので、僕も負けずに書こう。
 
それにしてもベアスタは素晴らしい景観とロケーションだったった。傾斜が強いのでピッチとの距離が近く、一体感がある。入場時のMinorityは圧巻で鳥肌が立った。僕がグリーンデイ好きなこともあるが、初見なのにオレオレ歌ってしまった。
 
筑紫平野に面しているので、遠くまで見渡せるのもいい。同じ球技場でいうと、アルウィンは山が迫ってくる感じで、あれもカッコいいけれど、こっちの空の広さも捨てがたい。さて、せっかく九州に来たので、次回はミクニワールドスタジアム北九州からお伝えします(石丸二郎さん風に)。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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