いま、ミクスタにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百九十試合

北九州のボール

せっかく九州まで来たのだから、ミクニワールドスタジアム北九州に行った。
 
昨年できたばかりの球技場で、響灘に囲まれたロケーションだ。クリアで海ポチャがあり、バックスタンドからは関門海峡が望めて、『魚つり禁止』の看板がある愉快なスポットだ。小倉駅から500mあまりで徒歩7分というのは、Jスタジアムとしては新幹線駅からは最も近いのではないか。
 
日頃の行いがいいので、この日は「ギラヴァンツサマーフェスティバル2018」だった。入場者にユニホームの無料配布があり、試合後には花火まで上がるらしい。チケットはA席自由席で1500円だ。
 
実際にメインスタンドに座ってみると、海と街と芝のコントラストが綺麗で、傾斜もあってゲームも観やすい。風も通るし、時々、行き交う船の汽笛が聞こえるのもいい。文句をつけるとしたら、メインスタンド側の芝に難がありそうなくらいだ。
 
そんな僕のプチいちゃもんなんか関係なく、ゲームは気持ちの入った攻防だった。北九州出身の池元友樹が積極的に仕掛け、守備の要である地元出身の川上竜は献身的に最終ラインに立ちはだかった。どちらも先日、拝んだイニエスタのタッチとは違うベクトルではあるが、観るものの心を動かすパフォーマンスだった。ちなみに柱谷采配がズバッと決まって決勝点を挙げMVPをかっさらった途中出場の仕事人、前田央樹も福岡出身だ。地元のスターがスコアして迷わずに黄色く染められたゴール裏に喜びを分かち合いにいくあたり、いろんなものが滲み出ていた。あと個人的には、J昇格のシーズンからずっと歌っているエーデルワイスの節のチャント「唄おう共に同志よ北九州の誇り強く速く激しくさぁ世界に響かせよう」をまた聞けて胸がじんわり熱くなった。
 
そういえば過去には「ぶちくらせ問題」があったけれど、あれも時期が悪くて必要以上に過敏になった人が騒いだだけだと個人的には思ってる。だって関西のクラブはいまだに同じような言葉を歌っているじゃないか。もちろん差別は絶対にいけないし、「喉元過ぎればー」と決して考えてはいない。でも、あれで誰か傷ついたか? とも思う。サポーターのアイデンティティもサッカーを彩る要素で、サッカーってその粗野な部分も魅力的なのではないか。
 
あんまりこの問題について言及するとややこしいことになるのでやめるけど、熱いサポーターの歓声にも守られて、ギラヴァンツはこのまましっかり勝ち切った。貴重な勝ち点3を積み上げた。クリーンシートも4試合連続で維持して、これからもっと良くなっていくのかもしれない。
 
というよりも、もっと良くならないといけない。試合後の海上花火(脳内BGMはもちろん、林檎さまの『長く短い祭』だ)を眺めながら、そう思った。
 
この美しくアクセスしやすいスタジアムがあって、世界のTOTOと地元の雄・安川電機やナフコ、さらには地図のパイオニア・ZENRINがスポンサーで、こんな楽しいイベントの企画運営力を持っていて、熱いゴール裏もある。何よりも100万人近い人口を持つ都市のチームだ。ポテンシャルしかない。のし上がっていくのを楽しみにしているのは僕だけではないだろう。また今度、同い年の本山雅志が現役のうちに来たい。
 
これで九州のJのホームスタジアムは全部行けた。個性があってどこも楽しかった。サッカーが生活に近い場所にある。土着して文化になるのも遠くないと信じている。
 
翌朝、小倉駅で、さて、と思う。山口ではオナイウ阿道が覚醒してレノファがいいサッカーしているらしい。トップリーグで首位を走る紫熊のゲームもチェックしたい。いやいや、大分では同じ少年団出身のサンペーが復帰したらしい。熊本のサポーターにも「また来ます」と約束したし、そういえばミクスタのすぐ奥は松山へのフェリー乗り場だった。ガイナーレも今季は調子良さそうだし、新幹線「さくら」で2時間東に行けばイニエスタのプレーがまた拝める。旅の節目を上手に見つけられないのが僕の400個ある欠点のひとつだ。「次はどこでサッカー、観よう」そう思えることの幸せを噛み締めながら、乗り換えの電車を待っています。東筑軒のかしわめし弁当は買った。ビールはロング缶にしちゃおう。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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