いま、チャンスセンターにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

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第四百九十三試合

ピアノとボール

今季もtotoが当たらない。ACL圏を狙うチームがいきなり残留争いをするチームに不覚をとったり、「そんなの読めるかい!」と、毎週、嘆きツッコンでいる。まあ、だからリーグ戦は面白いのだが。
 
totoを買ったことがあるなら、その使い途を夢想したこともあるだろう。僕なんて週に8度は考える。
 
マンションを買う。高級車に乗る。海外に引っ越す。贔屓のチームに寄付する。CLファイナルを観にゆく。
 
僕はとりあえずエアを手配して飛んでゆくだろう。カンプノウとサンチャゴベルナベウとユヴェントススタジアムとエミレーツスタジアムにオールド・トラフォードにアンフィールド、セルティック・パークとパルク・デ・プランスとアリアンツ・アレナ。トンバ・スタジアムとメディカルパーク・アレナにも行ってみたい。ああ、北米も南米も綾羅島メーデースタジアムもあるなあ、とスタジアムツアーの夢は膨らむ一方だ。
 
ただ、そんなの100万か200万円で済んでしまう。あとの使い途は2つ考えている。
 
まずは謎のピッチ、というほど立派なものではないが、銀座や新宿といった人通りのある繁華街に、本当に一坪でいい。土地を買いたい。そこに上質な人工芝を整備して、簡単にネットで囲いをしてボールを置きたい。ご自由にお蹴りください。もちろん無料だ。
 
想像してみてほしい。国際フォーラムとか三越前とかアルタ前とか新宿南口通路に、一坪のピッチが置かれる。そこでストレスが溜まった人は強いボールを蹴ればいいし、身体を動かしたい人はリフテイングをする。そう、NHKプレミアムの「空港ピアノ」と「駅ピアノ」が大好きなのだ。
 
パブリックスペースにピアノを置くだけのシンプルで、ある意味不親切なあの番組。でも、だからこそ空港や駅の開かれた空間で、人々は思い思いに「ある愛の詩」や「イマジン」や「ピンクフロイド」や「スタンドバイミー」を奏でる。ある人は歌い、ある人は友人と連弾を展開する。
 
それらの選曲と演奏には気分とか旅情も含まれた、その人のバックボーンとストーリーと願いや想いが込められている。あまり身なりの良くない人だっているし、タッチミスをする人だっている。でも誰もがもれなくピアノが好きで楽しそうで、周囲の人も「うるさい」なんて言わずに聞き耳を立てている。拍手も起こる。誰もが少し満たされて上向きになって、交差点である空港や駅を発っていく。音楽っておそらくは、言語なんかよりも強い世界最高のコミュニケーションなのではないか。
 
でもボールだって、音楽ほど上品ではないけど、大きなコミュニケーションツールだ。元サッカー部員が緊張するデートの途中に一坪のピッチを見つけて流暢にリフティングを始めたら、会社帰りのOLさんがヒールのまま器用にトリックを決めたら、なんだか萌えないだろうか。そういう瞬間があるだけで殺伐とした東京の景色も、もうちょっと豊かになると思っているのは、僕だけだろうか。
 
もう一つは田舎に、これはできれば深い森の中とか、風の強い海岸線とか、人があまり来ない風光明媚な場所に天然芝のフィールドを作りたい。ここにはすぐ横に一軒家を立てて、芝の管理をラブラドールか秋田犬と一緒にする。時折、友人が合宿を張りに来たり、通りががりの旅人が「ボール蹴っていいっすかー」と寄ってくれる。ちょっと夢見過ぎだろうか。
 
いずれにしても僕はやはり、「こんなところにサッカーが」という風景に何よりも魅力を感じる。
 
さて、週が明けた。自転車こいでtotoを買いに出かけよう。写真みたいなロケーションもいいけどね。BIGと両方当たったら考えます。
 

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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