今、小平グラウンドにいます。

竹田聡一郎コラム 日々是蹴球

カメラ/FinePix S100FS 提供/富士フイルム株式会社

竹田聡一郎(たけだそういちろう)

Profile

第七十五試合

サンペイのボール

先日、サッカーマガジンに今季注目の新入団選手の対談が載っていた。神奈川出身で川崎と湘南のルーキー2選手が、「オレたちが神奈川を盛り上げる」なんていう感じのトークに花を咲かせている。斜読していたが、「大根ラディッシュ」「秦野」なんていう単語が目に入った。よく読むと川崎の選手は小林悠という存じ上げないフォワードだったが、湘南のほうは「サンペイ」というアダ名の三平和司というストライカーだった。何と僕の出身チーム、神奈川県秦野市の「大根(おおね)ラディッシュ」の後輩で、同クラブ初のJリーガーなのだ。しかも、彼の家は僕の実家からジャンケンで2回勝って「パイナツプル」「チヨコレイト」と唱えたら着いてしまう徒歩15秒の距離だ。かなりびっくりした。サンペイ君は確か男ばかりの3人兄弟の末っ子。
 
ふたりの兄とは、僕もよく野球やサッカー、警ドロなどをして遊んだけれど、サンペイ君と僕とは学年が8つも違うから特に一緒に遊んだ記憶はない。近所の子というより「近所の赤ちゃん」というイメージが強かった。けど、それがどうだ。今や「嗅覚と身体能力に優れた大学界屈指のストライカー」などと紹介され、反町監督も「即戦力に成り得る」なんて評価しているじゃないか。自室でサッカーマガジンを握りしめて思わず「うおお」とうなってしまった。会いに行くしかない。どうやら開幕直前に、湘南はFC東京と練習試合をするらしいので小平グラウンドに向かった。サンペイ君は最前線を駆け回り、何度もボールを要求していた。ボールをもらうとまずゴールに向かう素振りを見せる。ディフェンスにしてみれば嫌な選手だろう。
 
つぶされてもすぐ立ち上がってボールを追う姿は僕の好きなタイプの選手だ。まだまだ思うようにプレーできていないようで、歯痒そうでもあったが、とにかくよく走っていた。練習試合が終わった後、挨拶するために近寄るがサインをねだる子どもに先を越された。なかなかマニアックなちびっこだ。「頑張ってください」「ありがとう」なんていうやり取りを待って、ミツヒラ選手、と声をかけた。「僕、竹田といいます。実家が近所なんです」「ああ、そうなんだ……、えぇ?タケダさんって、角の家の竹田さん!?カメラマンになったんですか!?」と向こうも驚いていた。「カメラマンじゃないんだ。ライターなんだ」「へぇ〜、すごいですね」すごくない。Jリーガーのほうがすごいに決まってる。写真を撮りつつ、「プロの世界はどう?厳しいですか?」と尋ねてみた。「やっぱりこれまで以上に決めるところで決めないとサッカーにならないですね」とのこと。どっかの代表チームに聞かせてやりたいセリフじゃないか。
 
握手をして別れた。1週間後の開幕戦、サンペイ君はベンチ入りを果たせなかった。ベルマーレのスターターには不可欠のポストプレーヤー田原豊や新加入の両翼、新居辰基と馬場賢治という個性のある選手がいる。ライバルの壁は低くないが、それを乗り越えてこそプロ選手。頑張ってほしい。僕と同期のコーヘー君に「サンペイ君、スーパー地元なんだ。いじめんなよ」と釘をさす。コーヘーは僕の実家に何度も来たことがある。「知ってる。お前と一緒でのびのび自由にやってるよ。使ったら面白い選手だと思うよ」という評価になぜか僕が嬉しくなる。平塚競技場に行く理由が、またひとつ増えて嬉しい。代理人はまだ決まってないらしい。将来、代表に入らないかな。レアルやバルサに呼ばれないかな。勝手に夢想する僕はスペイン語の勉強を始めようか、本気で迷っている。

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竹田聡一郎(たけだそういちろう)

1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、このコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。

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