サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

中学時代は左右を力強く駆け上がるサイドバックだったという編集者の石渡健文さん。ジョホールバルの歓喜を現地で観たり、先日のEUROも徹底観戦とサッカーへの愛は限りなく深い。そんな彼が最も大切にすることは、サッカーの「作品感」だと言う。

周りとはちょっと違うものを

サッカーは中学生のときから始めて、高校はそこそこ強い学校にいたんです。当時は野球の方が人気があったのですが、そんな環境だからこそ敢えてサッカーをやる!というただの天の邪鬼(笑)で選んだスポーツなのですが。『みんながやっているのとは少し違うものを』という考え方は、今やっている雑誌の企画にもつながるところかもしれません。人気があってもう既に価値が高まっているものではなく、自分の心に少しだけ気になり始めたものの価値を高めていくという姿勢が好きかもしれませんね。かといって、マイノリティがいいというわけでもないんですけど。当時のサッカーは、気にしている人は気にしているっていうポジショニングが良かったのかもしれません。

EURO2008スペインの美意識とジョホールバルの演劇性

サッカーの試合では最終的に勝つ試合が好きなのはもちろんです。が、一方で格好の良くない点の取り方をしても、正直全然だめだと思います。敢えて厳しい言い方をしてしまうと。

サッカーというゲームは、なかなか点が入らないからこそ、美意識がないと急につまらなくなるんですよ。このスポーツは、突き詰めるといくらでも表現力が生かせる余白もあるし、さらなる美意識を追求できる要素もあるわけです。 そういう意味で、先日のEURO2008のスペインは素晴らしかったと思います。自分たちの表現したいサッカーっていうのがしっかり見えて、しかも結果も伴っていたという点で最高でした。ともあれ、僕にとってのサッカーは、すこし演劇と似ていて物語性があり、盛り上がるかどうかっていうことが重要です。実は、1997年にフランスW杯最終予選を観に、マレーシアのジョホールバルにまで行ったのですが、日本がイランのアリ・ダエイのゴールで2対1で逆転された時に、ガッカリするより、むしろゾクゾクして盛り上がりました。これで、逆転勝ちする舞台が整ったと。
あの時は、なぜかそんな気分になったんです。あの大一番で、前半の中山の先制ゴールのまま逃げ切るなんてあり得なかった。ボールをキープし続けていても、面白くないじゃないですか。安心感やリスクヘッジなんていらないから、チャレンジしていくいいサッカーを見たいんです。せっかくお金払ってスタジアムまで行っているわけですし。ただ、それを日本のサッカーファンがどれくらい求めているのかは知りませんが。「とにかく勝てば良い」という感覚も理解はできますけどね…。

チームは作品

自分がサッカーの監督をしたら…と夢見ることはあっても、実際は大変でしょうね。ただ、監督業をすることと、編集業をすることとの共通項はあると思います。チームを作っていくことと、雑誌作ること。どちらにせよ、僕の場合はコンセプトを重視しますね。アート作品と比較すると大げさになるのかもしれませんが、雑誌にせよ、サッカーチームにせよ、『作品感』は大切だと思います。僕の注目していたF.トーレスをはじめ様々なキャラクターが絡み合いながらも、EURO2008のスペインはアラゴネス監督の『作品性』を感じました。

例えば、出版の世界で作品性の高さを感じる雑誌って、部数が多いかというと、むしろ逆。サッカーでも、作品性を目指していると、全く勝てない時期が続くとか、覚悟しなければいけないことがいろいろ起きるのでしょう。おそらく。まあ、どちらも落としどころのバランスが、重要なんでしょうね。アラゴネス監督は信念を貫いたので尊敬します。

求ム!心意気のサッカー

先ほども言いましたが、日本代表は勝てばそれでよしとするところはありますが、やや『作品感』が希薄な気がします。その部分でファンの心が少し離れていっているかも。雑誌をつくるときはいつも考えているのですが、結局のところ、最終的に人を感動させるのはどんな分野でも「志」が高いものですよね。だからこそ、サッカーもこれから志高く進化してほしい。今日この試合に勝たなければといけないというのは重々分かるんですけど(笑)。それだけではなく、美しく、しかも勝つ。美意識と志のあるサッカーを見せてもらいたいです。

石渡健文 プロフィール

石渡健文(イシワタリタケフミ)

石渡健文プロフィール

1957年東京生まれ。1982年(株)平凡出版(現マガジンハウス)入社。週刊平凡、平凡パンチ、オリーブなどを経てブルータス編集部へ。2000年~2008年3月ブルータス編集長。現在、ブルータス トリップ編集長およびマガジンハウス第3編集局長としてブルータス、カーサ ブルータスなどを担当。最近は活動が少ないが、12歳よりスタートしたサッカー歴は38年。高校時代には、国立競技場での試合経験もあり。最も心に残るスタープレーヤーは、ヨハン・クライフ。

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