サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

『GIONGO GITAIGO JISHO』(ピエブックス)やキリンビール「8月のキリン」などで、硬質でありながら柔らかく繊細なイラストを描いてきたイラストレーター大塚いちお。上京と同時にサッカーを体験し始め、その記憶を積み重ねてきた20年間、彼が夢見てきたサッカーのドラマとイマジネーション。

サッカー観を覆した“カルチョ”というサッカー

新潟の雪深いサッカー文化が不毛な地域で育ったんですが、上京した時は何となくサッカーが好きだなくらいだったんです。時はJリーグ開幕直前、ようやくサッカーが観れるとなって、国立に天皇杯とか社会人リーグを観に行ったんですがガラガラなんですね。でも、何だかんだ観ていると好きになってきますよね。当時からラグビーやアイスホッケーも好きだったので、そうしたいわゆる陣取りゲーム的なものが好きなんでしょうね。それはそれまで自分も含め周囲が馴染んでいた野球文化には、全くなかったことだったんです。そうこうして92年からWOWOWでセリエAの放送を見始めてからは、昼間にバイト、それから絵を描いて、夜はサッカーを見るというのが定番になりました。セリエを見始めて、社会人リーグやJリーグを観て何となく感じていたサッカー観が、テレビの中の“カルチョ”という別次元のスポーツに衝撃を受けて崩れていきました。

予測不可能なドラマこそ醍醐味

最近は仕事の都合上、チャンピオンズリーグ(以下CL)しか見れていません。毎日ほぼ仕事なんですが、試合のある水曜日だけは家に帰って見る時間を確保しています。CLって決勝以外ホーム&アウェイ。一試合目はホームで0-0、二試合目で1-1とかになると、アウェイゴールで負けるとか憎たらしいことが起こりますよね。何だか二部構成の演劇とか映画を見ているような感覚があるんです。贔屓チームを応援するのではなくて、試合そのものを楽しみに観る感覚だと、この90分間×2でどんなドラマが起こるんだろうって想像してドキドキじゃないですか。絶対こっちが勝つっていうのが順当にいくことも多いですけれど、嘘のようなことも多々起るし、90分間の中だけでもいろいろな瞬間や物語がある。その予測不可能性にワクワクしますよね。

ドラマティックな男グラウディオラ/世界を変える新人類セスク

そしてもう一つの楽しみには、積み重なっていく歴史があると思うんです。例えば、グラウディオラ。彼は選手時代後期にバルセロナからセリエAに移籍したんですが、マルディーニのようにスター選手として引退してもいいはずだったのに、気づいたらいつのまにか終わってしまったという印象しかなかった。でも、バルセロナの監督就任1年目のCL決勝の地が、かつて選手時代に苦渋を味わったイタリアだった!とか、観ていてとても感慨深いものがあるんです。未来ということだと、CLで僕が好きなACミランとアーセナルの試合がありました。アーセナルの選手ってすごい若くて、確実に新しい次世代のサッカーをやろうとしているのをサッカー好きとして感じたわけです。そして、22歳のフランセスク・ファブレガス(セスク)のゴールを見た時に、時代の変る瞬間を自分は見れたんだと思いましたね。

今なにか薬があって、誰かに乗り移れるんだったらセスクになりたい(笑) 
何を見て、何を感じているのか。そして何よりも彼のイマジネーションのあり方を体験してみたい。サッカーってすごい世界ですよね。20歳そこそこの人間のイマジネーション一つで世界を変えることができるんですから。

バティストゥータという名の展覧会

以前ある展覧会の時、白い紙に黒い線だけで好きなもの、シンプルなものを描いていたんです。で、何か展覧会のタイトルを考えなきゃと思った時に、好きなものを描いた絵を展示するわけだから、大好きなサッカーの選手の名前をタイトルにしちゃえば良いやと思ったんです。それで、よくよく考えたらバティストゥータがすごい好きで、本名じゃ直接的過ぎるから、あだ名の「バティ」にしよう!としたこともありました(笑)僕らは試合を俯瞰で見ていて、選手たちのイメージやイマジネーションを感じますよね。すごく自分の仕事に近い気がするんです。想像することとか、俯瞰で何かを考えることとか。与えられた仕事を単純にこなすだけじゃないんだと勇気づけられるんです。想像力を使ったちょっと突飛なことが、大きな何かに繋がることもあるんだなと。

大塚いちお プロフィール

大塚いちお(オオツカイチオ)

大塚いちおプロフィール

イラストレーター/アートディレクター

1968年新潟県出身。書籍や雑誌、広告、音楽関係のイラストレーションなど数多く手がけるほか、展覧会やワークショップなどの活動も積極的に行っている。09年4月から始まったNHK教育テレビ『みいつけた!』のセットやキャラクターなどのデザイン、番組のアートディレクターをつとめる。最新作品集に、「10:12 Ichio Otsuka`s Dozen」(WALL)。『GIONGO GITAIGO J”ISHO』(ピエ・ブックス)で東京ADC賞受賞。

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