サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

アーティストとしての活動に加え、表参道ヒルズやラジオ局の広告などでも活躍する板谷龍一郎。美術を学ぶとともにサッカーの魅力に目覚めていったロンドン時代、コマーシャルワークでの共同作業で気づいたパス交換の楽しさについて語ってもらった。

イギリスでのサッカーライフ

美術を学ぶために1999年から4年間イギリスで過ごしました。サッカーの母国ですね。高校時代に父の仕事の関係でカナダで過ごし、その頃から美術関係の仕事に興味は持っていました。帰国後に美大への進学も考えていたのですが、デッサンのある受験は厳しいかなと(笑)、結局、商学部に進学、卒業後に本格的に美術の勉強をするために留学することにしました。大学時代に旅行したイギリスがすごく楽しかった思い出もあり、また、知り合いの勧めもありということで、ロンドンに留学することにしました。中学時代はサッカー部でしたが、Jリーグが始まった時はカナダに住んでいましたし、関西出身、阪神育ちということもあって、サッカースタジアムの熱気に本格的に触れたのは、ロンドン留学時が最初でした。ただ、貧乏学生にとってはスタジアムでの観戦は高嶺の花。アーセナルやチェルシーなどの人気クラブの試合のチケットはまず手に入らないですし、チケットがあったとしても数万円ということもあり、もっぱらテレビでの観戦でした。

プレミアムリーグは、借りていたフラットでは放送を見られなかったので、パブで観戦していました。パブには友人と一緒に行っていましたが、通っていた学校がアートスクールということもあって、地元のイギリス人はサッカーの熱烈なサポーターというわけではなかったようです。リバプールの熱烈なサポーターの教師もいましたが、大半はクリケットの方が好きといった感じでしょうか。そうは言っても、2002年の日韓ワールドカップの出場をイングランドが決めた試合、終了間際にベッカムがフリーキックを決めた瞬間はアパート中からものすごい大声援が聞こえてきて、さすがに「みんな見てんねや!」と思いましたね。学校では、海外から来ている学生たちは、国を問わずにサッカーが好きでした。2002年の日韓ワールドカップでブラジル代表がイングランド代表を破った試合の後に全学部集会があり、講堂に150名くらいの生徒が集まったのですが、ブラジルからの留学生の2名に対して、みんながおめでとうと拍手したのが印象に残っています。勝負には厳しいですが、きちんと勝者をたたえる文化というのはありますね。サッカーを文化という面で見ると、やはりイギリスと日本とはリテラシーが違うと思いました。前半が終わると日本では、通常CMとかが入りますが、イギリスではひたすら前半の戦術と後半の展開の解説をしています。それによって大分鍛えられた部分も僕自身あります。サッカー強国になるためには、選手やチームだけでなく、放送する側、観戦する側もレベルアップする必要があると思います。

パス交換、共同作業の楽しさ

中学からサッカーは好きでプレーをしたり、観戦したりを続けてますが、作品の題材にしたことというのは今のところないです。大学時代にフランスワールドカップのトーナメント表をアクリル絵の具で描いたことはありますけど、まぁ、作品と呼べるものではないですし。サッカーを題材に取り上げるなら、スタジアムを描いてみたいです。ヨーロッパには歴史のあるスタジアムがいっぱいありますし、また、最新のものでも、ドイツのヘルツォーク&ド・ムーロンが設計したアリアンツ・アリーナのような個性あふれるスタジアムがあるので、作品のモチーフとして面白いと思います。僕自身の今後としては、個展を中心にマイペースでやっていければと考えています。ただ、コマーシャルの仕事も面白そうなものがあればやっていきたいです。個展用の作品を作ることは孤独な作業ですが、コマーシャルの仕事の場合は、営業の人、企画の人などとの共同作業の楽しさがあります。サッカーも決して1人ではできないじゃないですか。1人がどんなにすごくてもチームとして機能しないと勝てない。選手のプレーが有機的につながってゴールに向かって行く時のカタルシス、1足す1が2ではなく、3になるというのは共同作業ならではの楽しさでしょう。今、朝日新聞の連載で林家正蔵師匠と仕事しているのですが、今回はこういうお題でいこうという"パス"をもらって、こんな感じの画でと返す。パス交換をしているうちに、どんどん面白いものが出来上がってくる。こういうと師匠はジャズが好きなんで、「それはセッションだな」って言われるでしょうけど(笑)。

板谷龍一郎 プロフィール

板谷龍一郎(イタダニ リュウイチロウ)

板谷龍一郎プロフィール

アーティスト
1974年、大阪生まれ。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインを卒業。雑誌・ファッションブランド・広告などのコマーシャルワークを手がける一方、独自の芸術表現を追求するアーティストとしての活動も展開。
http://www.ryuitadani.com/

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