サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

一度は新聞社に入社しながらも、幼少の頃から好きなサッカーを見るために、日本を離れてブラジルに移住した経歴を持つフットボールジャーナリスト、下薗昌記。ブラジルやアルゼンチンといった、世界の強豪がひしめく南米サッカーを熟知した日本人だからこそ見えている日本サッカーの未来とは。

ブラジルサッカーとの出会い

新聞社にいる間に、就職活動も兼ねてブラジルに行ったときのことです。着いた初日にブラジル人の友達から、今から「サッカーに行こう」って言われて、夜の10時くらいだから試合を見に行くのかと思っていると、フットサルでした。キックオフが23時、それから2時間くらい延々とハードにやりました。最初だから、みんながフレンドリーに「よく来たね」って感じで接してくれて楽しめると思ったら、マジだったんです。途中から「この日本人はダメだ」って思われて、最後はGKに追いやられました。でも、フットサルが終わると、散々罵ってきたやつらがすごくフレンドリーで、それからはシュラスコを食べながら、最後はアミーゴです。終わったのが夜中の3時くらいだったかな。その瞬間、もうこの国で生きるしかないって思いましたね。怖い方の洗礼といえば、取材のためにサポーターと同じバスに乗っているときのことです。敵チームのサポーターがいきなり100人くらい現れてきて、バスを取り囲んでみんなでバスを揺らしてくるのです。「最初は揺れないだろ」なんて思っていたら、徐々にでかいバスがガタンガタンし始めたんです。警察が止めてくれましたけど、ブラジルでは危ない目にも遭いました。

南米サッカーの魅力とは

南米の最大の魅力はタレントを先取りできることです。今のサッカーってヨーロッパがメインですけど、ヨーロッパを動かしているのは南米です。南米人がいないヨーロッパサッカーはありえません。メッシにしてもカカーにしても、かつてはロナウドにしても。今、日本で活躍するブラジル人が中東に買われているのと一緒で、最終的にヨーロッパに搾取されている構図は変わりませんが、そこに出てくる選手を誰よりも先に見ることができます。普通はヨーロッパに行ってからスター選手を知るけど、そういう選手はその前に南米で2~3年活躍しているから、ダイヤの原石を最初に見ることができる。「こいつはヨーロッパに行くな」って。

ブラジルに学べ メンタルの育成

日本人に一番足りないものは育成ですね。サッカーで一流になるには技術、メンタル、フィジカルの3要素が必要ですが、日本で取材しているとユースの選手は技術がうまくてもメンタルが足りない選手が多い。かといって、高校サッカーでメンタルは鍛えられるといっても、指導の方法論を間違えている先生も多い。最近、日本はユーロ2008で世界一になったスペインも小柄だからヒントがあると言っていますけど、もっと南米に目を向けてもいいと思います。もともと昔のブラジルは、選手は勝手に育ってくるものだと思っていたようですが、年間8000人くらいがヨーロッパに移籍をするとなると、さすがに育てなくてはいけない。今では南米やブラジル、アルゼンチンは育成にどんどんお金をかけて、プロフェッショナルな人材を育成に投入しています。サンパウロでは、10歳くらいから各カテゴリーに分けて、世代に合った医療チーム、メンタルドクターがついています。例えば、ハングリーでない、中流階級出身のカカーみたいな子には、『君はサッカーで一流になってヨーロッパに行けば、レオナルドのようにクラブの幹部になって世界が広がる』と言って、モチベーションを高めていきます。

ハングリーな層には、『君が有名になれば、家族や一族がサッカーで幸せになる』と。最終的には売れればそれがお金になります。言い方は悪いですが、クラブの商品になるということです。極端な言い回しですが、南米ではサッカー選手として成功するか犯罪者になるかって言われるくらいです。一本のシュートにも命がけ。でも、日本でそれはできません。平和ですからね。だから、育てる側がしっかりしないと、どんなに才能があった選手でもその花が開かないままです。メンタルは育成で一番難しいところです。サッカー協会もプロフェッショナルな人材やノウハウを導入しないと、日本の発展は難しいかもしれません。昨年、スルガチャンピオンシップで優勝したインテルナシオナウは今年も強いです。あのクラブは02年にギリギリ降格から逃れて、クラブも気持ちを入れ替えて、会長も含めて体制を一新しました。そして育成にお金をかけるようになりました。アレシャンドレ・パトもその一人です。勝負にこだわって現実的なサッカーをするチームで、ブラジル国内でタレントが一番いるチーム。まだ出場は決まっていませんが、連覇する可能性は十分にあると思います。下部組織上がりでいい選手がたくさんいますから。やはり育成が大事です。今は日本に戻ってきて、ガンバ大阪を中心に取材していますが、しばらくしたらまたブラジルに拠点を移して、現地でサッカー記者として活躍したいです。2014年のW杯開催地はブラジルですからね。来年の南アフリカ大会よりも楽しみにしています。

下薗昌記  プロフィール

下薗昌記 (シモゾノマサキ)

下薗昌記 プロフィール

ジャーナリスト

1971年大阪府生まれ。大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。卒業後、朝日新聞社入社。2002年、ブラジルに移住し、400試合を超える試合を取材。05年8月から日本に一時帰国し、関西を拠点にガンバ大阪を中心に取材している。

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