サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

空間デザインを通して「コミュニケーションの可能性―現実の拡張」の実験、実践をするデザインチーム「matt」のキャプテン・李明喜(myeong-hee lee)。東京大学・知の構造化センターとの「pingpongプロジェクト」や批評家・東浩紀らとの「合同会社コンテクチュアズ」など、実空間と仮想空間での実験と思考を繰り返す李が愛する、コミュニケーションとサッカー空間について。

サッカー → バスケ → バレー → ボクシング → UKカルチャー。でも基本はサッカー。

従兄弟が釜本さんがいた頃のヤンマー(現セレッソ大阪)で練習生だったりして、練習や試合を見に行ったりしていたのが一番古いサッカーの記憶かもしれません。小学生時代は、「出雲少年サッカースクール」という地方のクラブで「リベリーノカップ」という全国大会に出場したこともあるんですよ。予選リーグ全敗して、すぐ終わりましたが(笑)。中学校はサッカー部がなくてバスケ部に入り、転校することになった学校に今度はバスケ部がなくて、バレー部に。それから中高はずっとバレー部でした。大学は体育会でボクシング。連載開始時から「キャプテン翼」はもちろん読んでいましたけど、もっと古い梶原一騎原作の「赤き血のイレブン」というアニメがすごかったんです。分かりやすく言うとサッカー版「巨人の星」。いや、「巨人の星」+「侍ジャイアンツ」という感じかな?トンデモ的な驚きプレーが続出でした。そういうサブカルの影響も含めて、気がついたらサッカーに関心を持っていたような気がします。僕が東京に来たのが1991年で、それから間もなく、1993年にJリーグが開幕しました。

とはいえ、プロサッカーリーグができたことと、サッカーの最高峰W杯がその時点では全然繋がっていきませんでした。たぶん、Jリーグができても日本のサッカーと世界のサッカーは完全に別のレイヤーだと思っていましたね。時代が前後しますが、最初に選手としてインパクトを受けたのは82年のW杯で観たジーコ。マラドーナではなくジーコでした。自分で行くというより操っている感じが魅惑的でしたね。しかしその後は南米サッカーではなくヨーロッパに興味は移りました。80年代中盤以降、いわゆるUKカルチャー、特にニューウェーブ&ニューロマンティックからマッドチェスターまでにハマったために、サッカーも必然的にイングランドに。90年のW杯の時はガスコインがヒーローでしたね。

空間とアーキテクチャ、サッカーのインタラクション性

プレーヤーとしての僕は当然素人なので、どうしても局所的に観てしまうんですけれど、観客としてスタジアムで観ると一歩引いて空間で見れますよね。フィールドの縦横以外の高さやボールのないところも含めて、観る方に専念してからは、空間的に観る楽しみの方に気持ちがシフトしていきました。そういう見方ができるようになってからは空間把握型のプレーヤーや、高さを使えるプレーヤーが好きになりました。実は僕、プレーヤーとしてのベッカムが大好きなんです。というのも、ベッカムのフリーキックはただ曲がり方がすごいという単純なことではなくて、あれは高さや速度を含めて空間を作り出すボールなんです。ベッカムは膨大な数のキックによって感覚的に掴んでいるのかもしれないけれど、ああいう武器は空間的で好きですね。一方で中田英寿は視点を中心にプレー全般によって常に空間を把握しています。その"みえている感"が半端ではない。先日の南アフリカW杯開幕戦で、実況席からピッチ全体を見下ろした中田が「プレイする時にこの視点があったら」というようなことを言っていて、その志向性をあらためて感じました。

サッカーを含めて多くのスポーツは、ルールとフィールドというアーキテクチャ(規制)からどれだけユニークな、または多様なプロセスを導き出していくかというゲームだと思うんです。手が使えないというサッカーのルールは身体的には強力な規制ではあるけれど、シンプルでほどよい。野球やアメフトって規制から複雑ですよね。野球は日本にいると小さい頃から見慣れているから分かるけれど、全く知らない人にルールを教えるのはけっこう大変です。サッカーの強いけれどシンプルな規制のバランスが、単に自分にとって気持ちいいだけかもしれませんが。僕がやっていた、一見全く関係なさそうなボクシングとサッカーはそのバランスが近い気がします。予測できない相手と状況変化とのインタラクション性が醍醐味。特にサッカーはチームスポーツなので、幅のある時間の複雑なインタラクションがある。あるプレイヤーの持っている能力や技術を体現することそのものではなく、相手との関係性によってその場その瞬間でしか生まれないプレーの発現が面白くて興奮するのです。その実例として真っ先に思い浮かべるのは、99年のチャンピオンズリーグ決勝でマンチェスターUがバイエルンにロスタイムで[0-1]から奇跡の逆転勝ちをした試合。各選手のコンディションと試合経過に伴うポジションの変更。そしてマテウスを下げたバイエルンとシェリンガム、スーリシャールを投入したマンU、それぞれの選手交代。刻々と過ぎる時間ともうすぐ優勝できるというバイエルン側の自信と焦り、マンUの怒濤の攻撃と意地。様々な要因が絡み合って、「カンプノウの奇跡」または「カンプノウの悲劇」と言われる逆転劇が起きたわけです。あの試合は本当に神試合で、今でも時々ニコニコ動画とかで観ます(笑)。

インテリスタなりすまし

最近は生で試合を観る機会は減りましたが、ベッカムがいたときのマンUが本当に好きで、仕事でベルリンに行った時にチャンピオンズリーグのマンUとインテルの試合を観るためだけに、ミラノまで飛行機で飛んだりしたこともあります。でも、その日のミラノで東洋人がマンUの赤シャツなんて着ていたら、シャレにならない訳ですよ。「当然お前はインテルを応援するよな!」とインテリスタたちに聞かれます。だから、サンシーロでも完全にインテリスタになりすまして、インテルが点を取った時に一緒になって喜んだふりをしていました(笑)。本当はすごく悔しかったんだけど...だって周りは全員青なんですよ!

李明喜が選んだベスト11

ベスト4予想から始まるベスト11

ベストイレブンは今行なわれている南アフリカW杯の私的4強の中から選ぶ11人にしました。予想というより希望的側面が強いですが(実際組み合わせを考慮してのシミュレーションしたわけではありません)、イングランド、スペイン、オランダ、セルビアの4カ国が僕にとってのベスト4。セルビアは面白いですよ。スタンコビッチ以外にも、コラロフやイバノビッチなど攻撃的でスピード豊かな選手がいます。フォーメーションは、複数の国の選手が混ざるので4-2-3-1ではなく適合しやすい4-4-2。ジェラードは今大会活躍しなかったら、今年いなかった人になってしまうのでぜひ頑張って欲しい。というのも、僕が今一番好きな選手がジェラードなんです。ジェラードは戦慄のミドルや力強い空中戦などたまらないです。しかし、このベストイレブンは我ながら絶妙だな(笑)。セルビアコンビのサイドバックも含め基本超攻撃的で、真ん中のシャビに大きな負担がかかる感じですね(笑)。そして、このチームを指揮するのは、もちろん僕です!

李明喜 プロフィール

李明喜(リー・ミョンヒ)

李明喜プロフィール

空間デザイナー・ディレクター

1966年、兵庫県生まれ、島根県育ち。デザインチームmattキャプテン。空間デザイナー・ディレクター。2009年より、東京大学・知の構造化センターによるデザインの構造化プロジェクト「pingpong」のディレクターを務める。東京ミッドタウン・スルガ銀行「d-labo」のディレクション&デザインを担当。

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