サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

徹底した日常語の使用、ダンス的な所作で国内外から高い評価を得る劇団、チェルフィッチュ。チェルフィッチュで役者として中心的な活動をしながら、ミュージシャン・批評家の大谷能生とのユニット、ライン京急としても積極的にパフォーマンスを行っている山縣太一。日常的で不安定なメリハリのある演技やダンスをする山縣は、小さい頃から愛してやまないサッカーからどんなことを得てきたのだろうか。

12歳でサッカーを諦めて表現の世界へ

サッカーは、日産自動車のジュニアユースで9歳から始めて、12歳でもうプロを諦めました。ユースに入るタイミングでしたが、超えられないライバルがいたとかではなく、自分の伸び代の問題でしたね。自分はもうここまでしか伸びないだろうと気づいて。それで、12歳からは感覚とか表現の世界に入っていきました。ただ、サッカーから離れてよりサッカーを知れたというか、周囲との関係性も含めて、やっている時より楽しめるようになりました。これは父親の受け売りなんですけど、サッカーは脳の活性化にいいし、総合芸術でもあると言ってるんです。そんなスポーツはサッカーしかないと。僕のサッカー好きはその刷り込みから始まってもいます。

スキラッチというトリックスター

試合がタダで見られるからという理由で、国立競技場のビール売りアルバイトをしていたくらいJリーグも海外リーグも見てましたけど、特定のチームや選手を贔屓にしないんです。もし、一人挙げるとしたら90年イタリアW杯の得点王になったスキラッチですね。元々90年大会では選ばれないはずだったんですよ。
ギリギリで選ばれてもちろんベンチのはずが、急遽ロベルト・バッジョと2トップを組んで試合に出たら得点王になった。あまり期待していなかったやつが、英雄みたいになっちゃった。あれは奇跡ですよね。でも、その時以外も彼は誇り高くてかっこよかった。ジュビロ時代、試合が終わって当然みんな服に着替えるのに、スキラッチだけなぜかバスローブ(笑)。そのまま車に乗ってブーン。かっこいいなーって。そういう常識のない感じが好きでしたね。キーパーのゴールキックのタイミングで奪いに行ったりとか、停滞したムードを打ち破る、規格外でトリックスター的なところが好きでした。

時間軸を操作する、一歩目のパス

日本戦はヨーロッパ公演中でしたけど、ほぼ全試合一人で見てました。いろいろメモをしながら観るから一人で見たくて。何をメモしてるかと言うと、ボールの縦横の動きで遅攻や速攻の動きを作っていくような、そういう時間や流れを読むみたいな感覚的なことです。今回のアルゼンチンは負けましたけど、彼らのすごさは狡賢く自分たちで時間軸をずらせることなんです。オランダのルート・フリットは、「アシストやゴールはすごく大事。でもそれ以上に大事なのは攻撃を想像するための一歩目のパスだ」って。そのパスが美しくなければだめだと。そういう意味ではメッシも部品の一つでしかなくて、マスケラーノが時間軸を操ってゲームメイクしていました。演技でもダンスでもなんですが、僕の行動理念として、鋭角的でソリッドなものとフリットのような予想外の、いきなり変拍子みたいな時間感覚を両方混ぜないで持っておくことが大事なんです。混ざっちゃうと僕が考える美しさじゃないんですよ。共存していないと。タイム感で言うと、96年のヨーロッパ選手権で大好きなデンマークとこれまた大好きなクロアチアの試合があって、クロアチアのスーケルがデンマークのGKシュマイケルの頭上を越して決めたループシュートがすごく印象に残っています。選手の想像力が時間をスッと止める、ねじ曲げる瞬間ていうのがあるんですよ。僕はテレビで見ていて、まさにそれを感じて、ジャンプしたシュマイケルも止まって見えました。重力があるから、止まる感覚っていうのはループシュートみたいな上下の一瞬の動きでおきやすいんですよね。

アルゼンチン、6勝4敗の美しさ

アルゼンチンは4対0でドイツに負けましたけど、それも含めて理想のチームだと思っています。ドイツのサッカーはあんまり評価していなくて、固い守りの隙をついてゴールを狙うような、相手を挑発して自分たちのペースにもっていくサッカーですよね。でもアルゼンチンのサッカーは横綱相撲というか、相手がどうきても自分たちのスタイルで攻めるんだっていうねじ伏せる強さと、その中でも軟体動物みたいに常に隙を探しているみたいなところがあるんですね。負けちゃいましたけど、そういう脆さとか儚さも含めて理想。美しくて面白いけど、脆い。そこにグッときます。強さが美しさではないんです。10試合あったら、6勝4敗くらいのチームがいい。バルセロナだって脆いでしょ。徹底的にやられると。インテルのモウリーニョは、組織を解体するようなサッカーを対バルサでやり、メッシを完全に押さえた。でもそのサッカーが楽しいかっていうと、そんなことはないんですよ。勝ったものが美しい、正しいというとインテルになるけれど、バルセロナは脆さがあるからこそ、世界中にファンがいるんじゃないですかね。

最小限にして最大限の表現

あらゆることにおいて、道具が嫌いなんです。サッカーのボール一個、体一個あればいいっていうのがいい。サッカーの何がすごいかって考えると、最小限の環境にして最大限のパフォーマンスを生み出せることなんです。人間が生きている限りサッカー以上に熱狂を産むスポーツはないんじゃないかな。チェルフィッチュを10年やってきて、俺達がこれはおもしろいって考えてるものがなかなか受け入れられないのはわかってきたので、だったらマスに向かうのはやめて、そんなに熱狂は生み出せないとしても、俺達が思うポップなもの、コアなものを作っていこうと。そうこうしてるうちに、ラッキーにも度々舞台で海外に行かせてもらう機会があります。いろんなとこで子どもと一緒にボールを蹴ったりしてるんですけど、海外にはまだまだ差別があるんですよね。移民の子を混ぜないとか。
優勝を狙えるほどの国だったユーゴスラヴィアが内紛で解体し、ユースで一緒だったボバンとストイコビッチは敵として戦わなくちゃいけなくなった。そういうのが嫌でなくしたいんですよ。サッカーってそういう政治的なPRの側面もあるけど、そういうことが選手の口から出てこないでほしい。プレーで子どもたちに楽しんでもらうということを全身全霊でやってほしい。お祭りだし、戦争している国もサッカーをしている間だけでも忘れて欲しいですね。

山縣太一が選んだベスト11

テレビで見たらうまさがわからないベスト11

テレビで見たらうまさがわからない(生で見ないとわからない)ベストイレブン。
ボールを持っていない時の動きとか、テレビの画面には映らない人がゲームメイクをしているようなチームです。これは強いチームではなく美しさと面白さ重視。それと試合後の飲み会に僕も参加したくなるようなチーム(笑)。「さっきの試合はともかくさとか」みたいな(笑)。監督は同じノリで楽しめそうな人ということで、バティストゥータ。5対0で勝てるか、0対5で負けるかのどっちかでしょうね。

山縣太一 プロフィール

山縣太一(ヤマガタ タイチ)

山縣太一プロフィール

俳優
1979年横浜生まれ。00年実際の家族で構成される、劇団山縣家で役者を始める。01年よりチェルフィッチュに参加。以降全作品に出演し、その演技スタイルに大きな影響を与えてきた、チェルフィッチュの看板俳優。10年より横浜黄金町バザールレジデンスアーティスト。自身が作・演出をつとめる、音楽家大谷能生とのユニット「ライン京急」でも活動中。趣味はサッカー、カヌー。ビールを飲む事。フィッシュマンズが好き。

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