サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

国内フットボール・パブの草分け的存在として、多くのファンにサッカー観戦の興奮と酒の楽しみを提供してきた「THE FooTNiK」。96年のオープンから約14年。代表・今井勇次が、カウンター越しに見つめてきた日本サッカー文化の変遷と、自身の夢を語る。

元バンドマンが32歳でサッカーデビュー

こんな商売をさせてもらっている僕ですが、実はサッカーにちゃんとふれるまでにはかなり時間がかかったんです。20代半ばまでは、大した才能もないまま音楽を続けていて、いよいよ人生について何か考えないといけないという頃に、当時バイトしていたレンタルビデオ店のオーナーから、必死で工面したお金でお店を買い取ったんです。そのお店のアルバイトの子たちと、「ドーハの悲劇」に触発されてサッカーチームを結成したのが32歳の時。だからサッカーとは大人になってからの付き合いなんです。それでも、チームはすごく厳しくてね、毎日走り込みもして、本気で天皇杯への出場を目指していました(笑)。チームメイトも、帝京の優勝メンバーとか、かなり上手な人が揃っていたんです。最年長ということでキャプテンを任されていたものの、ほとんど出場機会はありませんでしたね(笑)。たまに出場しても、まったく前線に駆け上がることのないサイドバックでしたから(笑)。

 

きっかけはチームメイトの言葉

「THE FooTNiK」のオープンも、このチームのメンバーの「サッカーで何かやりましょうよ」という言葉がきっかけだったんです。レンタルビデオ屋をやっていても、どうしても大型店に勝てないというジレンマもあったし、それなら何か別のことをやってやろうと思ってね。

それで、音楽をやっていた頃からイギリスの文化が好きだったこともあって、サッカーを見ながら盛り上がれるパブにしようと思いついたんです。当時は「国際化」という言葉がやたらと使われていた頃だったから、席の定まっていないパブ形式で、外国人と交流できるお店にしたいと。サッカーも音楽と同じで、世界の共通言語じゃないかと思ったんですよ。

「THE FooTNiK」オープン

ビデオ屋を売ったお金で作った1号店は、高田馬場にEURO96イングランド大会の開幕と同時にオープンしました。東京都サッカー協会の本部があるし、学生も多いので、口コミでお客さんが集まりやすいんじゃないかと思ったんです。その狙いはある程度当たりましたが、スタッフ全員がちゃんとした飲食業経験がないので大変でしたね。本当にいろんなことが手探り状態。EURO96の準々決勝、順当に勝ち進んだイングランドがスペインと当たった時は、その前にふらっと寄ってくれたイギリス人の口コミで、100人以上の外国人が集まったこともありました(笑)。とにかくみんな大騒ぎだったので、グラスは足りないわ、ビールは足りないわで、結局近所の居酒屋さんに泣きついてお酒を分けてもらったことを覚えています。でも、「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」やチャントの合唱を目の当たりにして、この商売は本当にすごい仕事だと実感しましたよ。もう、カルチャーショックどころの騒ぎではなかったですね(笑)。それから、EUROが一段落した後には、アトランタ・オリンピックがあったでしょ。当時はまだサッカー放映を売りにしていたパブがなかったので、日本代表のウルトラスの連中も来てくれて、「やっと、こういう店ができた」って喜んでくれてね。代表もあの活躍だったから、初めてのTV取材も入ったりと、本当に順調な滑り出しだったんですよ。

サッカーが根付くまでには工夫の連続!

そうやってオープン景気に沸いた「THE FooTNiK」も、すぐに経営の危機を迎えるんです。やっぱりサッカー・パブですから、イベントがない時には客足が鈍るんですよ。特にEURO96、アトランタの後は、本当につぶれるんじゃないかというところまでいきましたね。

いくらアトランタが盛り上がったからといって、まだ国内にサッカーが定着したわけではなかったので、外国人のお客を集めるしかない。それで知り合いのイギリス人に頼んで、本国にいる彼のお父さんから、イギリスで週末に放送されている人気ハイライト番組「Match of The Day」の録画ビデオを一番早い航空便で送ってもらったんですよ。そうすると次の金曜日、つまり5~6日遅れで放送できる。当時は国内のプレミアリーグ放送が、1~2週間遅れで毎週1節だけだったから、それだけで十分画期的だったんです。その方法は大成功!イングランド人はもちろん、噂をききつけた日本人も集まってくるようになったんです。他にも、何故か練馬だけでライブ放送されていたFAカップの決勝を、前後半にわけて録画し、慌ててお店に持ち込んで放映したりと、とにかく苦労の連続でしたね。でも面白かったですよ。だって、デッキに入れる前に録画ビデオを掲げたら100人単位の外国人が、みんないっせいに歓声をあげるんですから(笑)。

サッカー文化の変遷を実感

こういうお店をやっていると、サッカーに対する日本国民の反応というのもある程度ダイレクトに伝わってくるものですが、これまで経験したW杯すべてが盛り上がったものの、やはりそれぞれで経験したことの意味は少しずつ違っているのだと思います。フランスW杯は日本が世界のサッカー文化にふれる初めての機会だったと思うし、日韓W杯はサッカーが本当の意味で国民のスポーツになった瞬間だったと感じます。実際に、03年あたりからは、毎週末のJリーグ放送時のお客さんの数が急増しましたからね。これは本当に嬉しい変化でした。経営面のことより、日本のサッカー文化が順調に成熟してきているのだという証拠を目の当たりにした気がしたんですよ。だから、今回のW杯の経験もきちんと次に生かしてほしいですよね。日韓の時とは全く重みの異なるベスト16だったし、これまでイングランドやイタリアが経験してきたようなPK戦の悔しさをやっと味わうことができたんですから。

交流の生まれる場を目指して

実は少しメディアに出過ぎたこともあって、高田馬場店は観光目当てのお客さんも多くなり、サッカーファン以外の人が入りづらいお店になってしまったという反省があるんです。だから、01年に店を恵比寿に移してからは、もう一度、当初の目的であった“いろんな人との交流が生まれる場”を目指して「THE FooTNiK」を成長させていこうと考えているんです。もちろんサッカーが中心にあることは変わりませんが、例えば飲食の基本を見つめなおして、サッカー以外の部分でも、いろんな種類のお客さんに満足してもらえる店でなければいけないと思うんですよ。パブとしての本来の目的に立ち返るというかね。現状の2店舗(恵比寿店、大崎店)は、そういったことが少しずつ実現できているような気がしています。それからあと一つ、是非とも実現したいと思っているのは、ロンドンへの出店。これはイングリッシュ・パブではなくて、日本風居酒屋として「THE FooTNiK」を海外進出させようという野望なんです(笑)。向こうにも日本風の居酒屋はありますが、どれも敷居が高い感じがするんですよ。だからもっとカジュアルに、日本文化を知ってもらえる場所として、日本代表の試合や相撲を流すお店にしたいですね。ロンドンには留学生やビジネス滞在の日本人もたくさんいますから、そんな人と現地の人たちの間で、また新しい交流が生まれる店になってほしいと考えています。夢は、2018年のW杯がイングランドに決まり、ロンドンの「THE FooTNiK」で日本代表を応援すること。それができたら本当に最高ですね!

今井勇次が選んだベスト11

FooTNiKで飲める世界の生ビールベスト11

うちはブリティッシュパブで世界中のビールが飲めますが、その中から生ビール(1銘柄サイダー含む)に絞ったベストイレブンを考えてみました。世界8カ国からの選出です。2トップは両店舗共売り上げで1,2位を争う強力2銘柄です。ゴール量産と行きたいですね。監督(これだけフード)はすべてのビールと相性のいいブリティッシュパブの定番。スーパーサブにはまだまだ無名ですが、日本が誇る将来有望の地ビールを選出しました。その他は各国の実在選手やグラスのサイズ(笑)などでご想像いただければと思います。どの選手も味は最高です!

今井勇次 プロフィール

今井勇次(イマイユウジ)

今井勇次プロフィール

フットボール・パブ「THE FooTNiK」代表。日本スポーツ放映飲食店協会 理事会長。96年、EUROイングランド大会の開幕と同時に高田馬場に「THE FooTNiK」をオープン。その後、01年9月に恵比寿に店舗を移し、07年10月には大崎にも2号店をオープン。サッカーをツールに、年齢・国籍を越えた様々な人々の間で交流の生まれるパブとして、多くの人に愛されている。
THE FooTNiK Ebisu   東京都渋谷区恵比寿1-11-2 アサヒビル1F TEL: 03-5795-0144
THE FooTNik Osaki   東京都品川区大崎2-1-1 Think Park 1F TEL: 03-5759-1044
http://www.footnik.net 

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