サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

2003年から07年までロンドンに留学し、写真を勉強していた写真家keiko kurita。96年のイギリス初訪問から、マンチェスター・ユナイテッドファンへの扉は開かれていました。サッカーと国旗の関係、写真作品との関係とは。マンUから始まりマンUに終わる、イングランドサッカーストーリー。

わたしのフットボール伝道者、スコット少年

始まりは20歳の時、語学研修でイギリスに行ったときでした。ホームステイ先の甥っ子でスコットという小学生が、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターだったんです。すごく仲良くなったのに、おばさんの家に遊びにきていただけのスコットは三日で帰ってしまいました。私は寂しくて、遠かったその子の家まで追いかけていきました(笑)。スコットは自分の部屋の壁紙をマンU柄にしちゃうくらいマンUに夢中で(笑)。テレビで試合を観ながら、「こいつが誰で、あいつがすごいんだ」と選手のことをいろいろ教えてくれて。その時に思い出したんですが、私かつてのベルマーレ平塚でグッズ売りのバイトをしていたんです。中田在籍の頃です。たまたま選んだバイトがサッカー場だったって程度だったんですが、暇なときには交代交代で試合を観ていました。立見席にしか入れなかったので、ちゃんとは見れなかったんですけど、子どもから大人までみんな真剣に応援してたり、文句を言ったりしている。そんなスタジアムの空気とか応援合戦の盛り上がりがすごく好きでした。それで、スコットにそのことを話したら、「日本にもフットボールリーグがあるんだね!」って驚いていろいろ聞いてくれたんですが、あまり答えられなくて。その後99年に、大学の卒業旅行でもう一度その子を訪ねました。

私はその前年のフランスW杯から試合を観るようになっていたのですが、なんとなく周囲の流れで見てたようなもので、でも、やっぱり引き込まれたし、夢中になりました。試合後にはがっかりもしたし、ムカついたり、大喜びもしました。日本はもちろん応援していましたけど、イングランドを観たらスコールズとかベッカムとか、スコットに教えてもらった選手たちが出ているわけですよ。それは興奮しました。それで、2回目の訪問ではその話をしました。英語も前より上達していたし、サッカーという共通の話題をシェアできたことがうれしかった。そこからすっかりマンUのファンになり、リーグの試合も見るようになりました。

“美しい”国旗の飾り方

2003年にイギリスに留学します。でも、それから3年半いたのにオールド・トラフォードでは試合を観れていないんです。というのも、シーズンチケット(年間パス)を持っていないとチケットも取れないし、取れても人気過ぎて学生には難しい値段…。 だから、友達がシーズンチケットを持っていたスパーズとかウェストハムの試合を観に行ったりしていました。イギリスでは、フットボールが一年の生活の様々な場面に登場します。シーズンスタートの季節があり、1月の移籍とかチャンピオンズリーグの時期とか、いろいろありますよね。その時の季節や状況、自分の応援しているチームの順位とかが、日常生活に入り込んできて影響してくるんです。それがすごくおもしろかった。EUROを初めて観たのが、2004年。ロンドンに来て初めて接したイングランドチームの大きな大会でした。その時期、街中の窓やベランダにイングランド国旗が飾られて、街のいろんなところで国旗を目にしました。自分の作品で、ロンドンの街にある“赤”を“威厳”として撮る「DIGNITY RED」というシリーズがあります。その中の一枚が、EURO中に飾られたベランダの国旗の写真です。その風景にフットボールに現れたイングランドのスピリットを感じたんです。結局ポルトガルにPKで負けたんですが、 実は試合前、本当になぜか負けるかもという予感もあって、ポルトガル戦直前に撮りました(笑)。

撮影中、地元のいかにもフットボールサポーターらしいタトゥーの入ったおじさんが通りかかって、カメラを構える私の横で、国旗のある風景を見ながら「ウツクシイ」って言ったんです。最初何を言ったのかわからなくて、もう一回確かめると「美しい」と日本語で言ってくれたと知り、その言葉にすごく感動しました。私はフットボールのスピリットを美しいと思っています。それをフットボールの本場イギリスの人が、なんでその日本語を知っていたのかわかりませんが、私が感じるのと同じ「美しい」という言葉をそのタイミングで言ってくれたことが、うれしくうれしくて。今日のポルトガル戦もがんばろうね!って盛り上がりました。この話しって、サッカー好きな人じゃないとわかってもらえない話しなんですよね(笑)。

「フットボールは、少年を大人にして、大人を紳士にする」

「フットボールは、少年を大人にして、大人を紳士にする」というイギリスの格言は本当だと思います。ベッカムが2006年のイングランド代表キャプテン引退の記者会見で声につまりながら声明を読んだことがありました。質問も受けずに帰っていったんですが、そのあと記者たちはスタンディングオベーションをしたんです。スコットに存在を教えてもらったマンU時代から、ナショナルチームではレッドカードの退場劇があって、その後日本ではベッカム様になっていきましたけど(笑)、最終的に彼のキャプテンシーはすごかったと思います。普段叩いてばかりの記者たちに、真摯に対応している彼はピッチでも会見でも戦っていたわけですよね。チームメート思いだし、不屈の精神を持つ紳士だと思っていました。そのベッカムも、デビューから10年在籍していたマンUの良さは、やっぱり強さです。常に強いってすごいですよ。あとは誇りですね。このチーム、ギグスとかネヴィル、スコールズら、自分も10年以上気持ちをともにしてきた選手がいるわけです。他にも実際試合を観てきたわけではないですけど、歴史上マンUに骨を埋めた偉大な選手たちも多いんですよね。マンUというチームにみんな誇りを持っている気がするし、そうあってほしい。

今季ルーニーが抜けるかもっていうとき、すごく怖かったんです。イングランド代表のスーパースターであるルーニー、マンUってそういう選手が存在するのにふさわしいチームな気がするんです。もちろん各国の選手がチームとして染まりまとまる誇りは大好きですが、イギリスにいたし、自分もイングランドを応援してきたので、応援するクラブチームにもイングランドの代表選手がいてほしい。ファーガソン監督の偉大な仕事のおかげで、ルーニーが残ってくれて本当によかった。

やっと日本に復帰できた

2006年のW杯はロンドンで観ていました。ファーイーストからやってきた日本チームが映った時、全然知らない選手ばかりで、自国のチームなのかどうかピンと来なかったんです。それが嫌だったんですよ。2010年のW杯で、ツイッターの影響もあったと思うんですけど、日本戦に気持ちを入れて臨めたときは、母国に復帰した感じがしました(笑)。ただ、イギリスにいてフットボールスピリットに目覚めたから、日本対イングランドの親善試合の時はどっちを応援していいかわからなくて、落ち着いて観てられませんでした。

憧れの地、オールド・トラフォード

とにかく一回はオールド・トラフォードで観たい。スコールズが引退する前に!マンU対チェルシーの試合なんてドキドキしすぎて観ていられないかもしれない(笑)。そして、伝統のマンチェ・ダービーも一度でいいからこのスタジアムで観たいです。

keiko kuritaが選んだベスト11

マンUがベストメンバー

ベストメンバーは、今季のマンUチーム (笑)。もうこのまま優勝してほしいし、する!という思いを込めて。マンUは各選手のポジションも柔軟だし、もう1チーム組めるくらい選手層が厚い。でも、4-4-2が一番好きです。ワントップも嫌いじゃないんですけど、最近、ルーニーとベルバトフのやりとりが好きなんです。ただ、ルーニーはもう少しわがままになってもいいんだよとは思ったりもしています。

keiko kurita プロフィール

keiko kurita(ケイコ・クリタ)

keiko kuritaプロフィール

1975年生まれ。写真家。06年にゴールドスミス・カレッジ・ロンドンのメディア科修了。雑誌や書籍の撮影の他、日本国内外で作品を発表し続けている。08年PUNCTUM Photo+Graphix Tokyo「H2O」、09年レイキャビック写真美術館「innocent water」、ASI美術館「tree/sleep」など様々な場所で展示を行う。  作品集に

『wonder Iceland』(mille books)『aquatic water』(UTRECHT)。

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