サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

「一回来てみたら、すごいね。素晴らしい国だと思って、住むことにしました」。旧ユーゴスラビアの政変をきっかけに来日した、サッカーを愛する一人のモンテネグロ人、ステボビッチ・プレダラッグ。近しい者から“ページャ”と呼ばれる彼は、「社会的にも、人間的にも、習慣的にも、食べ物的にも」すっかりなじんだ第二の故郷で、いまもサッカーの夢を見る。

モンテネグロの芝生育ち

モンテネグロの家の周りに広い空き地があったんですよ。すごくいい芝生が生えていて、サッカーをやるには最高の場所です。少年時代、私は近所の子供たちと毎日そこでサッカーをしていました。いつも4対4や5対5のゲームです。先日、モンテネグロ出身のペトロビッチ監督(浦和レッズ)に聞きましたが、4対4、あるいは5対5は、スペースがあって自分で判断をする機会も多いので、子供にとってとてもいいトレーニングになるそうですね。あのころ私たちは2つの石をゴールにしていました。だから試合をすると必ず、「いまのはゴールだ!」、「いや、絶対に外れてたぞ!」という言い争いが起こります。そんなふうにして、子供のころからアピール力を磨いているモンテネグロサッカーの特徴は、なんと言っても勝負強いところ。私たちは人口わずか65万人の小さな国ですから、いい選手が出てくる確率には限りがあります。ですから、その世代の選手の能力を見て、柔軟にサッカースタイルを変えることも私たちモンテネグロサッカーの1つのポイントですね。いま行われているユーロ2012の予選で、私たちはイギリスやスイス、ブルガリアといった強い国と同じグループで戦っていますが、私はこのチームが勝つことはもちろん、負けない点も評価しています。
ブチニッチとドリンチッチという2人の中心選手を欠いた状態で乗り込んだイギリスでのアウェイ戦も、見事に0-0で乗り切りましたね。完封の立役者となったキーパーのボジョビッチは成長株で、この先プレミアリーグでも活躍できる才能の持ち主。モンテネグロはそのほかにもいいキーパーが多いですよ。

うまくてもアピール下手な日本の子供

私がいま指導している日本の子供たちと旧ユーゴの子供たちと比べると、スピード、技術、柔軟性、判断、すべてにおいて日本の子供の方が優れています。逆に日本の子供に足りないところは、これらのストロングポイントを有効に勝負に生かせていないところです。どんなにいいものを持っていても、アピールをしないし、遠慮しすぎるところも大きな問題だと思いますね。そういうバランスの悪さは指導者側にもあります。伸びしろのありそうな選手が、足元の技術が足りないといった印象でセレクションに落とされてしまうことがよくあるのです。モンテネグロは人口が65万で人材が限られています。だから何度もセレクションを行って選手の才能を見極めます。14歳でセレクションを通過し、16歳でもう一度セレクションを通過する選手がいる一方で、14歳のセレクションに落ちた子が、16歳のセレクションを平気で通過するということもあります。モンテネグロでは14歳から18歳で伸びた選手ほど、トップチームに上がってから結果を出す傾向があるといわれています。だから、子供の成長を長い目で見ないとダメですね。ただ、日本のプロサッカーはまだ若いので、まだまだ時間が必要だと思います。それともうひとつ、日本では学校の先生がサッカーを教えることが多いですが、私が指導している小学生に話を聞くと、ワンパターンな練習に飽きてしまう子が非常に多いんですね。それが不満でやめてしまったり、他の部活にいってしまう子もいっぱいいます。小学校の先生たちが、もうちょっと楽しい練習を考えてくれれば、あるいはサッカー協会がそんな先生たちに練習メニューを提供してあげれば、もっと面白い練習ができるようになって、もっとサッカーにこだわる子供が増えると思います。

第二の故郷でサッカー漬けの日々

私がサッカー指導者の道を選んだのは、兄の影響が大きかったですね。それに、やはりサッカーが一番好きなことですので。監督、選手、新聞記者、それに普段はサッカーやっていない人も、国籍も何も関係なく、一番盛り上がるのはサッカーの話です。私がコーチをしているからといっても、一般の人とサッカーの議論をして、私の意見の正しさを証明することはできません。ひょっとすると正しいのはあちらかもしれない。すべてを解決するのはグラウンドです。サッカーには終わりのない面白さがあるので、そこにハマってしまったんですね。いまは毎週スタジアムでJリーグの試合を1、2試合観ています。ときにはJFLも見に行きますよ。今年はポポビッチ監督が町田ゼルビアの監督をやっていますしね。テレビではチャンピオンズリーグや、ヨーロッパリーグを見ます。時間があるときは、浦和や町田の練習も見学します。プロチームの練習見学はすごくいい勉強になるんです。それから練習試合もよく観に行きます。そのチームが週末のリーグ戦で失敗したときなど、その原因がよくわかるんですよ。私のこれからの目標は、UEFAのA級コーチライセンスを取って、ジュニアだけではなく、トップチームの仕事に貢献することです。最初はアシスタントコーチや、レベルが高い日本の大学サッカーなどで指導したいと思っています。やっぱり自分のサッカーの哲学の中で、自分のスタイルを出せるチームの監督がやりたいですね。第一希望は日本で、もし日本で仕事がなければ全世界で。サッカーは全世界のスポーツですから。

ステボビッチ・プレダラッグが選んだベスト11

勝負にこだわる日本人ベスト11

ベストイレブンには今後の6、7年を楽しみにしている、勝負強い日本人選手を選びました。こんな日本代表見てみたいですね。フォーメーションは4-5-1。ボランチは2枚だけど、細貝をちょっと下げて、東をちょっとだけ上げたいです。その前の中央のポジションに本田がいますね。右には岡崎。左はこれからすごく伸びると思っている原口元気。真ん中にはドルトムントの香川。これが勝負にこだわれる、全世界のどんなチームが相手でもビビらない選手たちです。もちろんサッカーの能力も技術もありますよ。これもすごく大事なことです。監督はU-22日本代表の監督をしている関塚さん。私だけではなく、オシム先生なり、ポポビッチ監督なり、すごく評価が高い監督です。

ステボビッチ・プレダラッグ プロフィール

ステボビッチ・プレダラッグ(ページャ)

ステボビッチ・プレダラッグプロフィール

1971年7月12日生まれ。モンテネグロ第二の都市、ニクシッチ出身。90年代初頭に旧ユーゴスラビア紛争が勃発すると、リエゾン草津(現ザスパ草津)の監督などを務めた兄、ステボビッチ・ラットコの勧めで1992年に来日。2000年から兄のアシスタントとして指導者の道に入り、現在はクーバー・コーチングのコーチとして日本のジュニア世代を指導中。モンテネグロの実家はローマで活躍する同国代表FWブチニッチの実家の近所。

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