サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

男性誌でありながら、女性読者からも大きな支持を集めるクオリティマガジン『Pen』。アートディクターを務める志村正人は、少年時代にみいられたサッカーに、いまも人生のエッセンスを見出し続けているという。

“サッカー推薦”でデザインの世界へ

高校卒業後は美術大学の通信制でデザインの勉強をしていたのですが、バイトもせずぶらぶら過ごしていた時期に、ある場所で、よく面倒を見てもらっていた通信制美大の先生に偶然会ったんです。彼はあるサッカー好きのデザイン会社社長の後輩で、前の日にその社長に会い、「若くてサッカーができるやつはいない?」と聞かれていたらしいんですね。それで、「君いま何やってるの?」と先生に聞かれて、僕は「何もやってないです」と答えました。「サッカーはできる?」と聞かれて、「はい、できます」と答えたら、「じゃあここに電話しなさい」と。そんなきっかけから関わらせてもらうようになったのが、いまのデザイン会社です。いわゆる、“サッカー推薦”ですね。そんな僕がサッカーを好きになったきっかけは、小学校時代に見た高校サッカーでした。僕の親は山梨出身なのですが、あの頃は韮崎高校の全盛期。正月に山梨の田舎に帰るとテレビで高校選手権を放送していて、それを見て「面白い!」と思ったのが、サッカーとの出会いでした。

『Pen』と歩んだ11年

雑誌『Pen』は、1997年の創刊時からデザインスタッフの一人として関わり、アートディレクターを任されたのが2000年。それから、あっという間に11年が過ぎていました。この雑誌を作るうえで最も心がけているのは、読みやすさ。デザイン的には“デザインをされているように見えないデザイン”というところにこだわっています。ちょっとわかりにくいですね?言い換えれば、素材を生かすためのデザイン。それが『Pen』のデザインワークの基本です。表紙に関しては、他誌と比べて極端に文字の量を抑えています。これも素材を生かすための考え方ですね。読者を視覚的に取り込むためのインパクトを作り出す狙いです。僕を知る人間は、『Pen』の中に“志村らしさ”があると言います。でも、そういうことは案外本人にはわからないものなんです。『Pen』に関して、僕は何も細かいことはやっていませんが、間の取り方や生かし方に、僕らしさが出ているんじゃないかと思っています。それは“デザインしてないように見えるデザイン”という話にもつながってくるのですが。

汗をかくアートディレクター

“アートディレクター”のポジションをサッカーにたとえるなら、本来は司令塔でしょう。ただ、実感としてはボランチが一番近いような気がしています。自分なりには、攻守にわたって運動量も多く仕事をしているつもりですからね。デザイン会社なので、複数の媒体の作業を並行して行うのが日常の仕事のスタイルですが、自分の中ではどの仕事に対しても同じ気持ちでいるように心がけています。見せ方や表現の形は変わっても、“試合への入り方”みたいなものは同じ。だから毎日朝も同じ時間に会社に来て、同じようにやる。その繰り返しなんです。サッカーはクリエイティブなスポーツだと言われますよね。同じ状況、同じメンバー、同じ相手でやっても、決して同じ結果にはならない。弱者が強者を食うこともあります。僕がサッカーに引かれるのは、どんなことでも起こり得るサッカーの可能性なんだと思います。カテゴリーや性別を問わず、サッカーの試合は地上派で見られるものは何でも見ます。ただ、いまは有料放送だけは自制しています。入りたい気持ちはあるんですけどね。そうなると、もうサッカーしか見なくなってしまうので(笑)。

気持ちいい雑誌作り

とにかく楽しく仕事をすること。それが僕のやり方です。『Pen』との付き合いもわりと長くなりましたが、その姿勢は維持していきたい。『Pen』のデザインに関しては、じわじわと、傍目にはなかなか気がつかれないような変化を繰り返していきたいですね。街の中に、自分が手がけた雑誌の読者を見つけたり、身近な人から「あの記事は良かった」と言われれば、やっぱりうれしいですよね。読者が気持ちよく付き合っていけるような、そんな雑誌を作っていくことが今後の目標です。

志村正人が選んだベスト11

超個人的。印象に残ってるベスト11!

昔からクライフが好きだったので、代表チームならオランダ代表、クラブチームではクライフ監督時代のバルセロナが好きでした。僕が選んだベストイレブンのフォーメーションも、当時のバルセロナのイメージです。メンバーは、僕が部活でサッカーをやっていた時期に高校選手権で活躍した選手たちを中心に選びました。好き嫌いというよりは、どこか印象に残っている、という選手たちです。こうして見ると、ポジションごとにタイプが違いますね。ディフェンス陣はしっかり者で、中盤は個性派ぞろい。磯貝や石塚にいたっては、ちょっとばかり個性が強すぎました(笑)。高校時代の羽中田さんは持病で出場時間が制限されていたのですが、出たときには決まっていい仕事をするんです。当時の韮崎には、前に保坂と大柴いういいフォワードが2人いて、3人合わせて“H2O”なんて呼ばれていたのも懐かしいですね(笑)。藤田は僕と同い年。彼の現役にこだわる姿には、やはり共感してしまいます。だって本当にサッカーが好きじゃなければ、とてもこの年まで続けられるはずがないんですから。藤田にはボロボロになるまで走り続けてもらいたいです。

志村正人 プロフィール

志村正人(シムラマサト)

志村正人プロフィール

1971年7月10日生まれ。東京生まれ東京育ち。1996年にデザイン会社、参画社に入社。様々な媒体のデザインワークを手掛け、2000年よりライフスタイルマガジン『Pen』(阪急コミュニケーションズ)のアートディレクターを務める。高校サッカー、Jリーグ、日本代表、女子サッカー、海外サッカーにいたるまで、あらゆるサッカーに一家言持つ筋金入りのサッカーフリーク。

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