サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

08年、デビュー作の「廃車」で文學界新人賞を受賞した注目の小説家・松波太郎。高校時代、スペインへのサッカー留学経験もある松波は、サッカーをモチーフとした小説「よもぎ学園高等学校蹴球部」で09年の芥川賞候補にもなった。サッカーを書いたことにそれほどの意図はないが、今のJリーグには思うところがあるようだ。松波が考える“これからのJリーグ”。

スペインで生活の一部になったサッカー

高校の時、休学をして3ヶ月ぐらいスペインに行かせてもらった経験が、サッカーを僕の生活の一部にしてくれました。「よもぎ学園高等学校蹴球部」でサッカーを書いたのも、奇をてらったつもりはなく、生活の一部として自然に書いていった記憶があります。スペインを選んだのは、南米かヨーロッパかを決めかねての折衷案だったと思います。スペインの日常にサッカーが結びついている理由はいくつかあるとは思うんですが、ひとつは当時のスペイン人がナショナルチームにあまり愛着がなかったからだと思うんです。前回のW杯でようやく優勝しましたが、無敵艦隊と言われ続けながらも勝てない現実と、バルセロナとマドリッドの対立やバスク人だけのチーム「アスレティック・ビルバオ」の存在など、歴史的な地元志向の強さから、国という単位の代表チームにあまり興味を持てなかったんじゃないかなと。一般的にサッカーではW杯が一番大きな大会で、EUでは次にユーロがあります。でもスペインでは、それよりも毎週末の国内リーグ戦のほうを楽しみにしていて、サッカーがすごく日常にフィットする感覚があったんです。代表ありきな日本とは、ファンとクラブの関係一つを取ってもぜんぜん違っていて、単なるサッカーの試合以上のものが強く感じられました。そこから翻って日本のJリーグを考えると、このままじゃまずいんじゃないかなと感じてしまったんです。

全員外国人のチームがあってもいい

Jリーグには、スペインの都市のような歴史的背景がなく対立を煽るのが難しい。よく県民性、地域性が話題にのぼりますが、言うほどは差がないと思うんです。地域のチームと自治体とのつながりもバラバラ。いまJFLとJ2がJリーグの解雇選手の受け皿みたいになっているわけですよね。そうなると地元出身者の割合は自然と少なくなる。少なければ少ないだけ地元民も愛着をもちにくい。じゃあどうするかと考えたとき、あらかじめステイタスを決めるというのもありなんじゃないかと思うんです。シンガポールリーグでは、日本国籍だけのチームやフランス国籍だけのチームがあったりします。同じように日本にも、外国人だけのチームがあってもいいと思うんですよ。それか、日本人枠3人とかにして。35歳以上のベテランだけのチームとか、北関東人しか入れない血縁(笑)のチームとかがあったっていい。闇雲に各地域にチームをつくっていっても、地域差や特質はそれほど見えてきません。
もうひとつの問題は選手間の力の差です。天皇杯を観ていると大学生がプロに勝つこともありますよね。高校サッカーやユース年代も最近では毎年のように勢力図がかわっています。それだけコーチング技術の裾野が拡がったということでしょう。純粋に日本人だけのチームなら能力はわりと均衡していたりします。J1とJ2、JFLで決定的な違いというと外国人なんですよね。資金のあるJ1だけが質の高い外国人選手・監督・コーチを入れることができる。それゆえにかろうじて能力の差が見えていると思うんです。なぜこんな話をいま熱弁するかというと、原発や地震の問題で実績のある外国人選手は今後ほとんど来なくなるだろうと危惧しているからなんです。そうなると日本人ばかりのチームになり、よりJリーグ、J2、JFL、大学生の能力レベルの垣根がなくなっちゃうんじゃないか。そのうえ地域差も特色もないとなると、誰も観に行かなくなるんじゃないかと心配なんです。

サドンデス/Vゴール復活を!

僕のサッカーヒーローは福田正博でした。欧州にはいませんよね、ああいう選手。欧州人はみなさん絵になりますから(笑)。テクニックだけでやろうとしないところがよかったし、喜んだとき、怒ったときの表情のくずれ方もよかった。解雇されたのに、浦和レッズにこだわって他のチームの誘いを断ったあの去り際もよかった。福田みたいな選手って日本にも今なかなかいませんよね。このチーム一筋でやっていくっていう、チーム愛を感じさせるJリーガーが。若い人だと、海外に行きましたが槙野はそうだったのではないでしょうか。チームを応援するのは好きな選手から入っていくことが多いと思うし、サポーターも選手の愛着には気づくと思います。いまはなくなってしまいましたが、福田を熱くさせたかつてのサドンデス/Vゴールというルールは、ファンをも熱くさせるいいルールだったと思うんです。Vゴールを決めたときの福田のガッツポーズにはそそられました。いまの引き分け制度が個人的にはしっくりきていないんです。コーナーアークのあたりでする時間稼ぎがつまらなくて(笑)。おそらくドーハの悲劇などから教訓を得て、“日本でも引き分け制度を作って確実に守れるサッカーを”という狙いなのでしょうが、日本は日本独自でたのしめるルールを考える必要があるのだと思います。以前のサドンデス形式やPK戦までおこなう完全燃焼型の試合は、欧州リーグのような派手さのない日本には合っていて、いま以上に盛り上がるはずなんです。もっと勝ちへの執念を観たい。今は欧州スカウトのお披露目会みたいな感じがしてしまっています。若手選手も中継地点のように考えている人も多いだろうし、もちろんどんどん海外には行って欲しいんですが、いい選手が抜けた後でも盛り上がれるシステムをJリーグは考えていかないとダメだと思うんです。何だか偉そうですが(笑)。

ホモ・サピエンス化するFWのサッカー

小説でサッカーを書くのが難しかったかと聞かれると、わからないとしか言えません。というのも、他のスポーツを書いたことがないので。ある意味絶対的な存在として書いたところがあるし、いま振り返ってみてもこれが成功したのかどうかわかりません。自分では行き当たりばったりで書いたという実感があります。そのへんは、サッカー的な考え方が反映されている気がしています。僕のポジションはFWだったんですが、こういうプレーをしようとか裏をつこうとか、試合前に考えてプレーをすると、たいてい上手くいかない。僕はプロにはなれないぐらいの身体能力だったので、考えて動くと必ず1テンポ遅れてしまう。だからそのあたりの駆け引きを考えたとき、自分が動物的にならないとだめだと思ったんです。DFは万策つくして守ってくる人間様なので(笑)、こちらは野生を解き放ってホモ・サピエンスにならなきゃいけないわけです。考え過ぎたり、あらたまっていたら潰される。そういう考えが僕の中にありました。それが小説を書いているときにも言えて、小説を書いてない時間には小説のことは考えないようにしています。例えば、終わり方をあらかじめ考えてしまうと、そこに至るまでの文章の流れも勢いも失ってしまう。そういった考え方は、自分でもよくわかっていませんが、もしかしたらサッカーのFWっていうポジションから来ているのかもしれませんね……なんだか頭のわるい思考法ですね(笑)。

毎週末のサッカーをストレスのはけ口に。

夢はJリーグが盛り上がることです。もちろん代表戦も観ますが、毎週末のJリーグを楽しみたいし、お客さんがいっぱい入っている中で試合を観たい。WOWOWでバルセロナの試合を観ている家の戸を一軒ずつたたいて、今からスタジアムにいこうぜって誘ってまわりたいですね(笑)。4年に1回のW杯だけを楽しみにするのは、やっぱりちょっと寂しい。平日にためこんだストレスを、週末のスタジアムで解消する。最近では、家からの距離が一番近いJFLの町田ゼルビアの試合を観にいきます。地域のチームをできるだけ応援したい。それが1番便利で、面白いんだと思います。

松波太郎が選んだベスト11

歴代の外国人Jリーガーのベスト11

歴代の外国人Jリーガーのベスト11です。今後Jリーグに質の高い外国人選手は来ないかもしれないという切なさも込めて。パフォーマンスとしてもお客さんを楽しませてくれるような選手を選びました。監督は日本で指導歴のあるベンゲルで。

松波太郎 プロフィール

松波太郎(マツナミタロウ)

松波太郎プロフィール

1982年、三重県生まれ。小説家。大東文化大学、北京外国語大学、宇都宮大学を経て、一橋大学大学院修了。08年、「廃車」で文學界新人賞を受賞。09年に「よもぎ学園高等学校蹴球部」で芥川賞候補になる。高校時代、スペインにサッカー留学経験あり。

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