サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

『サッカーボーイズ』シリーズを始め、サッカーを題材にした小説を数多く発表している小説家はらだみずき。『サッカーボーイズ』では、仲間たちや自分の能力に悩み、成長する10代のサッカー少年たちの姿を描き、『スパイクを買いに』では、サッカーが自分の人生で大切な意味を持ったサッカーコーチたちを描いた。サッカーが人を成長させ、成長した人がサッカーを最大限楽しむことができる。サッカーの楽しさや難しさを巧みに書く小説家のサッカーへの想い。

プレーは感覚的に描きたい

小学校6年生のときの卒業文集には、“夢はサッカー選手”と書きました。でも当時は、日本にはプロリーグもなく、サッカー部のある企業でサッカーを続けたい、という意味だったと思うんです。その次に、高校生くらいに夢として持ったのが小説家だったんです。“小説のようなもの”を書き始めたのは中学の終わりの頃。大学時代ぐらいから具体的に作家になりたいなと思っていました。サッカーの小説が書きたくて書き始めたわけではなく、そのときはサッカーと全然関係のない小説を書いていました。
デビューから6年で、文庫化も合わせると12冊の本を出しています。サッカーの小説は、ある意味では書きやすかったと言えると思います。サッカーに対する想いはすごく強く持っていましたし、サッカーの物語が、自分がはじめてちゃんと書けた長編小説でもありました。サッカーのプレー描写は特別な意識はしないで書いているのですが、それは自分がサッカーをやっているからできるのかなとは思います。自分がプレーしているなかで見える風景みたいなものがあって、その動きながら見えている絵を同時進行的に書いていく。サッカーを書くことが難しいかどうかは、サッカーを小説のなかでどう書くかなんでしょうね。想い入れをもって書くのか、ストーリーのための要素として書くのか。自分は描写という意味では、感覚的に書きたい気持ちが強い。そういう意味でプレー経験は活きていますね。
じゃあ、そもそもなんでサッカーを始めたのかなと考えてみると、小学校6年生のときに地元の高校が選手権に出たことが大きかった。突然と言えば突然なんですが、お正月、夢中になって観ていました。衝撃というか、もうこれだって思いましたね。それまでは野球少年だったのが、サッカーがやりたいとすごく思った。

サッカー部は悪の巣窟…?

ただ、当時は近くにサッカークラブがなくて、野球のリトルリーグしかなかった。だから中学でサッカー部に入るぞ!と意気込んでいたんですが、サッカー部は“悪の巣窟”みたいなウワサが当時はあって、先生から「まさかサッカー部に入るのか」みたいに言われてしまい、大人の言うことを鵜呑みにして引いてしまったんです。高校に合格して、やっぱりサッカーがやりたい!ともう一度思い返して、そこから走り込みを始めました。入学前に体力をつけておこうとしたんです。みんなはずっとサッカーをやってきた中で、ほぼ素人の僕が一生懸命やっていたことを評価してくれて試合に出してくれました。高校は弱いチームだったけどすごく楽しかったですね。でも実は、一度サッカー部を辞めたことがあって…。何か気に触ることをしたんだと思うのですが、恐かった先輩から呼び出されて、「辞めたいやつはここから出てけ」って叫ばれたんです。部室のドア近くに立っていたんですが、あんまりちゃんと聞いてなかったんでしょうね、びっくりしてドアを押して飛びだしちゃった(笑)。出てきちゃったもんだから、もうしょうがないやと行かなくなってしまったんです。1週間ぐらい経ったある日、先輩が待ち伏せしていて、何を言われるのかとドキドキしていたら、「お前本当に辞めるのか」「はい、辞めます」という話しをした後、校庭に連れて行かれて「お前見てみろ、あいつらは練習しているんだぞ」と元チームメイトの方を見たんです。先輩は自分の引退した部の人数が少なくなることが寂しかったんでしょうね。僕も「やっぱりやります」と。それがなかったら本当に辞めていたでしょうから、今から思うとすごくありがたい。サッカーに対して強い思い入れがあるのは、サッカーが好きだった中学時代にやらなかった、やれなかったということがサッカーへの渇きになっていて、その空白を取り返したいみたいな感覚があったからで、いまでもそれは続いています。

自分は自分のサッカー、息子は息子のサッカー

小説にはいろいろな人間がでてきていろいろなことを言いますけど、基本的にはどれも自分の想いそのものです。ただそれが選手としてコーチとして、現実に実践できたかというとそうじゃない部分ももちろんある。選手やプレーヤー、コーチ、細かいこといえば審判や保護者、サポーターをやって、ようやく全体が見えてきた感じがしています。
息子は上が大学1年で下が小学校5年生。下の子から「今日は?」と聞かれて、「今日はお父さん自分のサッカーがある」と答えると、「僕は試合だけど、観に来ないんだね。お互い頑張ろうね」などと言われたりしています(笑)。自分の子供にサッカーについて何か言うんであれば、自分も続けた状態でいたくて、意地でサッカーを続けてきたところもあります。お前にも言うけど、俺もやってるよって。もちろん好きだからですけど、そういうこともモチベーションのひとつになっていた気はします。自分のようなおじさんプレーヤーやコーチたちが何人も小説には出てきますが、実際にそういう人たちが周りにたくさんいました。自分の息子がサッカーをやっているときはまったく興味を示さなかったお父さんが、息子が中学校を卒業したら僕らがやっている草サッカーに入ってきた。そこから、どうしちゃったのっていうぐらいにすごくのめり込んでいってましたね。誘ってもらって今も一緒にやったりしています。
 

スポーツとしてのサッカー

元々サッカーというより、スポーツって何だろうっていうところから一連のサッカー小説を書いたところがあって、というのも、スポーツってどういうものかあまり理解されていないんじゃないかと思うんです。スポーツと一括りに言うけど、サッカーがでてくる小説だからってスポーツ小説でもないだろうし、言葉の定義的なものから入っちゃうと難しいと思うんですけど、ざっくり言ってしまえば要するにスポーツは“楽しいこと”、そこを忘れちゃいけないと思います。サッカーの楽しさや得られることって他のスポーツにもいえますが、より際立ってやっぱり仲間だと思うんです。団体スポーツだけど、それぞれの役割と個性の違いで皆が主役になることもできる。守備の要であったり、ドリブラーであったり、色んなタイプが許され、認められますよね。あとは創造性。僕らの頃と比べて、サッカーは劇的に変わった。スポーツの中で、こんなに変われるものがあるのかっていうぐらい変わった。野球で変化球が増えるとかのレベルではなく、より劇的にです。サッカーの中で、例えば昔はフェイントというと相手の逆をつくくらいの意味ですよね。いまのフェイントのバリエーションや戦術の進歩はすごい。

サッカーを通して何を書くか

小説家として、これからもサッカーの小説を書いていきたいですね。2月に新刊の「ホームグラウンド」(本の雑誌社)が発売になるんですが、これまでにない新しいサッカー小説になっていると思います。来年はサッカーの新連載を二つ予定しています。これからもサッカーの世界を書いていって、いつかはプロの世界を書きたいですね。でも大事なのは、サッカーを通して何を書くかだと思っています。

はらだ みずきが選んだベスト11

小説『サッカーボーイズ』登場人物ベスト11

GK:長内陽介 通称・オッサ。野球が好きなくせに、サッカーのキーパーの道を選んだ守護神。
DF:西牧哲也 キャプテンの遼介を陰で支えるサッカー部イチの秀才。
DF:尾崎恭一 寡黙だった小学生時代が嘘のように変わる美顔の長身プレーヤー。
DF:青山巧 小学生時代、強豪クラブチームのキッカーズから移籍してきた技巧派。
DF:土屋直樹 小柄ながらディフェンスラインを統率する、ハートの熱いセンターバック。
MF:武井遼介 小学生時代の挫折を糧に、チームのキャプテンとして、自分のサッカーを追い求める主人公。
MF:市原和樹 サッカー部を一度は退部し、舞いもどってくる、やんちゃなレフティ。
MF:木暮輝志 遼介たちの小学校時代の監督である木暮優作の次男。次期キャプテンと目されているが、本人の自覚は?
MF:蜂谷麻奈 女子のクラブチームに所属しながら、男子に混ざりサッカー部に参加する紅一点。
MF:星川良 1年でJリーグ下部組織から追われる、遼介と共に「ダブルリョウ」と呼ばれるスピードスター。
FW:鮫島琢磨 遼介たちの幼なじみ。訳あって、生まれ育った桜ヶ丘を離れた県トレ所属の大型フォワード。

はらだ みずき プロフィール

はらだ みずき(ハラダミズキ)

はらだ みずきプロフィール

1964年、千葉県生まれ。商社、出版社勤務を経て作家に。著書に『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』『サッカーボーイズ 13歳 雨上がりのグラウンド』『サッカーボーイズ 14歳 蝉時雨のグラウンド』『サッカーボーイズ 15歳 約束のグラウンド』『赤いカンナではじまる』『スパイクを買いに』がある。『帰宅部ボーイズ』が、2011年の本の雑誌エンターテインメント・ベスト10の第2位に選ばれる。

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