サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

ジャズ、ソウルのみならず、オリジナリティーあふれる独自の世界観で数多くのファンを魅了するEGO-WRAPPIN’のサックスプレーヤー、武嶋聡。彼がミュージシャンとして生きているのは、サッカーとの不思議な出会いがあったからかもしれない。

サッカーとサックスとの出会い

母校の小学校には当時、サッカー部がなかったんですけど、『キャプテン翼』の影響でサッカーはやっていました。スカイラブハリケーンを真似して、けがをしたことも(笑)。当時は結構うまくて、球技大会になるとキャプテンをやって、バーンってシュートを打って、(女の子の声で)キャーって(笑)。いつも前線にいて、一番おいしいところをもっていきました。楽しかったですね。中学に入ってからサッカー部に入ろうと思っていたら、ここでもサッカー部がなかった。当時の田舎はまだなかったんですね。じゃあ、どうしようとなったときに兄がブラスバンド部に所属していたのと、当時チェッカーズがすごく流行って、サックスを…。

ここからは音楽に没頭しました。朝から練習をして、夕方もみっちりやって。結構厳しかったんです。岐阜では有名な中学校で、全国大会にも出たことがある学校でした。先生もとても厳しかった。でも、高校ではブラスバンド部がなかったんです。そうしたら、今度はサッカー部があったんですよ。どっちで頑張っていこうかなって思っていたら、Jリーグが開幕。じゃあJリーガーだろうと(笑)。小学生の記憶が蘇ってきたんですね。サッカー部でやっていく自信もありました。でも、小さいときからずっとやってきたみんなにはかなわなかったですね。中学のときにサッカー部があれば、絶対に入っていたので、そこまで差はつかなかったと思うんですが(笑)。

熱く、興奮した等々力での一日

高校2年の夏からまた楽をやり始めました。ちょうどスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)やフリッパーズ・ギターが出てきたころで、コピーバンドをしたり、すごく楽しかったですね。
ジャズは大学に入ってからです。ジャズ研究会に入って、ビッグバンドジャズという17人編成で、各大学のバンドが集まるビッグバンドジャズコンテストにどっぷりはまりました。3年生のときに部長をやって、全国大会で準優勝したんです。

音楽をやり初めてからはフットサルをするか、テレビでサッカーを見ることが多くなっていたんですが、昨年初めてJリーグを見に行きました。ある友人に「Jリーグの生観戦の素晴らしさ」を説明されて、これはいかなあかんなと(笑)。等々力陸上競技場で川崎フロンターレと清水エスパルスの試合を観戦しました。特に中村憲剛の動きに注目していたのですが、ポジショニングが絶妙でしたね。あれは、テレビの中継だと見ることができません。ボールをもらうまでの動きがほかの人とはまったく違うんです。一人の選手に着目してゲームを見ることができるのはスタジアム観戦の醍醐味の一つですね。応援もとても見応えがありました。川崎にはホームならではの迫力があって、清水はサンバのリズムが見事でした。ウチの子どもは川崎を応援しに来たはずなのに、サンバにノリノリでした(笑)。試合は、ジュニーニョ(当時)の大活躍で川崎が勝ちました。やっぱり応援したチームが勝つのはいいですね。ライブのときとはまた違う盛り上がりを見ることができたので、ぜひまた見に行きたいです。

ミュージシャンにも課せられるアウェイ

実は、ライブにもホームとアウェイがあるんですよ。ワンマンライブって、そのバンドを目当てに来てくれる人がほとんどなので、お客さんと一緒に盛り上がっていけるからこっちも「よしっ!」ってなる(笑)。でも、複数のバンドが参加するイベントに行くときは違います。ジャンルの違うイベントに出ることも多いんですが、それってものすごいアウェイなんですよ。最初は「誰だ、お前ら?」みたいな雰囲気で。1曲目が終わっても、シーン…なんてこともあります。でも、そういう環境で曲を披露していくたびに、お客さんの気持ちをつかめていけるときがあるんです。それはサックスを吹きながらでも、お客さんの反応を見ていたら分かるんですよ。

以前、EGO-WRAPPIN’のライブで、ものすごい大御所の方々が出演されているイベントに出演したんです。「これはなかなか厳しいライブになるかも。演奏に集中しよう」と(笑)。でもそれが功を奏してか、そのときのライブがすごくよくて。最初は静かだったお客さんも徐々にノリがよくなってきて、最後は飛び跳ねるほどの盛り上がったんです。
あの空気はスゴかったですね。アウェイでこれだけ盛り上がれるんだと。自分たちの音楽を広げるためにはアウェイのライブに何回も出て、初めて見てもらうお客さんを取りこんでいかなくてはいけないんです。まったく客層が異なるところで自分たちの演奏をして盛り上がると間口を広めていくんです。もちろん最後までノリきれないときもあるんですけど、うまくいったときはメンバーもスタッフもテンション上がりますね。昨日までは自分たちの名前も知らなかった人たちが盛り上がっているわけですからね。ワンマンライブのときとは別の気合が入るんです。きっと、サッカー選手もアウェイの試合は普段と違うモチベーションがあると思うんですよね。「ここで相手を食ってやるぞ」って監督が言えば、選手にとってもいつも以上に火がつくんじゃないですか。ホームチームのサポーターが多いスタジアムで、アウェイチームが勝ったときの気分は最高でしょうね。ミュージシャンがアウェイのライブでお客さんの心をつかむこととサッカー選手がアウェイで結果を残すことは、いろいろなライブに参加するミュージシャンとサッカー選手の共通点と言えるかもしれません。

自分の好きなことをずっと続けていきたい

音楽にはのめりこんでいましたが、最初からミュージシャンになろうとは思っていませんでした。大学卒業後はサラリーマンをしていたんです。だからミュージシャンになるという夢を追いかけて…今の仕事をするようになったというよりは、好きなことをずっとやっていただけなんです。
その会社に3年いましたが、あるとき有給を使い果たしてしまって。上司に「お前はどれだけ体が弱いんだ?」って言われて(笑)。実は、病欠をもらってはライブをしていたりしました。ほかにも金曜日に会社が終わった後、夜行バスに乗って東京でライブをしていたんです。それでまた大阪に戻って月曜日に仕事をして…ということを繰り返していたんです。

ちょうどそれくらいのときに、いまやっている音楽がそのまま職業になったら、どんなに幸せだろうと思うようになっていたんです。そのときですね。音楽で生きていくかって決意したときは。25歳のときでした。
世の中のバンドやアーティストとしては、武道館みたいな大きなところでライブをやれるようになることも一つの目標だとは思いますが、かたやいちミュージシャンとしては50人くらいのキャパのところで、会場の全員が「次、アイツは何を仕掛けてくるんだ?」と思われたなかで、演奏することが自分にとってやりがいがあります。そしてその演奏を聞いてもらって「力をもらえた」などと言ってもらえると、「ああ、人の役に立っているんだなと」と思えるんです。だから、夢はそれを一生続けられれば…。小さい夢かもしれませんが、そういう思いを胸に秘めながらこれからも音楽とともに生きていきたいです。

武嶋 聡が選んだベスト11

アクの強いベストイレブン

ジャズとサッカーの共通点はなんだろうと考えたときに、個性が重視されるんじゃないかなと。サッカーってほかのスポーツと比べると、プレースタイルは人それぞれですし、ピッチも広いから個性が出やすいスポーツだなと思ったので、アクの強いプレーヤーを11人選びました。どうでしょう、この異端児ぞろい(笑)。どの選手にもいろいろな過去があって、生き様もそれぞれで…。アクが強すぎてまとまらないところは、ドゥンガと監督のマラドーナにまとめてもらいます。こんなチームがいたら、ベンチの後ろには警官がずらっと配備されるでしょう。対戦相手でこのメンツが出てきたら絶対に戦いたくないですね(笑)。みんなサッカーがうまくて、個性も強くて、予想もつかないプレーをするんですから。やっぱり、ミュージシャンの世界でも、面白くて魅力のある人はミュージシャンズミュージシャンと言うのかな。そういう人が、多くの人を惹きつけることができるし、やっぱりちょっと普通とは異なる過去を過ごしてきた人のほうが、人を惹きつける力は強いんですよ。サッカーでも、そういう人のプレーを見ているときが楽しいですね。

武嶋 聡 プロフィール

武嶋 聡(タケシマ サトル)

武嶋 聡プロフィール

1976年2月19日生まれ。岐阜県出身。サックス、フルート、クラリネットのプレーヤー。楽曲のアレンジなども手掛ける。EGO-WRAPPIN’ AND THE GOSSIP OF JAXXのメンバーとしての活動を中心に、バンド活動を精力的に行っている。また、トータス松本、星野源、Superfly、the HIATUSなどをはじめ、様々なアーティストの楽曲アレンジ、ライブサポート、レコーディングに参加。
http://www.egowrappin.com/
Twitter: @takesax

ページの先頭へ