サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

連載作品『日常』が、2011年にアニメ化もされた漫画家・あらゐけいいち。『日常』の世界観もさることながら、あらゐけいいちが愛するサッカーの姿は、少々変わっている。

すべてを誤魔化したかった、あの頃

ゲームと漫画ばかり読んでいた小学生時代。そこにキャプテン翼ブームの直撃があり、ご多分に漏れず少年サッカークラブに入りました。キャプテン翼だと三杉くんに憧れました。なぜ三杉くんかというと、彼は当時、神みたいな存在だったロベルト本郷に完璧だって言わせたんです。三杉くんのプレーとかはどうでもよかった。そう言われていること自体に憧れていました。だってプレーだけだったら、立花兄弟とかのほうがっこいいじゃないですか。スカイラブハリケーンとか。まぁ、あれはやってみると怪我するんですけどね。サッカークラブに入って、キャプテン翼と実際のサッカーがあまりにもかけ離れていたことに愕然とした覚えがあります。結局、サッカークラブは1年くらいしかやりませんでした。スタメンに選ばれず、6年生の時に5年生チームの正ゴールキーパーをやらされて…。それがショックだったし、恥ずかしかった。しかも試合に出たら出たで、どんどん入れられちゃうし。こりゃだめだ、もうだめだって…。周りはどんどん上達するのに、僕は全然だった。それもそのはずで、そもそも努力をしていなかったんです。いかに努力しているふうに見せるかは考えていたんですけど(笑)。全部トゥーキックですごいキックを蹴るやつみたいに思わせたり、ゴール前に独走した時は変な動きで惑わせてからシュートをしたり。すべてを誤魔化していました(笑)。そこから、一度完全に球技を離れ、中学はウェイトリフティングをやり、高校は空手。その後はスケートボードと移っていきます。

ただただチラベルトを観ていたい

高校の頃にはJリーグも開幕していて、まさおがカレーを食べてラモスになってしまうくらい全盛期でした。にも関わらず、上記の件がありハマれずにいました。その裏でモスビーとかガルベスとか、巨人を応援していました。野球は親からの影響ですね。初期のJリーグを見ていても、なにが面白いかよく解らなかったんです。なんだかゴチャゴチャしてるし、点は全然入らないしで。その点、野球は楽しめるポイントがたくさんあったんですね。選手も一人ずつ出てきて、1番は足が速い、2番は技術職とかキャラクター付けも見ていてわかりやすかった。でも巨人がFAで選手を乱獲しだしたくらいから、野球への興味もどんどん離れていって、その時に偶然、ホセ・ルイス・チラベルトの存在を知ったんです。彼を調べたら、これがもうすごかった。気に食わない事があると殴っちゃうわ、相手の顔面にツバ吐いちゃうわ。しかし、自国では次期大統領だとも謳われている。何なんだこいつはと思いましたよ。仏W杯で、パラグアイがフランスに負けたんですけど、皆がうなだれているところを、チラベルトが一人ひとり励ましの言葉を掛けながら立たせていったんです。うわー、すごいかっこいい!って。サッカーを観るというより、ただただチラベルトが観たくて見ていた試合なので、試合の記憶はまったくないですね。そこからパラグアイの選手をひとりずつ知っていって、ちょうどその頃Jスポーツでブンデスリーグをやっていたのでパラグアイ選手を探して、バイエルンのサンタ・クルスを観ていました。その時、倉敷さんの実況と出会うわけです。倉敷さんの実況は、実況を聴きながらも副音声も一緒に聞いている感覚に陥るようなおもしろさがあったんです。「この選手、蕎麦屋のせがれみたいな顔してますね」とか。とにかく衝撃で、倉敷さんを追うようにしてサッカーを観だした記憶があります。

スーパープレーもアレなプレーも一期一会

試合は選手の面白いところを探すぞという気持ちで観ていたりします。いいプレーはいいプレーでもちろんおもしろいんですが、例えばカメラが客席を長い間映していて、解説者が何も言わないことがあるじゃないですか。そうすると、その時カメラに抜かれた人は誰だったんだというのが気になってくる。選手がツバをピッチに吐き捨てるシーンとかも、「いまのツバの量、倒れこんだら相当ユニフォームにひっつくぞ」とか、ファギーが噛んでるガム、今日は何味なんだろう。とか。そういうのが好きなんです。自分なりの見方を探しながら観るとすごく楽しくなる。もちろんプレーはプレーで大好きです。
いま変なことやってくれそうだと注目しているのは、やっぱりバロテッリかな。彼がピッチにいるかいないかでワクワク感が違いますね。すごいシュートを期待しつつも、不純なのですが超ダーティーなことも期待してしまう(笑)。シティにいた頃のバートンを観る感じですね(笑)。シティの優勝がかかった最終節で、バートンがテベスに肘打ちをしてレッドカードをもらい、カードをもらったことへの報復としてアグエロにローキックを放ち、コンパニに頭突きを食らわしたことがあった。さらにそれがおもしろいのは、バートンが試合前に試合をぶっ潰してやるって言っていたことなんです。自分で蒔いた伏線を自分で回収するというこの周到さ(笑)。キャラクターをより濃くしていくようなシーンを目の当たりにするのは楽しいですね。お酒のつまみを探すじゃないですけど、こういう試合を見て、サッカー好きの友人とあーだこーだ話をする時は至福です。もちろん毎回こんな感じだと、さすがにアレですけどね(笑)

絵空事だからこそ楽しい海外サッカー

僕はサッカーじゃなきゃいけないということはなくて、他を観なくなったからサッカーに行き着いた。ただ自分が観ていないだけで、観れば他のスポーツも楽しいと思うんです。錦織選手が出てきたことで四大国際大会のようなテニスの大会を観るようになったんですけど、テニスの1試合って超長いじゃないですか。このままテニスにずぶずぶハマってしまったらヤバイなと思いつつも、ジョコビッチが決勝でラケットを叩き付けて折ってしまうとか、疲れてきた時のナダルのサーブ時の顔とか見るとシビれてしまいます。
どんなスポーツも好きになると、いろんな角度から楽しみ方を見つけていくと思うんですが、僕はそれがサッカーでした。楽しみ方をたくさん知っちゃったというのが大きいです。試合の見方を変えて、点を決めて勝つこと以外の喜びを知ると、そのスポーツがどんどんおもしろくなる。それが沢山見つけられたという意味では、サッカー観戦は自分に合っていたんでしょうね。
海外サッカー観戦ばかりなのですが、実はあまり自国にこだわりたくないという気持ちがあります。本気で自国のチームに肩入れしてしまったら、負けた時のやるせなさは途方もなくなってしまうのでは?と。もちろん、それがあるから勝った時の衝撃的な喜びがあるとは思うのですが。なんというか、その一線を超えてしまうと趣味の枠から外れてしまい、生活に支障をきたしてしまいそうで…。ぼんやりとですが、そこの距離感は保ちたいんだと思います。とはいえ、すでに片足は突っ込んでしまっているのですが(笑)。

地殻変動にも似た夢

夢は、実現しない話でもいいですか? それだったら、欧州が日本の隣に来てほしいです。 間違えて隣に来れば、たくさん生で試合を観れたり、コアなゴシップも入ってきたりしますからね。一番はこれですね。もしくは日本がひょっこりひょうたん島みたいに流れて、アイルランドとイギリスの間にスコッと入っちゃったり、スペインが盛り上がってきたらふらふら揺られてそっちに行っちゃったり。あとはサッカー好きの友達が2、3人欲しいです。

あらゐけいいちが選んだベスト11

中南米ベスト11

戦い方はビエルサに任せます。さて、このメンバーでどんな戦略を見せてくれるか。

フォーメション:4-2-3-1
監督:ビエルサ

FW:ファルカオ(アスプリージャ)
MF:左:クエバス 中:バルデラマ 右:アイマール(ジエゴ) 
ボランチ:ダビドピサロ ボランチ:パラシオス
DF:左:ソリン 中:コルドバ 中:ガマラ 右:カニサ
GK:チラベルト(イギータ)

あらゐけいいち プロフィール

あらゐけいいち(アライ ケイイチ)

あらゐけいいちプロフィール

1977年群馬県出身。漫画家、イラストレーター。2006年から「月刊少年エース」で『日常』の連載を始める(角川書店)。その他、倉敷保雄との共著『ふたりサッカー』『ふたりサッカー 2試合目』(白泉社)がある。『日常』の最新8巻が、10月26日発売。

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