サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

おそらく日本で最も有名なリヴァプールFCファンはこの人、トニー・クロスビーだろう。ジローラモ・パンツェッタと共に出演していたフジテレビ「FOOTBALL CX」でその存在を知られるようになった、皮肉たっぷりのイギリス人のトニーにとって、サッカーは好きになるものではなく、すでにそこにあるものなのだ。

なるべくしてなるサッカー狂、リヴァプール狂

サッカーを好きになったのは、リヴァプールに生まれたからですね。日本人はイメージが湧かないかもしれないけど、イギリスはどんなにちっちゃな街にもサッカーチームがあるのね。たまたま俺がリヴァプールという“いい街“に生まれて、その年チームが2部から1部に上がり、次の年には優勝しちゃうというおもしろい時期で街中大騒ぎだったんです。イングランド代表も4歳の時にW杯で優勝して、イングランド全体が強い時期だった気がするね。リヴァプールは優勝した72年に、1シーズンで13人の選手しか使わなかったんですね。怪我をしてもバンドエイドとかテーピングとかしながら毎週確実に同じ人たちが出る。背中に選手名もなくて、テレビが白黒で誰が誰だかわからなかったから、1年で13人しか出てないとものすごく覚えやすかったの。

ライバルであるリヴァプールとエバートン

リヴァプールで生まれるとサッカー以外のスポーツを選ぶことはないんじゃないかな。女の子だって、リヴァプールかエヴァートンかどっちかのファンになる。親がどっちのファンかで選ぶより選ばれちゃう感じ。タクシーに乗ったら、レッド(リヴァプール)かブルー(エヴァートン)かって聞かれるんだよ。レッドだと最短ルートで行ってやるけど、ブルーだとちょっと遠回りしていくって(笑)「じゃあレッド」、「オッケーわかった」って。
同じ街にあるエヴァートンは1部リーグでずっと一緒なんだけど、あんまり上手くいっていないのよ。でもリヴァプールファンはそれを馬鹿にはしないんです。バカとか下手とか直接的に言うのは可哀想。自分の弟がハゲて、それをバカにしないのと同じ。自分もハゲたかもしれないし、弟は馬鹿にしないでしょ(笑)。同じ家族でもお兄ちゃんだけはエヴァートンファンだったから兄の服はブルーで、俺が赤。俺の服は赤ばっかり。今でも赤からなかなか離れられないんだよ。
サッカーをやらない男はいなかったなー。というのも学校の体育がほぼサッカーだけ。いくらデブでも足が悪くてもサッカーは必ずやらせられた。ゴルフとかテニスもイギリスのスポーツとして有名だけど、ゴルフはおじいちゃんのスポーツだったし、テニスもリヴァプールの周りにはほとんどなかった。どっちもちょっと高級な住宅地の人がやるようなスポーツなんだよね。リヴァプールみたいな労働者の街から選手は出ないんだ。「サッカーはフーリガンがやるジェントルマンのスポーツで、ラグビーはジェントルマンがやるフーリガンのスポーツ」だっていう言葉があるくらい。ラグビーは試合中に喧嘩しても、終わったら握手する。サッカーは試合前に無理矢理握手をさせられて、試合中に人を殺しても試合が終わればもう知らんみたいになる。観客も、ラグビーサポーター同士で喧嘩したりって聞いたことがないでしょ? テニスもないよね。

人気の選手は、コーンフレークが決め手

チームの中で好きな選手を決める決め手は、コーンフレークの箱。すごいスターにならないとコーンフレークの箱には載れないんですよ。ゴールを決める人しか好きにならなくて、チームにFWは一人か二人くらいしかいないでしょ。しかもゴールをちゃんと決めている人なんて一人しかいない。70年代のケビン・キーガンみたいなね。ケビン・ケーガンは好きだったなー。昔、友だちと練習を見に行って、当時は住宅街の真ん中にあるグラウンドでやっていたんですけど、選手を駐車場の前で待っていると、ジャガーとかが出てきた後にケビン・キーガンの乗ったフェアレディが出てきて、友だちと大笑いしました。当時のイギリスはフェアレディが日産ではなくてダットサンで、何よりダサい車だったんだよ。全然ヒーローっぽくなかった。
これまでのリヴァプールで一番好きな選手はジェラードだね。今はスアレスだけど。ゴール決める人が好きだから。でもリヴァプールをずっと観ているけど、ジェラードはトップ5に入るよね。13歳でプロ契約してから、モウリーニョやファーガソンに誘われても18年間ずっとリヴァプールに残って600以上の試合に出ている。彼のようなチームを引っ張れる選手はなかなかいないよ。
プレミアリーグになってからリヴァプールはずっと勝てずにいるけど、19、20年くらいのサイクルで強いチームになるから焦ってない。どうせ死ぬまで観るからね。というか、そう思うしかないじゃん。ポジティブに今の監督にチャンスをあげようって。今年は十何位だったとか、チャンピオンズリーグに出られないとかいいじゃんて。こっちは過去5回もチャンピオンズリーグを勝ってるんだから。イギリスの中でマンチェが3回で、チェルシーが1回なのにだよ。地元でずっと同じチームを応援してきて、上手くいかない時があってもしょうがない。だからいい時期のなかったバーミンガムシティとかウェスト・ブロムウィッチに生まれてたら、どうしてたんだろう。ひたすら辛い思いをしているチームのサポーターも結構いるんだろうね。

サッカー未開の地、日本へ

日本に来たのは昭和63年。サッカーのテレビ放送はダイアモンドサッカーくらいで、前半を今週、後半は来週ていうおもしろい番組だったな。そんな番組、海外ではありえないよ。でも、まあプロリーグがなくてスター選手もいなかったしね。当時はイギリスのスポーツでいうラクロスみたいなものだったんじゃない? 誰が観るんだよこれ、みたいなね。日本でサッカーの話しをする仲間ができてきたのは、テレビ番組に出るようになってから。それまでは全然そんな話ししなかったもん。94年のW杯も出れなかったのは悔しかった。あれだね、日本のポイントはやっぱりドーハだね。ドーハは悲しかった。
日本のサポーターのちょっと寂しいところは、応援が まだ“ニッポン・チャ・チャ・チャ”な野球スタイルなところ。フィールド上のプレーを観て盛り上がっているんじゃなくて、俺たちが今の時間は応援したいからするみたいな。太鼓をずっと叩いていたり、リズムをずっととってる。それはちょっと違うかなって。それに日本のサポーターはソフト。例えば、ガンバとセレッソのサポーターがばったり会っても、「こんにちは」とか「今シーズン調子いいですね」とか仲がいい。敵同士つかみかかるような、もうちょっとワイルドでもいいんじゃんと思う。W杯でも試合が終わったら皆がゴミ袋を持ってスタジアムの掃除をしてたよね。いいことなんだけど、物を燃やすくらいの勢いでいけって思っちゃう(笑)。

半分男らしく、半分ずるい

サッカーって何か戦争みたいな感じ。男らしい戦争ゲームみたいな。それを言ったらラグビーもそうだけど、サッカーは一番強い人が勝つんじゃないのがいい。ずるい人もいるし、スローインがものすごい奴もいて、レフリーが見ていなければ反則したっていいだろみたいなところもある。半分男らしくて半分ずるいみたいなバランスが良いんじゃないかな。すごく激しいところもあるし、皆で抱きしめ合う爽やかなところもある。
試合は、ゴールの瞬間がやっぱり最高。相手のゴールでも「おおっ」てなるし。自分のゴールでも「やったー!」って感覚になるよね。3対0から3対3に追いついて、PKで勝ったチャンピオンズリーグのリヴァプールVSミラン戦は忘れられない。あれ以上に良い試合は死ぬまでには絶対にないと思う。あのスタジアムはサッカーのスタジアムではなくて陸上のスタジアムだったんだけど、ロッカールームがひとつの部屋で簡単に仕切っただけだったのね。ハーフタイムにミランの選手たちが騒いでいるのを、リヴァプールの選手たちが聞いて、頭にきちゃって絶対勝つぞって燃えて逆転勝利。あんな試合もう二度とないよ。
思い出に残っている試合といえばもう一つ。日韓W杯予選のドイツ戦でイングランド代表が5対1で勝った試合。ホームでドイツが5対1で負けるなんてありえないことだし、決まった5点全部をリヴァプールの選手が決めたんです。ジェラードが入れて、オーウェンが3点入れて、あと一人誰かが入れた。テレビの取材でドイツ人のリトバルスキーと一緒に行ったんですけど、点が入る度に不機嫌になって、最後に一緒にレポートする予定が早めに帰っちゃった(笑)本当なら代表はどうでもいい。でも、代表の中にリヴァプールの選手がでていたらおもしろい。代表自体には本当に興味がないのよ。

イングランド対日本の決勝戦

生きている間にイングランドがもう一回W杯で勝てるといいな。でも別にお願いはしない。勝ったらいいなと思っているだけ。ベッカムとかの黄金世代が終わって、次がイマイチ。海外の選手ばっかりプレミアに入ってきて、イギリス人が強くなっているかって言ったらそうでもない。全然勝っていないのに、なんでまだFIFAランキングで4位とか5位にいられるの? イギリス人が決めているんじゃないかって。イングランドと日本のW杯決勝はおもしろいよね。何十年後かわからないけど、どっち応援してるんだろう。裏切り者になりたくないなー。

トニー・クロスビーが選んだベスト11

Tony Za Abarembo’s

チーム名:Tony Za Abarembo’s
フォーメーション:3-1-4-2
監督:トニー・クロスビー

FW:ルイス・スアレス/ジネディーヌ・ジダン
MF:エリック・カントナ/ロイ・キーン/ウェイン・ルーニー/パトリック・ヴィエラ/ハビエル・マスチェラーノ
DF:ジェイミー・キャラガー/サミ・ヒーピア/ダニエル・アッガー
GK:レネ・イギータ
控え:スティーブン・ジェラード/リオネル・メッシ/クリスティアーノ・ロナウド/ペレ/トニー・クロスビー

トニー・クロスビー プロフィール

トニー・クロスビー(トニー・クロスビー)

トニー・クロスビープロフィール

1962年、リヴァプール出身。リヴァプール・スクール・オブ・アート、セント・マーチン・スクール・オブ・アートを卒業後、デザイナーとして活躍。その後、スタイリスト・ コスチュームデザイナー・タレントとして活動の幅を広げる。フジテレビ『サッカー小僧』ではナビゲーターとして出演し、持ち前のキャラクターで人気を博す。CF・音楽PVなどにも多数出演している。

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