サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

イラストレーター、編みぐるみ作家として活躍するアルマジロひだか。イギリスのランカシャーに位置するブラックバーン・ローヴァーズFCを愛し、かつて日本の情報サイトも運営していた。さらにはUKサッカーの奇妙奇天烈なマスコットたちを集めた本を出すなど、英国サッカーにどっぷり浸かった彼女。ブラックバーン/ランカシャーという土地を知るひとつの入口としてのサッカー。

愛とローカリズムが生み出すマスコットたち

マスコットは下部リーグの方が断然おもしろい。トップのリーグに所属するようなクラブはファンが世界中にいるので大手代理店が入って広告戦略的にすごくしっかり作られてしまっています。ターゲットが広域なので全方位型にならざるを得ないのでしょう。グローバルな視点からすると上手くデザインされた着ぐるみなのですが、反面、アクの強さがなくなってしまう。私は呆気にとられたり拍子抜けしたりする着ぐるみの造型が好きなので、ついつい下部のリーグに目が向いてしまいます…。
そんな視点で2006年に出したのが『着ぐるみマスコットぞろぞろ! In 英国フットボール』なんですが、7年も経ったのでアップデートしたいんです。というのも、イギリスは日本と違って大胆なリニューアルや、まったく別のマスコットにすることに抵抗がないみたいなんです。だから、変化を反映した最新版を改めて出したくて。本には、造形がおもしろいキャラとアクティブなキャラを集めています。彼らのキャラクターやパフォーマンスは、中に誰が入っているかに依存しています。基本的には一人の熱烈なサポーターが入り続けていて、10年以上やってる人もいるんです。あの動きがスゴイという時は、その中の人がスゴイのです。直結です。

さすがに、プロである上4つのリーグは、クラブ側が作っているのがほとんどですけども、そこより下のリーグでは、「熱心なファンの持ち込み」というのがあったりする(笑)。好きすぎて、応援のために自腹切って作って持ってきちゃう。大概アクが強くておもしろいんですけど、ちょっと不祥事を起こしたりするとバッサリ切られてすぐに消えてしまう(笑)。すごく面白いから本に載せたいんですけど、クラブ側からはやめてくれと言われました。Jリーグのマスコットは可愛らしくきちんとした造型ですが、どれも雰囲気が似ていてちょっと退屈かな。とはいえ英国でも当初のものからは何度かリニューアルがなされ、ファンシーな味付けになってきています。もうちょっと渋いのにしてくれよって思うんですけど、ファンシーとヤンキーは今のところ廃れる気配がない世界共通の潮流なので、そちらに流れてしまって残念です(笑)。

アウェイは身の危険を感じる場所でもある

日本みたいにゆるキャラ萌えみたいなことは、大人ではまずないです。英国で着ぐるみをあちこち観て回ると言うと、え?なんで!? と間違いなく言われます。子どもたちは食育とか交通安全など地域教育の一環で学校訪問が行われるので、認知され愛されてます。大人でよそのクラブのマスコットも知ってるなんて、よほど有名なものだけ。Jリーグで、アウェイ側に行ったら頭を取られちゃった事件がありましたよね。あんなのはイギリスじゃ想定内みたいです。アウェイチームのスタンドの前を通るのは、ものすごく危険なことなので、彼らはまず行かない。マスコットの人が仕事を終えて(着ぐるみは自分管理の場合が多い)自分の鞄に入れてスタジアムを出たら、相手チームのサポーターが待っていて、「あのマスコットの野郎煽りやがって、出てきたらボコボコにしてやるから誰なのか教えてくれ」って言われて、しらっと通りすぎたという経験談も聞きました。ライバル同士はスタジアムで激しくいがみ合っていても、日常生活では普通なんですよ。私が好きなブラックバーン・ローヴァーズはランカシャーという地域のチームで、ランカシャーはヨークシャーと歴史的に対立しているんです。対戦相手がヨークシャーのチームと聞けば血気盛んになって、戦闘モードになるんですけど、そんな人たちの中には仕事場がヨークシャーだからヨークシャーに住んでいて、試合の時だけブラックバーンに戻ってくるっていう人もいたりする。煉瓦投げ合うくらい敵対していたら、避けるかなって思うんですけど、それはそれみたいです。そのふたつの地域対立は元々15世紀の薔薇戦争が起源なんですけど、それもローヴァーズを好きになってその地域の人と接するようになってから色々教えてもらいました。

いつの間にかローヴァーズでちょっと知られる存在へ

そもそもサッカーは日韓W杯のときからです。日韓の時にスカパーが無料放送をしていて、それでマンチェスター・ユナイテッドとブラックバーン・ローヴァーズの試合を観たんです。引き分けだったんですけど、すごくおもしろかった。ローヴァーズはパッと見て馬鹿っぽいというか、力づくな感じがすごくいいなと思ったんです。あんまりこざかしいのが好きじゃないので、実直というか愚直な感じが、なんて愛らしいの!と。今でもパスサッカーとか、ケっ!と思ってます(笑)。全然魅力を感じない。アーセナルとかバルサのパス回しスタイルはハーフタイムまでも見てられないです。イライラしちゃって(笑)。ローヴァーズが日本で無名なことすら知らなくて、おもしろい!と思って入れ込んだら全然有名じゃなくて、それ以後の試合を観るのも大変でした(笑)。海外のサッカー雑誌も有名なチームと選手のことしか書いてなくて、私には役に立たないよ!って。中継も少ないし、日本の解説者もファンの多い方に偏った解説をされるので、聞いていてもおもしろくなかった。なので、自然とクラブがやっているインターネットの放送を聴いて、地元の英語のサイトを毎日読むようになっていきました。とりあえずわからないことがだらけだったんですけど、ローヴァーズはサポーターズクラブ運営のフォーラムがしっかりしていて、いろいろ質問している内にどんどん仲良くなっていきました。当時ローヴァーズの試合を観る日本人ファンなんてほとんどいなかったので、クラブからも目をかけていただいて、ブラックバーンに行ったら、クラブラジオとか地元のBBCランカシャーに出演したり、地元の新聞社に取材していただいたりして。そんな風にしていただいたおかげで、コネクションもいろいろできて、他のファンの方々にも知っていただいて、スタジアムに行くと、よく来たなって言われたりするようになっていきました。

サッカーのおもしろさは“気迫”にある。

サッカーのおもしろさは気迫、それと「キック&ラッシュ」です。放り込みサッカーって馬鹿にされるんですけど個人的にはすごく好き。でもJリーグの放り込みは迫力不足。それは空中戦の技術を磨く必要性が低いからだと思うんですけど。プレミアは体もがっしりしていて、ドーンっていったらバーンとぶつかるのを見て、かっこいい!と思ったんです。攻守の切り替えも走るスピードも速い。パスとかフェイントの技術云々はジャグリングみたいで好きじゃない。私にとってのサッカーの魅力はそこじゃないんですね。ピッチはこんなに広いんだからのびのびやろうよ!みたいな。Jリーグは開幕直後に観て、つまらないと思ってしまってから離れていたんですけど、いまはシーズンチケットを買ったりしてフロンターレを応援しています。最初はスタジアムの近くに友だちが住んでいて、誘われたのがきっかけ。当時はJ2で、とてもローヴァーズ(プレミアリーグ)と同じスポーツとは思えなかったのが、どんどんJリーグ全体のレベルが上がっておもしろくなりました。海外と比べても遜色ない選手がたくさんいる。ただ最近は自分の好きなサッカーをしなくなっちゃってて…。昔はローヴァーズみたいに、ちょっとバカっぽい試合が得意だったんです。前半4点獲ったのに、後半5点獲られて負けるとか(笑)。肝心のローヴァーズは、オーナーが変わってからチームもフロントも超迷走中。それで勝手にペースを落としてインターバルをとっているんです。いつかは監督も変わるし、オーナーも変わるので。現地にいないだけに仲間と愚痴ってウサ晴らしもできないし、しばらくゆったりモードって友達には言っています。日本だと、どんなに負けていても毎回欠かさず試合観戦が絶対みたいなところがあるんですが、向こうはそうでもなくて、「そうだよね、今つまらないもんね、俺も違う試合があったらそっち観に行くわ」みたいなスタンスで、「じゃ、待ってるわ」って。さすが3世代に渡ってファンをやってる人たちはクラブとの付き合い方の時間感覚、距離感が違う!そういうのがすごく気が楽でいい。とはいえ、マメに連絡を取り合っているし、応援するチームを変えるのは考えられない。サッカーそのものや選手の魅力もあるんですけど、ローヴァーズを入口にして、薔薇戦争の話しのように、その地域の歴史や風土、気質にものすごく興味を持ち、土地と風土に惚れちゃったから。例えば産業革命にしても、教科書的な理解しかしてなかったんですけど、ランカシャーは産業革命の花形の土地として150年前に世界の頂点に立ったんですね。そして凋落した。残っている工場を見に行ったりすると、そういう歴史が見えてきてどんどんおもしろくなっていく。行くと泊めてもらう友達の家が築130年なんですよ。屋根裏へ上がるとむき出しの煉瓦が本当に当時のまま。時間そのものを観ている気分になれましたね。

ブラックバーンにこれまでの感謝を返したい

ブラックバーンという都市は、イギリスの観光ガイドを見ても絶対に載っていません。そもそも興味を持つ人も非常に少ない。ランカシャーを一言で簡単に定義できないですけど、他の地域とは何かが違うわけですよね。コマーシャルに乗せられるような明確なものではないとしても。なのに、ブラックバーンの人たちは自分たちのところを、すごくつまらないと思っているんですね。でもブラックバーンはブラックバーンなりの魅力があると思ったので、風景とか人の写真を撮ってウェブにあげていたら、地元の新聞が見開きで大きく使ってくれて話題にしてくれてたり、その写真を見てThe FA(英国フットボール協会)が、広報用のショートムービーを作るために私の写真を借りたいと言ってきたりもしました。外から見て気づいた魅力は、案外地元に住んでいると気がつかない。住んでいる子どもたちにもっと自信を持って自慢して欲しい。自分の地元はすごく良いところなんだよ!って。そのために、子どもたちと一緒に写真を撮ろうというプロジェクトを、ローヴァーズのコミュニティー部門の人と練っています。すごくお世話になってきた向こうの人に感謝の気持ちを返したいし、自分たちの街に魅力があるということを子どもたちに知ってほしい。ローヴァーズを切り口にブラックバーンだけじゃなく、ランカシャーのどこの街も素敵なので、いろいろな街でやりたいなあと思ってます。これをご覧になっている方でスポンサーになっていただける奇特な方がいらっしゃったらお願いします! あとは着ぐるみ本をアップデートした電子書籍も出したいので、そちらもどこかの版元の方是非!

昇格試合の多幸感!

あと、これからイングランドのサッカーを観に行く人がいたら、ぜひプレミアより下のリーグをぜひ観に行って欲しい。下部のクラブは小さいけれど専用スタジアムです。小さいだけに熱気が濃縮してますから!戦況が危なくなった時の空気の沈み、ゴールの瞬間の盛り上がりとか、本当に空気の質量が変わるんです。プレミア・リーグにはない素晴らしい雰囲気を味わえるのが「昇格試合」。2部、3部リーグ、もっと下のセミプロでもいいから、昇格試合を観るチャンスがあったら脚を運んでほしいです。あの多幸感は他ではなかなか味わえない。スタジアムをびっちり埋めた人たち一人ひとりから幸せが吹き出してるんです。文字通り空気に酔う感じです。押しつけがましさもなく、本当に一緒になって、宙に浮くような気持ちが味わえるんです。昇格試合はファンの人がお祭り気分なので、晴れ着感覚なのか、ものすごくレアなシャツとかマフラーを着用してスタジアムに来てます。それを見るだけでもかなり楽しいですよ。

アルマジロひだかが選んだベスト11

ベストイレブン

フォーメーション:4-3-1-2
監督:アルマジロひだか

FW:ビリィ・バンタム(ブラッドフォード・シティAFC)/おバカ炸裂のかわいいやつ
FW:シリル・ザ・スワン(スウォンジー・シティAFC)/UKのNo.1のアクティブ着ぐるみ
MF:サミー・ザ・シュリンプ(サウスエンド・ユナイテッドAFC)/パフォーマンスのレベルが高いエビ
MF:ポーチャー・ザ・インプ(リンカーン・シティFC)/リニューアルでファンシーになってしまったけれど、小鬼というキャラでチョイス
MF:フィルバート・フォックス(レスター・シティFC)/古参マスコットで完全に地域に定着。子どもの愛され度高し
MF:ヨーキー・ザ・ライオン(ヨーク・シティFC)/某Dランドからスカウト寸前。観客のハートを掴むパフォーマンス
DF:バーティー・ビー(バーンリーFC)/機敏な動きはピッチ乱入者を取り押さえたことでも明白
DF:ビリィ・ザ・バジャー(フルハムFC)/最近登場の後発組。造形もパフォーマンスもナイス
DF:チェリー・ベア(AFCボーンマス)/思いついても恥ずかしくて形にしないレベルの造形に度肝を抜かれる
DF:ラミー・ザ・ラム(ダービー・カウンティFC)/古参マスコット。本物の羊もマスコットとして存在
GK:モンティ・モール(モントローズFC)/もぐら!(って戦うチームのマスコットにしないと思う…)

アルマジロひだか プロフィール

アルマジロひだか(アルマジロヒダカ)

アルマジロひだかプロフィール

イラストレーター。メーカーのプロダクトデザイナーを経てフリーランスのイラストレーターに。絵本・雑誌・webなど多岐にわたる媒体にイラスト、イラストエッセイの連載等。Twitter文学賞の「編みトロフィー」も編む。ブラックバーン・ローヴァーズとそのホームタウンを溺愛する。現地で「Mad Keen Rovers Nuts」と名付けられた暴走気味のファンである。
アルマジロひだか Studio Armadillo   http://dillo-h.com
英国+J リーグ写真サイト  http://www.flickr.com/photos/dillo-h/collections/

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