サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

ちょんまげを付けて、甲冑を着た妙な男が日本代表戦に必ずいる。それを耳にして気にしてみると、たしかにいる。周囲から“ツンさん”と呼ばれるちょんまげ隊隊長である彼は、いったいどんな人間なのか。サッカーをただ観ることにとどまらず、社会とサッカーとの繋がりまでを語り、その実現に向けて即行動を起している。そんな行動力はどこからやってくるのか。

ちょんまげ、甲冑に至るまでの道のり

今でこそサッカー日本代表を追いかけて世界中を回っていますが、僕は全然サッカーに詳しくない、いわゆるゆるサポです。周りからはゆるキャラとも言われていますけど…。そもそもは、ドーハの悲劇をテレビで観ていたら大の男たちが泣き崩れていて「これはサッカー日本代表が大変なことになっている。応援しなきゃ」くらいのことでした。なので、贔屓チームを聞かれると今でも困ります。好きな選手やチームがいて始まったわけではなく、たまたまテレビで観たドーハの悲劇から入っただけですから。アディダスの当時のCMで、“スタジアムを青に染めろ”というのがあって、素直にブルーのユニフォームを着て日本代表戦に足繁く通っていました。世界各国を回る中で「あれ? 世界の人は日本人みたいにユニフォームを着てないし、結構自由だぞ」と。例えばノルウェーではバイキングの衣装を着たり、メキシコも大きな帽子を被っています。日本人は当時コスプレをするような人はいなくて、「もしかして俺たちユニホームを売りたいアディダスに騙されているんじゃないか」って(笑)。それで日本人の象徴は何だろうと考えると、空手か忍者か侍に行き当たる。そしたら侍だなと。それで08年の北京五輪の時に、このちょんまげを着け始めました。寝ている髷じゃなく、立っている「バカ殿」バージョンの髷。「バカサポ」っていうのがまさに僕に似ている感じがして(笑)。08年は、サポーターが反日で囲まれたりしていた時期で、うちの奥さんは真剣にこの格好を止めました。それも聞かずにとりあえず行ってみたら意外とウェルカムだったんです。ものすごい勢いで写真も撮られて「これはいける!」と思いました。ですが、オランダ戦の時にひとりのオランダ人のおじいさんが現れたんです。そのおじいさんがかなりセンセーショナルで、前身オレンジのタイツを着て、木靴をオレンジに塗って履き、尚かつオレンジのズラを被り、さらにオレンジに塗ったチューリップを頭に挿している。そんな人、日本じゃ見たことがなかった。注目が一気にそちらにいってしまったことが悔しくて、このちょんまげじゃ2010年のW杯も負けてしまうと。市販のものじゃ手作りのおじいちゃんに勝てないと思って、この甲冑を作ったのです。甲冑を作ろうと、地元の甲冑を作っている人に頼みにいったら、そんなふざけたものは手伝えないと断られ、京都にある呉服屋さんが甲冑の型紙だけを送ってくれると聞いて取り寄せました。でも、縫い目とかがわからない。そこで千葉の佐倉で時代祭りがあると聞いて、そこに集まる手作り甲冑のコスプレマニアたちを撮影するフリをして、寄りのディテールばっかり100枚くらい撮って、分析した手作りです。

サッカーへの無知はむしろ武器になる

僕はプレーの細かなことはよくわからないし、選手もたいして知らない。本当にサッカーに関しては無知です。でも無知故にできることがいっぱいあって、今となってはそれがすごく武器になっています。サッカーってこうだという固定観念がないからこそ、どこでも平気で突っ込んでいける。どこのサポーターであっても、今度そっちに行くんだけど被災地報告会やらせてくれない? と頼みやすい。U-20盛り上げ隊を始めた時も、せっかくU-20女子W杯が世界に放映されるんだから、被災したときに温かい言葉をもらった国々にメッセージを返そうよと、いきなり勝手連を始めたんです。サッカー協会に言っても余計なことをするなとダメだったので、サッカー協会が動かないなら大使館を動かそうぜと、16カ国の大使館に連絡を取りました。「僕たちがあなたの国の国旗を振って選手を鼓舞します」と説明して回ったんです。最終的にはFIFAも認めてくれて、緩衝地帯に入るのを許してくれましたからね。それが新聞やテレビに取り上げられて、FIFAにすごくいい印象を残せた。韓国人選手が竹島問題を掲げたりして緊張感のある時期でしたけど、スポーツと政治は関係ないと、韓国も含め参加している全ての選手にありったけの手拍子を皆で送りました。それも僕に常識がないからできたことだと思うんです。

バラバラであることの喜びを味わうサッカー観戦術

僕はバックパッカーで世界中を旅してきたんですけど、このサッカー観戦旅行を味わってしまうと普通の旅行には戻れなくなる。例えば、普段みんながヨーロッパを旅行していても、誰がいつどこに行くかわからないから連絡を取り合わない限り会えないですよね。でも、サッカーは何時にどこでやるかが決まっているから、皆がばらばらで行っていたとしても最終的にスタジアムで会える。その時、旅で一番大切な要素である興奮が味わえる。そこにある一期一会の興奮は僕にとってすごく重要。三々五々みんなが好きな時間に現れて、同じベクトルで応援して、勝って歓喜のハイタッチだけでなく負けた悔しさも思い出。そして勝手に解散みたいな感じがとても楽しい。昔のローマを統治していた人が、民を統治するにはパンとサーカスが必要だって言っていたそうです。パンはいわゆる衣食住を表す安定のことで、サーカスは興奮のことだと思うんです。人は安定があれば興奮を求めて、デモをしたり、政府をひっくり返したりしようとする。でも興奮があるから逆に静寂も訪れる。アメリカは四大メジャースポーツを上手く巧みに使ってガス抜きしていると思うんです。

21世紀型のサポーターの姿

その観戦術は国内でも同じだと思っています。Jリーグの40チームがあって、それぞれに遠征をする。最近ツイッターのハッシュタグで「J楽」っていうのをつくったんですよ。そこに皆がJリーグの楽しい1シーンの写真をアップしてもらう。皆がそれぞれのサポーターに優しくしてもらった話しとか、こんな楽しいことがあったよという話しが40チーム分集まってくる。要するに大手メディアが追いきれない部分を皆さんが特派員になって伝えられるわけです。そしてそれを見た人が、今度そこのスタジアムに行ってみようとなるんじゃないかと思うんです。やっぱりJリーグは観客動員が少ない。今回愛媛に行った目的もそれなんですけど、どのチームも観客を増やしたいと思っている。そのための行動をどこの団体にも属していない僕は思い立ったらすぐできる。「J楽」は「でろブロ」というサッカーブログにまとめて載せてもらっているんですが、管理人の人に面識もないのに連絡して、こういうことがしたいんだけど「君もサッカーに貢献したいって言ってたよね、こういうこと一緒にやらない?」 という風に口説いて協力してもらいました。
震災後ずっと続けている被災地活動も同じで、大きな組織を作ったり、頼ったりするのではなく、この指止まれ方式でやっています。チームを組んで夏で暑いから被災地にアイスクリームを持っていきたいと思っても、いやいやアイスよりビタミンがいるから野菜だよって言われたらその船=チームは動かない。でも僕がこうしますと言ったところに乗っかってくるシステムだと、その船はすごいスピードで動くわけです。賛同するやつだけその船に乗ってくれればいい。ジョインするのも自由だし、離れるのも自由だし。誰も拘束しませんよっていうのが、21世紀型のサポーターの在り方。実際はどうかわからないですけど(笑)。

一番重要なことは観客動員数

海外のサポーター文化と日本のサポーター文化は全然違いますよね。海外は自由な部分が多いですが、日本はどこか規律のようなものがある。自分でお金を出してスタジアムに行っているのに、応援団の皆さんに、お前ら何で声出さないんだと怒られたことがあります。仕事終えて自分の金で入ったのに何これみたいな。今回のJ2盛り上げ隊を考えて、愛媛に行ったとき、コールリーダーという一番偉い人と同じ車になったんです。その人がいきなり「僕はゴール裏にコスプレで来る人は認めてないんです」と言ってきたんです。「うわあ、つらいなーこれからの10時間の旅」と思ったけど、不思議なもので10時間も一緒にいると、世界のサッカーの話しとかを彼にいろいろするわけですよ。彼も興味を持って聞いてくれている内に、だんだんガードが下がってきた。そしたら彼が、「実は愛媛もJリーグにあがって今年で8年目なんですけど、サポーターが今3000人くらいしかいなくて、上にも下にもいけず閉塞感がある」という話しをしてくれて、僕も海外を見てきて思っていることを話しました。応援とかチャントのクオリティが劇的に上がったとしても、チームは強くなんないと思うって。応援で強くなるんだったら、一番観客を動員しているレッズが毎年優勝することになる。もちろん応援も大切だけど、一番重要なのは観客動員。観客動員が増えれば良いことがたくさんある。当然入場者収入が増えます。これは資本主義経済においてとても重要です。これをわかっていないサポーターの方が多いのが現実…。2つ目は応援の数ですね。当然ですが多い方が選手のモチベーションが上がるでしょう。ゴール裏の10代、20代の女の子の黄色い声で選手はもっと頑張れると思います。3つ目は、観客が増えることでスポンサーがつきやすくなること。実はこれが一番重要。チームを運営する資金のうち入場料収入は3割程度。残りの7割はスポンサー収入なんです。4つ目は行政との関わり。もし観客が2万人入るホームゲームが年間20試合あれば40万人です。地方自治体でそれだけ票があると思えば、政治家も行政も無視できなくなる。従業員20名程度の零細企業のような現状の各チームでは、20億のスタジアムを作れるわけがない。そこで行政との蜜月な関係が必要になります。だからこそ21世紀型のサポーターは、勝った負けたで一喜一憂するんじゃなくて、入場者数っていうのを一つのベンチマークにしなきゃいけないと強く思っています。

行政ができない気持ちのケア、そして『なくてもいいけど、あるとうれしいもの』

被災地支援をやる前は、ボランティアが苦手でした。でも、テレビで波に飲まれる仙台平野や靴とか靴下とか下半身系のものが足りないという報道を見て、靴屋を経営している自分には靴が売るほどあるんだから、靴がなくて困っている子どもたちがいたらどうするか? 当然持っていきますよね。それで何回か避難所に行くうちに、ベガルタサポーターの皆さんからぜひ仙台の試合を観てくださいって言われて…。いやいやそんな気分になれないよって言ったんですけど、さすがに3回目は断れなくて観に行ったんです…。そしたらびっくりすることが起こっていました。ユアテックスタジアム仙台って海沿いにあって、ひどい被害を受けたエリアだったのに満員だったんです。まだ震災から2ヶ月で遺体の捜索も全然終わっていない。皆が黄色いユニを着て、黄色いタオルを持っていた。その時、本当に泣けて、あそこにいた1万8千人の家族や同僚、昔の幼なじみとか、誰かしら亡くなっていたり、家がなくなっていたり、被災しているはずなんです。でもそんなの微塵も感じさせない。「スポーツってすごい」と素直に思いました。それからベガルタのサポーターや育成コーチとかとも仲良くなっていくと、そこに行政とは違うネットワーク、仕組みができてくるわけですよ。サポーターのひとりがサッカーコーチをやっていたら、行政にはない独自のネットワークがあって、教え子の安否とかがわかる。サッカーに限りませんけど、スポーツの繋がりは行政にはないネットワークが構築できる。おらが町にプロスポーツクラブがあるというのは、そういうことでもあるんです。嫌なことがあった時の皆の気持ちの支え、多分これは行政ではできないことなんですよね。好きなチームがあって、好きなチームの人が点を獲ることによって、この1週間の嫌なことを忘れられるというのは、スポーツにしかできない。

ボランティアとサッカーって似ていると思っています。サポーターもボランティアも自己満足の世界だと思うんですね。サッカーの試合はテレビでも観れるし、ボランティアがなかったら行政が税金で最低限やってくれると思うんです。悪いところも似ていて、昔からボランティアを頻繁に行ってる人たちは、ボランティアはこうだと決めつける人がいる。ボランティアは笑ってやるもんじゃないとかね。でも、自己満足ではあるけれど、あるといいなっていうものでもあると思うんです。僕らはマイケルジャクソンの「We are The World」じゃないですけど、楽しく唱って、それが募金になるのがいい。自分の得意なことで東北の人が喜んでいるのはすごくうれしいし、自分の得意なことだったら無理をしなくていいから継続しやすい。これから仮設がなくなるまで、最低10年はかかるので、10年ぐらいゆるく長く続けていきたいなと思っています。

ツン(Tsun)が選んだベスト11

ベストイレブン

僕の夢はスポーツを通じて、日本が元気になることです。やること。見ること。関わること、なんでもOK。その一歩で東北が元気になって欲しい。自分の街出身の選手が活躍するとうれしいですよね。だから今回は東北出身者で、ポジション別に選びました。この11人の活躍が東北に勇気と夢を与えます。だからこそ活躍してほしい。希望も込めて選ばせて頂きました。
 

フォーメーション:4-2-3-1
監督:鈴木淳(ジェフユナイテッド市原・千葉)
 
GK:丹野研太(大分トリニータ)宮城県仙台市出身
DF:今野泰幸(ガンバ大阪)宮城県仙台市出
DF:渡部博文(柏レイソル)山形県長井市出身
SB左:柴崎岳(鹿島アントラーズ) 青森県野辺地町出身
SB右:菅井直樹(ベガルタ仙台) 山形県山形市出身
MFボランチ:青山隼(徳島ヴォルティス)宮城県仙台市出身
MFボランチ:小笠原満男(鹿島アントラーズ)岩手県盛岡市に生まれ 
MFトップ下:高萩洋次郎(サンフレッチェ広島)福島県いわき市出身
MF左:東浩史(FC愛媛) 宮城県仙台市出身
MF右:遠藤康(鹿島アントラーズ) 宮城県塩竈市出身
FW:萬代宏樹(モンテディオ山形)福島県二本松市育ち
 

ツン(Tsun) プロフィール

ツン(Tsun)(ツン)

ツン(Tsun)プロフィール

ちょんまげを着けて、南ア、中東、ウズベキスタンなど世界で日本代表サポーター活動しているちょんまげ隊の隊長。震災後、ちょんまげ支援隊として40回以上の東北遠征中(goo.gl/Urz4S)。「smile for Nippon」プロジェクトをFacebook上に設立。被災地に皆を近づける報告会は、LA、中東、北京、東大などで110回以上の実績がある。ツイッターアカウント:tsunsan

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