サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

40代以上の多くのサッカーファンに、海外サッカーの凄みを伝えた「三菱ダイヤモンド・サッカー」。それを放送していたテレビ東京らしい、おそらく日本のサッカー番組史上最もユニークな番組が「FOOT×BRAIN」(毎週土曜よる11:30~11:55/テレビ東京系列で放送中)。新鮮なテーマ設定のもと、サッカー選手はもちろん野球やラグビーなど、サッカー関係者以外のゲストも交え、これまでにない視点を毎週提示している。その番組のプロデューサーであり、記者としてディレクターとしても日本のサッカーを見続けてきた加固敏彦が語る、日本のサッカーを1ミリでも強くする方法。

サッカーのつまらなさばかりを考えてきた

「FOOT×BRAIN」が始まって3月で丸3年になります。毎週いままで考察されてこなかったテーマや切り口に、どれだけ挑めるか挑戦をしている感じです。これまでいろいろなテレビ番組を作ってきましたが、サッカー1本で番組を作るのは簡単なことではありません。せっかく作るのであれば、「今までやれなかったことをやりたい」「他の番組で見られるようなものはやめよう」とスタッフと話をしました。もちろん仕事なので、好きなことだけをやっているわけではないですよ。
 
「FOOT×BRAIN」的なサッカーの見方は、もともとリアクションから生まれたものです。番組を作っていくなかで、サッカーのおもしろさを考えたことがあまりなくて、むしろ「つまらない」と言われる理由をいつも考えています。サッカーを見慣れない人によく言われる「今どこを見ればいいんですか?」や「ゴールすることが目標のスポーツなのに0対0でもおもしろいという理由が分からない」という意見があります。おもしろさがどこにあるのかは、それを逆に考えていけばいいと思います。つまらないと言われた0対0の試合をおもしろいと思うのは、自分が点を取ることをサッカーの主なおもしろさと思っていなくて、入るか入らないかは副産物だと考えているから。プレーしたことのある人は分かると思うんですが、「抜いた」「抜かれた」とか「股抜きは最高」とか、みんな言いますよね。サッカーをよく観る人間としては、そういう瞬間瞬間の楽しみがあって、その場面ごとの勝ち負けが90分の中にたくさんあるということだと思うんです。あとは、点が入りにくいからこそ、ひとつひとつのプレーや1試合の価値が高くなるということもあるでしょうね。
 
もうひとつ言うと、サッカーには専門誌がたくさんあって、システム論や選手の起用法などがよく取り上げられています。そうした話題はサッカー好きがたとえば居酒屋でよくする話題ですが、サッカーが居酒屋でも話題になるようなテーマに溢れたスポーツであるのは、結構特殊なことだと思うんです。薀蓄で「うまい選手だけを11人集めても勝てない」なんて言いますけど、サッカーにはそういう「何か言いたい」が溢れているんじゃないですかね(笑)。今はテレビもそうですが、見てすごいだけじゃなく、自分たちの日常生活に接点がないとつまらないと感じられてしまう。そう考えると、サッカーは昔からそういう「語りたくなる感じ」があるんでしょう。家で話題にする、飲み屋で話題にする、学校で話題にする。そのネタが多種多様なスポーツなんですよね。

世界に繋がるただひとつのスポーツだった

僕が、サッカーを初めて「サッカー」として意識したのは小学生の頃です。最初は遊びでしたが、色々なスポーツをしたうえでサッカーにたどりつき、その後は部活として続けました。サッカーの試合をちゃんと観たのは、たしか80年代半ばのトヨタカップだと思います。ワールドカップも同時期に観ていますし、日本リーグもその頃に初めて観ました。そういったものが、すべて同じ時期に意識に昇ってきたんです。もちろんテレビ東京のサッカー番組の元祖「ダイヤモンド・サッカー」もそのひとつ。
 
今でこそいろいろなスポーツで「世界、世界」と言いますが、当時、世界を意識できるスポーツは僕にとってサッカーだけでした。野球は大好きだったんですけど、やっぱりドメスティックな競技で、世間の主な興味は巨人が勝つか勝たないか。良いか悪いかは別にして、たとえばトヨタカップでACミランが来るといって大騒ぎする時点で、日本のサッカーがサッカーのファーストチョイスになかったんです。それはその後、三浦知良選手が帰国したぐらいから変わると思うのですが、その前まではライカールトが来る、ファン・バステンが来るということで興奮していたし、W杯ともなれば当時僕が好きだったプラティニがどうだとか、ジーコがPKはずしたとかを話題にしていました。
 
日本でサッカーと他のスポーツとのそうした違いが出始めたのは、「ダイヤモンド・サッカー」が始まった昭和40年代だと思います。「ダイヤモンド・サッカー」は、その時代から「世界」をずっと取り上げていましたから。他のスポーツで世界の試合が定期的に観られたのは、4年に1度のオリンピックくらいですよね。普段から世界を意識していたのもサッカーだけだったのではないかと思います。みんなあえて言語化はしていませんが、サッカーをそういうものとして暗黙の内に捉えていたんじゃないですかね。それが今は、どのスポーツでも「世界」が付かないとダメになっちゃった、と僕は思っています。だから国内でチャンピオンになったことがあまりニュースにならない。そういうものはトレンドで、誰かが決めるものではないのですが、どうしたものかなという気持ちもありますね。

日本のサッカーを強くするためにできることを

「日本のサッカーを強くする」という番組のテーマがあります。番組をまとめた本にも使いました。これは逆説的な表現です。日本サッカーを強くするというのは、日本代表のことだけではありません。「FOOT×BRAIN」は「サッカー」というキーワードさえあれば何でも扱い、紹介する番組というコンセプトがあります。もっと言えば、日本のサッカーを強くする要素が1つでもあれば、どんな人にも参考になるコメントをもらっていきたい。そうした番組のイメージと気持ちを言葉にすると、「日本のサッカーを強くする」になる。そもそもサッカー界以外の人にもたくさん番組に出て頂き、サッカーに対して役立つ経験を語ってもらおうというのがコンセプトにありました。このウェブも同じようなことだと思うのですが、サッカーと関係ない立場でもサッカーを好きな人はいっぱいいるわけです。そういう人たちの意見は、一見何の関係もなさそうだけど、でも実は関係がある。最初の頃は、むしろそっちにこだわってやっていました。それがなくなったわけではないのですが、現実問題としてW杯が近付いてくるにつれてサッカー寄りにならざるを得ず…。W杯が終わったら、もう1度当初の構成に戻ろうかと思っています。
 
これまでの放送で周りからの評判が特に良かったのは、「グリーンキーパー」、芝生の管理をする人の特集です。日産と埼スタのグリーンキーパーをされている方をスタジオにお招きしてお話しを伺い、彼らの一日を追った密着VTRも流しました。僕も知らないことがたくさんあったし、それ以降他の番組でも取り上げられているのを見ました。そうした裏方と呼ばれる人の仕事は、僕らも知らないことが多い。Jリーグで10年、15年プレーした選手も、裏方の仕事の現実をあまり知りません。グリーンキーパーの人の顔を見て「あ、いたかも」という感じがしても、毎日どういう仕事をしているかはまるで知らなかったりします。その回に出ていただいた福田正博さんも「こういうのをもっとやった方がいい」と絶賛してくれました。

お客さんが増える→メディアが報道する→お客さんが増えるのループを。

Jリーグが出来て20年、2ステージ制となる今、問題として騒がれているのは主に収益構造の点だと思うんです。収益構造が厳しいから2ステージ制を採用するわけですよね。これはビジネス的な観点で決断しただけのこと。「だからJリーグはまずい」なんて言われていますが、この問題と試合のおもしろさやスタジアムの入場者数は微妙に別問題。新潟のビッグスワンに行けば満員、仙台のユアスタに行っても満員、浦和は一時よりはだいぶ減っているかもしれないが特に少ないわけではない。そういうディティールを語ることは簡単ですが、比較対象をどこに置くかということだけだと思うんです。僕が言うのもおこがましいですが、そこに対して絶対的に収益が厳しくて一回建て直さなきゃいけないとなるのであれば、それはしょうがないことかもしれません。1ステージで状況が厳しいなら、シーズンにより山場ができてお客さんが入りやすい2ステージ制の方が来場者が増えて良い、という論理は理解できます。昨年は横浜マリノスが優勝するかも、という試合に6万人が入ったわけですよね。「今日勝てばマリノスの優勝」と夕方のニュースでも取り扱われた。あれは分かりやすい山だったから。山を作れればお客さんは増えるし、メディアの注目度も高まる。逆も然りで、メディアが報道せざるを得ないようなビッグゲームやネタ、つまり山をつくれば、テレビの露出量も増えてきっとお客さんも増える。テレビの人間としては、そういう風に見ています。ただ、中長期的なものと短期的なものは違うので、いずれはもう1度1ステージ制でやるというのもあると思います。それがサッカーのリーグの本質ではあるわけですから。
 
Jリーグが「自分の街のクラブ」を謳っているからには、サポーターが地元のホームゲーム全てに行くことが理想ですよね。アウェイの試合は行かなくてもいい、日本代表の試合も行かなくてもいい。でも、地元チームの試合は17試合全部に行ってほしい。それを全チームが実行できれば問題はないですよね。だから本当は、それを目指す上で何が足りないのかを最初に考えなければいけないんだと思います。
 
でもこれは、次の課題。今は2ステージ制というルールの方に鉈を入れたので、次はもっと足下を見たことをやらなければいけないと思います。お客さんとして考えると、まず何より「行って楽しい」が絶対だと思います。もっと快適な、行ってワクワクするような環境にするために、スタジアムは変えていくべきです。僕は遊園地みたいなスタジアムがいいんじゃないかと思っています。ジェットコースターを作れというのではなく、遊園地に行くようなワクワク感がある場所という意味です。これは番組でもよく話題になるし、そういう風に言うゲストの方も多い。問題はスタジアムに行きたいか行きたくないか。だから、敵はディズニーランドや他の遊園地になると思うんです。千葉で考えればジェフはディズニーランドと共通チケットを出せないのかな、と昔からずっと思っていました。実際ディズニーランドと組むのは難しいと思うのですが、究極を言えば、ディズニーランドよりジェフのスタジアムに行く方が楽しいという環境をつくれば最高ですね。
 
メジャーリーグ担当をしていたことがあるので何百試合と現地で試合を見ましたが、メジャーではそういう工夫がされていると思います。メジャーの球場は本当にきれいで、子供からお年寄りまでが楽しめる。野球はゲームが止まるという性質もあるのですが、オーロラヴィジョンも活用するし、他の施設をくっつけたりもする。スタジアムの景観や子供の遊び場についてもよく考えられています。でも、これをサッカー場でスタンダードにやっているところは、世界中でもまだないんではないでしょうか。それは、そうしなくてもサッカー自体の魅力でちゃんと人に来てもらい、満足してもらえているからなんだと思いますが、プレーだけで満足してもらうというのは本当に至難の業だと思うので。そんな現状を考えると、プレーだけじゃない方向で何かをやっていけばいいという話になると思うんです。毎試合満員です、というスポーツ競技をメディアは取り上げざるを得ないわけですし。

もうすぐ叶ってしまう夢

「FOOT×BRAIN」を始める時、次のW杯まで番組を続けたいねとスタッフとは話していて、それが目標でありひとつの夢でした。それくらい、続けるのが難しいだろうと思いながらやっていました。でもこの夢はもうすぐ実現します。個人的な夢でいえば、会社に入ってもう20年近くになりますが、サッカーをプライベートで観たことが一度もないので、この仕事をしている限りはムリなのかもしれませんが、Jリーグの試合でもいいので、何も考えずにプライベートでサッカーを観にいきたいです。

加固敏彦が選んだベスト11

自分が担当したチームから選ぶベストイレブン

記者として自分が担当した球団から選びました。私が配属された97年以降のJリーグでプレーした選手たちで、テレビ東京のサッカー担当という点で系列局が取材するチームを除くと、関東圏+静岡のチームしか取材対象にならないので偏っています。あとは日本代表担当(99-01)だったこともあるので、そのときの選手も対象にしました。括弧の中は、自分が担当していた年で、選手のベストな時代というわけではないのでご注意ください…。
監督は覚えている人は少ないかもしれませんが、元磐田の監督バウミール。98年の前期優勝の際にJリーグでは珍しくビールかけがあり、そこでバウミールとかけあったいい思い出があって、それが理由です(笑)。
 
フォーメーション:4-3-3
監督:バウミール
GK:川口能活(99年-01年日本代表) 
DF:秋田豊(03年鹿島)/井原正巳(00-01年浦和)/三浦淳宏(98年横浜F)/山田暢久(98-03年浦和)
MF:小野伸二(98-01年浦和)/ドゥンガ(97-98年磐田)/サンパイオ(98年横浜F)
FW:福田正博(98-02年浦和)/中山雅史(97-99年磐田)/エジウソン(97年柏)

加固敏彦 プロフィール

加固敏彦(カコ トシヒコ)

加固敏彦プロフィール

1974年7月19日生まれ、東京都出身。97年テレビ東京入社。スポーツ局に配属され、スポーツニュースの記者、スポーツ中継のディレクターとして活躍。2005~07年はニューヨーク支局に勤務し、メジャーリーグを担当。04年のアテネ、08年の北京オリンピックの現地取材も手掛ける。11年より「FOOT×BRAIN」のプロデューサーを務めている。

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