サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

Jリーグ以前からサッカーを書き続けてきた加部究は昨冬、「それでも『美談』になる高校サッカーの非常識」という著書を発表し、日本の育成に一石を投じた。経験豊富なジャーナリストがサッカーとの出会いから、なぜ若年層の指導にメスを入れるようになったのか、その経緯と思いを語る。

74年西ドイツ大会でクライフの虜に

サッカーにのめり込むきっかけとなったのは、1974年のワールドカップ西ドイツ大会ですね。このとき、日本で初めてワールドカップの決勝戦が生中継されたんです。応援していた西ドイツが優勝したから、高校1年生だったぼくは無邪気に喜んでいました。
その後、テレビ東京が「ダイヤモンドサッカー」で1年かけて1次リーグ、2次リーグの全試合を放送することになり、それを熱心に見ると意外なことがわかりました。優勝した西ドイツより、すごいチームがあったんです。準優勝したオランダは見たことのないような刺激的なサッカーを繰り広げ、その中でもクライフという選手が異次元のプレーを見せていたんです。見た目だけでも憧れてしまうような颯爽とした男が、信じられないプレーをしている……瞬く間にクライフの虜になってしまいました。

3年で会社を辞めてメキシコへ

大学を卒業したぼくは、スポーツ新聞社の記者になりました。サッカーを書きたかったんですが、Jリーグは影も形もない時代。サッカーは取材できず、それどころかいやだった巨人担当に回されてしまった。「野球は大嫌いです」と公言していたら、どうやら上司に「そういうヤツを巨人担当にしたら面白い」と思われたようで(苦笑)。
結局、新聞記者はたった3年で辞めてしまいました。サッカーが好きだったぼくは、ワールドカップを現地で見たくて仕方なかったんです。82年スペイン大会に行きそびれたこともあって、86年メキシコ大会はどうしても見に行きたかった。そこで新聞社を思い切って飛び出し、ワールドカップを見に行きました。仕事ではなく、ただ見に行ったんです。
メキシコでは、あのマラドーナを目撃しました。すごいと思いましたよ。でも、高校時代に体験したクライフほどではなかったですね。人それぞれに憧れのスーパースターがいると思いますが、ぼくにとってはクライフ。彼を超える選手は二度と出てこないと思います。

楽しくなければサッカーじゃない

Jリーグ開幕前あたりから、徐々にサッカーを書くことが主な仕事になっていきました。たくさんゲームを見て、たくさんの選手を取材する。その中で記者としてのスタンスが変化していきました。選手のバックボーンや戦術、さまざまなテーマで原稿を書きましたが、この10年ほどで多くなったのが育成年代の取材。それは自分の息子が本格的にサッカーに取り組んでいたからです。
どんなレベルでも、自分の息子が出ている試合ほど面白いものはありません。クライフも大好きですが、息子への思い入れに勝るものはないですから。息子のチームを教えるようになり、徐々に指導の現場に目が向くようになりました。
自分の少年時代と比べれば、サッカーの指導はものすごくハイレベルになりました。優秀な指導者もたくさんいる。でも、まだまだ旧態依然のスパルタ指導をしているチームは少なくありません。楽しいはずのサッカーを、苦しみながら、悩みながらプレーしている子どもがいるんです。そうした環境がもっともっと良くなってほしい、そうした思いで育成年代の取材を続けています。
ジャーナリストとしての夢は、日本代表が世界一になることではありません。子どもたちがサッカーを存分に楽しめるような環境ができること。これに尽きます。サッカーを楽しいと感じる子どもが増えれば、たとえプロになれなくても、大人になってもスタジアムに足を運んでくれたり、自分の息子をサッカーに導いてくれるでしょう。サッカーが好きな子どもがひとりでも増えれば、その結果としてサッカーが盛んになり、日本代表が世界一に近づくのかもしれません。
 

加部究が選んだベスト11

ワールドカップに出ていない日本代表ベスト11

ぼくは1968年メキシコ五輪の予選で初めてサッカーを見たんですが、Jリーグ以前にも個性的で上手い選手はたくさんいました。プレイヤーとしては不完全な部分はあるけど、はっきりとした武器を持ったタレントの集団。11人全員が金を取れる選手だと思いますよ。

加部究 プロフィール

加部究(カベ キワム)

加部究プロフィール

1958年生まれ。群馬県出身。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが、1986年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後、フリーランスのライターに転身。『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(カンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』『サッカーを殺すな』(以上、双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)、『忠成』(ゴマブックス)など著書多数。『週刊サッカーダイジェスト』(日本スポーツ企画出版社)などでコラムを執筆。

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