サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

Jリーグヤマザキナビスコカップ王者として南米コパ・トタル・スダメリカーナ王者、アルゼンチンのラヌスを迎え撃つ柏レイソル。レイソルの番記者として、10年間チームを見つめてきたサッカージャーナリストの鈴木潤に、自身のこと、そしてレイソルの可能性と課題を聞いてみた。

30歳で突然サッカー業界へ転職

サッカージャーナリストの仕事は30歳での転職でした。今年で13年目になります。その前はマスコミでもスポーツ系でもない、いわゆる会社員です。元々子どもの頃からサッカーは好きで、中学、高校生ぐらいの時にふと将来の仕事を考えた時、「サッカーに関係する仕事をしたい」と思ったんです。ですが、当時Jリーグもなくて、プロを目指す時代ではなかったし、だいたいの人は高校サッカーで終わりという時代。そんな時、サッカー雑誌で海外の選手にインタビューしている記事を見て、「サッカー選手に会えてお金がもらえるなんて、なんていい仕事なんだろう」と考えていたことが今の仕事の発端になっています。
今ではサッカー雑誌も増えて、インターネットの媒体もたくさんあるので、サッカーを仕事にする窓口がたくさんありますが、当時は新聞社か出版社に就職するかしかない時代。結局一般の会社に就職しました。でも、仕事をしていくうちに「自分がやりたいことって何かな」となり、「あっち(サッカー)の世界にいきたいな」と思う自分に気づいた。「30歳を何もせずに越えたら、たぶんこのままなんだろうな」と思い、「変えるなら今だ!」と思い切って転職をしました。転職したはいいものの、特にコネクションや実績があるわけでもないので当然寄稿先もなく、他の仕事をしながら二足の草鞋でスタート。ライター業は計画的に始めたわけではなく、もしうまくいったら会社を辞めようくらいの感じだったんです(笑)。いきなり代表やJの取材なんてもちろんできないので、一番敷居の低い高校サッカーの地区予選から始めました。ちょうど高校サッカーは土日に試合があって、会社の休みを使って行けるというメリットもありました。とはいえ、取材しても発表する媒体もないので、書いた原稿をサッカー雑誌に送っていましたけど、当然何の反応もなく…。そういうのをずっと続けている間に、あるルポライターの方と偶然知り合う機会があって、自分の原稿を読んでもらいアドバイスをもらおうと思ったんです。そうしたら「これだけ書けるなら問題ないんじゃない? 編集部を紹介してあげるよ」と言ってもらえて、「サッカー批評」という雑誌の編集部に連れていってくれて、「じゃあ、書いてみましょうか」みたいな話にいきなりなりました。それがライター業を始めて1年くらい。もっとかかるか、もしくはこのまま何もないんじゃないかと不安になっていた時でもありました。

レイソルの番記者へ

レイソルは2003年から見ていて、最初は番記者としてではなく、ユースの育成がうまいチームとして高校サッカーを取材していた時期に通い始めました。番記者になるというつもりもなく2、3年取材を続けていたら、ちょっとしたマッチレポートを依頼されるようになり、当時のレイソルの成績がイマイチだったこともあってかフリーのライターで付いている方がおらず、クラブの広報から「オフィシャルの仕事も手伝ってください」と2007年に頼まれるようになったんです。クラブのイヤーブックなどの執筆から始まり、だんだんボリュームが増えて、09年にJ's GOALから柏担当の話をいただいたこともあり、そこから完全に番記者として張り付くようになりました。
番記者としてひとつのチームをずっと見ていると、そのチームのプレー以外のいろいろな面、経営や育成のような裏側の部分を俯瞰で見ることができて、「だからこのクラブはこういうサッカーをしているんだ」というのが多角的にわかるようになります。つまりは強い理由も弱い理由もわかるということです。いろいろなチームを見ているフリーランスの方が、負けた試合を「このチームはこうだから勝てない」とその場の観方で判断するのとはちょっと違う視点を持てるということですね。ただ、番記者として張り付いていると他のチームが見られないことと、レイソルの浮き沈みと自分の仕事の連動が大きいのがたまにキズです(笑)。W杯イヤーの2010年、W杯があるとサッカー好きはW杯に行くので、そもそもJリーグの仕事が少なくなるのですが、なおかつレイソルがJ2に落ちてしまい大変な年でした…。でもその年にJ2で優勝して、上がった翌年にJ1優勝だからすごかったですよね。
 

番記者が見るレイソルの強さと弱さの可能性

レイソルが一時期低迷していた時にはそれなりの理由があって、それがクリアになってから結果が残り始めたんです。その流れを見てこられたのはとても良かった。レイソルは理想の姿というか、こういうサッカーをやろう、そのためにこういう強化が必要だという論理性と一貫性がなくて、行き当たりばったりで補強したり監督を連れてきたりしていました。イギリス人の監督を連れてきたと思ったら、次にブラジル人の監督を連れてきて、サッカーのスタイルがガラッと変わってしまうなど、ブレていました。
ここ数年調子がいいのは、ネルシーニョ監督の力はもちろんですが、レイソルの強みである育成の存在があると思います。先ほどの勝てない時期を超えて勝ち始めたのは、アカデミーがしっかり整理され、アカデミー全体が同じ方向を向くようになったからなんです。こういうサッカーをやっていこうというのが、小学生から高校生まで同じ指導のもとでできている。自分たちでボールを持って、主導権を握るというスタイルをバルセロナのように全体を通してやっています。一昔前も育成で良い選手は出していたんですが、それぞれのコーチの哲学や指導法でやっていました。ジュニアからジュニアユースに上がると監督が変わり、サッカーも変わっていた。それが今は一貫しているので、子供たちは戸惑いがなく同じ環境の中、同じコンセプトでずっとサッカーができています。レイソルのフロントも、育成を強化して良い選手を増やしてクラブを強くしていこうと考えています。だから、今のチームはユース出身の選手がすごく多いんですよ。5月にあったアルビレックス新潟との試合では、全メンバー18人中10人が育成出身でした。
気になっていることがあるとすれば、アカデミー出身の選手を育て上げる方針はいいのですが、逆に何かに特化した歪かもしれないけど突出した選手がチームに足りなくなるかもしれません。その戦術に慣れた選手たちが増えるけれども、そこから突き抜けていく存在みたいなものが出てこない可能性ですね。酒井宏樹や工藤壮人みたいに、代表クラスの選手は排出しているんですが、違った特徴の選手がチームに入ることで活性化される部分もあるでしょうし、今は少しおとなしい気がしています。クラブも「アカデミー出身だけでチームを構成するのではなく、足りない部分は外から入れる」と話しています。ただ、その突出した存在が、アカデミーから出てくるのが理想ではありますね。そういう意味でも期待している選手が茨田陽生。20番のミッドフィルダーで天才肌の23歳。アカデミーが生み出した最高傑作と言われているのですが、まだその才能通りの能力を発揮しきれていません。天才肌のパサーで、才能の片鱗は見せているんですけれど、もっと殻を破って欲しい。能力としては代表に行くぐらいのものがあると信じています。
 

日立柏サッカー場は日本一

柏という街とレイソルの関係もいいですよ。どちらかというと、街の方が積極的にレイソルと何かやりたいという姿勢を見せています。他のチームの番記者の方には「やっぱり柏は根づいてるよね」と言われたりもするんです。駅を降りたところのビックカメラにすごく大きな看板があって、レイソルの広告ポスターが貼ってあります。試合日程とかが書いてあって、すぐ目につく。そういうこともない街もある中で、レイソルは地域密着という点ではうまくいっているケースなんだろうな、と思います。育成がいいということも、密着が成功しているひとつのポイントでしょうね。柏市にある他のクラブチームともうまく提携していて、良好な関係を築けています。そして何より柏のスタジアムは日本一です。設備や何かが良いというわけではないですけど、とにかく客席とピッチが近い。臨場感を味わうには最高のスタジアムじゃないですかね。クラブがさらに強くなったあかつきには、収容人数を25,000人くらいまで増築してほしいと思いますけど、現状はあの感じがちょうどいいと思います。

ジャーナリストとして千葉のポテンシャルを引き出したい

サッカージャーナリストとしての活動の最終的な役割は、日本のサッカーが強くなることなのかもしれませんが、ずっと育成を見てきたというのもあり、さらに自分が千葉県出身ということもあって、もっと千葉県のサッカーを盛り上げて、いろいろな意味で底上げをしていきたいという思いがあります。千葉は、高校サッカーは強いのですが、変に東京に近い分あまりその話題を取り上げてもらえません。これが地方の県だと、その県の地方の新聞やテレビ局などのメディアが報道してくれるのですが、千葉は、千葉テレビでもJリーグをやらないし、サッカー番組もレイソルとジェフの番組が月に一度あるだけ(笑)。ポテンシャルがあるんだから、サッカーファンも増やしたいし、サッカー競技人口やレベルも底上げしていきたい。
時々、Jリーグにも巨人(読売ジャイアンツ)が必要なのかなと思うことがあります。浦和はイメージが近いかも知れませんが、全国区かというとそこまでではない。巨人ファンってどこにでもいますし、海外でいうならマンチェスターユナイテッドのファンってロンドンにもいるでしょうし、レアルマドリードのファンもスペインの他の都市にもいると思うんですよね。そういうチームがいることによってアンチも出てくると思うんです。アンチって盛り上げる意味で必要。そこが出てこないと、ガンと盛り上がらないのかなと。人気低迷と言われている野球が、なんだかんだお客さんが入っているわけですから。
 

夢はレイソルの世界一に同行すること

ここまで柏レイソルに付いてきたので、レイソルがアジアを制覇して、クラブW杯に出て優勝するのを取材したい。3年前のように、開催国だから特別で出るのではなく、ACLで勝ってアジアチャンピオンとして乗り込む姿が見たいんです。クラブの方針として、より育成を強化して、もっと世界レベルの選手を出していこうとなったらしいので、4、5年後になるか10年後になるか分からないですけれど期待しています。昔から見てきた工藤や酒井も、まさか代表にまでなるとは思っていませんでした。頑張ってプロになり代表になったというのを見続けてきた親心的な部分もあります(笑)。柏の育成は世界を見ているので、Jのトップだけで終わるのではなく世界へいってほしい。柏は小中高のユースで海外遠征もさせているんですよ。以前、育成のコーチの方に聞いて「なるほど」と思ったのが、レイソルの14、5歳の子がヨーロッパ遠征でミランやバルサと対戦したことがあって、普通のサッカーファンからすればミランやバルサは観るクラブですけど、レイソルの子たちにしてみると、「僕らはこいつらと試合をするんだ」という感覚で捉えていると。「俺たちは世界に出て、こいつらと戦うんだ」という感覚でいると聞いて、なるほどと頼もしくなりました。
 

鈴木 潤が選んだベスト11

柏レイソル歴代ベストイレブン

歴代柏のベストイレブンです。意外と現役の選手も入りましたね。知名度や実績では他にも候補はいたのですが、レイソルへの貢献度なども考慮してこのメンバーにしました。
 

鈴木 潤 プロフィール

鈴木 潤(スズキ ジュン)

鈴木 潤プロフィール

ジャーナリスト・ノンフィクションライター。国内育成年代から海外サッカーまで取材するフリーランスのサッカーライター。サッカーマガジン、サッカーダイジェストの専門誌をはじめ、スポーツナビ、Footballista、サッカー批評などに寄稿中。J's GOAL柏担当。柏マッチデープログラム「Vitoria」のコラムやモバイルレイソルでも執筆。
 

ページの先頭へ