サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

在日という出自を持った二つの国の代表サッカー選手、李 忠成と鄭 大世のドキュメンタリーを撮った、映像ディレクター姜 成明。彼自身もまた在日の人間として、小さな頃から側にサッカーがあった。一度サッカーから離れた姜を再びサッカーに向かわせたのは、在日というアイデンティティとそれを超えるエゴだったという。

李 忠成と鄭 大世から始まった

映像ディレクターの仕事で、2008年から12年のアフリカW杯まで、李 忠成(り・ただなり)と鄭 大世(チョン・テセ)のふたりを追いかけ、「祖国の選択」という番組を作ったことがサッカーにのめり込んだきっかけでした。もともとどちらかと言うと野球好きだったのですが、今では完全にサッカー派。海外サッカーも2010年からはまり出して、今では家ですべてのサッカーの試合が観戦できるようにしています。ちなみにスマホでも常に観戦できるように設定しているので、24時間どこでも観戦可能です。
そもそも早稲田大学のスポーツ科学部出身ということが、スポーツ・ドキュメンタリーを撮る土台にありました。と言っても、スポーツの研究をしたくてその学部に入ったわけではなく、たまたま入ったのが…、という感じなんですが(笑)。サッカーは在日朝鮮人で朝鮮学校に通っていた自分にとって、何より身近なスポーツでした。当然小学校ではサッカー部でしたし、ずっとキーパーをやらされていました…。在日サッカーの歴史や対日本戦というのは民族の語り草というか、先生や先輩に「サッカーだけは日本人に負けない!」とよく言われていました。自分は在日3世ですが、2世はガチで日本人と在日の人で喧嘩もしていたし、何においても負けられないという世代で、公式に勝ち負けがつくサッカーは、すごく大事な勝負の機会だったんだと思います。自分たちの世代からは、いわゆる2世が築き上げてきた「在日スポーツ=サッカー」というよくあるイメージに反発する人間も出てきて、多様化してきた気はします。たとえばラグビーも全国を狙えるようになったりとか。そういう風に、サッカーの純度が薄まった分が他に移っていったのが自分たちの世代だと思います。

ピッチの外にある戦術を探りたい

サッカーは、スポーツとしていまだにすごく原始的ですよね。進化/変化していこうという流れがあるのかも知れませんが、今のところそれほど変化はない。最近ではゴールの映像診断のような科学的な要素も入ってきましたが、ジャッジひとつとっても審判によって判断が変わる原始性があります。そうしたスポーツの括りから出ちゃうような粗さに、スポーツとしての魅力を感じているのかも知れません。不確定要素がすごく多かったり、流れに簡単に左右されたりというような、ロジカルなようでそうじゃない競技性。しかも、ホーム・アンド・アウェーでこんなにアドバンテージがつくれるスポーツはそうないだろうなとも思います。そうしたすごく人間的な部分にも魅力をすごく感じます。だから観る時は人ありき。チームというよりも、人です。人という意味で、モウリーニョのような、監督がチームを動かしている感があるサッカーが好き。彼のサッカーがおもしろいかおもしろくないかはともかく、彼のちょっとした言葉や行動で流れを変えたりするテクニックは、観ていて本当におもしろい。つまらないプレーでも、勝つために手堅く行動し、実際に勝つ。そうして積み上げた実績は本当にすごいですよ。監督たちが何を考えてやっているのか、原始的だからこそ人間の知恵が介在する部分があるのかもしれません。僕自身まだ何も答えがでておらず、よくわかっていませんが、それぞれの監督の中には何かあるはず。解説者は試合を観ていろいろなことを言いますけれど、本当にすべてを把握しているのは監督。一度でいいから、すべてのサッカーチームのロッカールームに入って、試合前後のミーティングやハーフタイムもすべて撮り、ピッチ上ではない全体としての戦術の在り方を探りたいんです。解説者の適当で的外れな話しはもういいので、チーム内部ではどういう風に試合が動いていたのかが本当に見てみたい。もしかしたら戦術なんてないかもしれないし、もっと別の次元で選手をコントロールしているかもしれない。メンタルコントロールなのか、具体的な動きのコントロールなのか、監督が選手にどういう指示を出しているのか非常に興味があるんです。実際にそういう企画も出したこともあるんですけれど、戦術を公開するというのはなかなかハードルが高いようで…。勝負事ですし、それで負けたら選手は食いっ逸れますからね。野次馬やファンと選手や監督たちが考えていることの間のギャップが大きすぎると思うので、ここをある程度調整していければ、もっとおもしろくなるだろうな、と思っています。

サッカー選手のエゴが観たい

サッカーの、あまり点が入らないゲーム性が嫌いな人っていると思うんですけど、僕がそうならなかったのは、点を獲るだけじゃない楽しさをテセが教えてくれたからです。テセはすごくエゴが強い。李もエゴはありましたけど、エゴというよりチームプレーがまずあって、そこに「自分がどう機能するか」をちゃんと考えている。テセはそんなことを全然考えていなくて(笑)、それまであまりサッカーに興味のなかった自分からすると、「同じポジションなのにここまで違うの?」というくらいでした。それで、そもそもサッカー選手にとってエゴってなんだろうとずっと考え始めて、取材中の自分の軸となるテーマでした。エゴ全開のテセがなぜあんなに人を魅了するのか。川崎在籍時代、朝鮮代表にも関わらずものすごくたくさんのファン、特に子どもから「テセ! テセ!」と声を掛けられる姿を目の当たりにしてきました。あれは彼のエゴの強さというか、最後は自分が決めるんだという強さ、破壊力みたいな部分が魅力として伝わったんだと思う。気づくと、サッカーを観る時に、そういうエゴの強いプレイヤーを追っかけるようになっていました。FWのエゴは点を取ればヒーローになれる一方、諸刃の剣でいちかばちかのギャンブルみたいなポジションであることに強く惹かれた。僕はテセと会わなかったら、そんな風にサッカーを見ることはなかったでしょうね。
だから僕のサッカーには、エゴは絶対必要。結局最後は突き抜ける力が必要になる。テセを見ていると、周りのことなんてまず考えていませんし、チームが勝っても自分がダメだと喜びません(笑)。朝鮮代表からも目の上のたんこぶみたいに思われていて、テセ本人も葛藤していたにも関わらず、彼が起用され続けたのはその突き抜ける力であったからだと思うんです。いまの日本代表でいうと、やはり本田圭佑は気になって、追いかけてしまいます。本田の試合は必ず観ています。プレーに惹かれるというより、生き様、人間としてのタフさがものすごい。本田圭佑をまねろと言われて真似できる人間はそういない。ほとんど全てに失敗して、そこから這い上がっての繰り返しじゃないですか。

世界に飛び出す勇気と意義

映画「TESE」は2011年に公開されたんですが、公開後はテセを追いかけることはやめました。映画をゴールにしないとダメだな、と思って。あの映画は、サッカーの競技というよりも在日がテーマでしたけど、在日をテーマにしてこれからもずっと作品を作っていく時代なのかどうか、というのをいまものすごく考えています。特にテセとチュンソン(李 忠成)から学んだことなんですけど、「もはや在日とか言ってる場合じゃないぞ」と。テセとチュンソンが見せてくれた世界というのは、日本の中で日本のマイノリティがピーピーキャーキャー言うのではなく、日本の外に出ていかないとダメな時代だということでした。自分がこれからも在日をテーマに取材することって、できなくないことなんですけれど、でもそういうことじゃない。ふたりが各国の代表として直接戦った頃までは追いかける意味はありました。在日は日本を意識して生きてきた民族なので、良くも悪くもそもそも日本人社会がなかったら存在していないわけです。じゃあ朝鮮に行って朝鮮人として生きられるのかと言ったら、それも無理。本当に皮肉なんですけれど。我々は日本あっての在日。だから、これからはそういうところを飛び越えていきたい。テセのエゴの強さに触れなければ、このことに気付かなかったと思う。テセがあそこまで、国を背負っているのに自分のことしか考えてないとか、おもしろくないですか?(笑) 新しい時代を見た気がしました。北朝鮮代表の在日選手なら、普通選ばない韓国リーグへ移籍しましたよね。そこにも少なからず、目立ちたいという気持ちはあったと思います(笑)。彼は、自分が周りに求められる環境を強く求めている。

埼玉スタジアムでの日朝戦

いちばん思い出に残っている試合は、現地でカメラを構えながら観ていた日朝戦です。鄭 大世が出ていた埼玉スタジアムの二試合なんですが、在日の選手が日本代表と対峙しているって、ものすごく感慨深いものがありました。観客席では在日の人たちが赤い旗を持っていたんですが、青い日本代表のユニフォームで埋め尽くされる中に小さな赤い集団がぽつんとある様子が、いまの在日を表している感じがして終始鳥肌が立ちっぱなしでした。あの赤いユニフォームを着た人々の小さな塊が、最後の灯火じゃないですけれど、在日と言う名のろうそくの火が消える様子のように感じられた。日本の中にある朝鮮というものをものすごく体感して、まだあるんだとも思ったし、消えていくのかもしれないとも思ったんです。

日本のサッカーは深く深く、地下へと潜っていくべき

日本のサッカーは、欧米を目指してはダメだと思っています。欧米とは歴史も何もかも違います。日本人のいい選手はヨーロッパに移籍してしまういま、スーパープレーはヨーロッパのテレビを観ている方がいいわけです。ではどうするか。いま観てくれている層にいかに魅力的だと思わせるかというところに懸けていくべきなんです。深く深く、地下に地下に、もはや入り込めないくらいのアングラになっていけばいい。いまのアイドルが持つ強さが、コアな人を捕まえる力であるように、コアなファンの高すぎる強度の安定感が重要だと思うんです。もっとオタク寄りのグッズ展開があってもいい。だってJリーグのサポーターってオタクですよ。いまのアイドルは選びに選んだ美人の集まりではないし、歌もそううまいわけではありません。サッカーも一緒で、Jリーグにスーパープレーはそれほどないけれど、ちょっとしたサッカーと関係ないコンテンツでも、サッカー選手に月1万円払ってもいいというサポーターは、そこそこにいると思いませんか? そこを運営側が汲み取っていかないといけない。どんどん広めようというやり方には限界があります。我々の日常はあまりに選択肢が多いですから…。ひとりの選手にファンが100人いて、ひとり1万円を毎月出したら100万円ですからね。結構な収入です。いまはスポーツとエンターテイメントが上手にリンクしていない。好きな人からすれば、もっともっと多様で多彩な情報がほしいはずなんですが…。
おそらく反発するコアなサッカーファンもいると思います。でも、その層すらも取り込める何か隙間があるはずです。さっき自分が話した戦術を知りたいという欲望もそうですし、ロッカールームにもし入れるならコアなファンは入りたい。もっともっと深く知りたいことがあるのに、いまだにベールに包まれているところが多すぎると思います。勝負が何より大事ではありますけど、エンターテイメントとしてみんなでチームを育てるというところに持っていければ、もっとマニアの人たちもお金を払ってくれる。男は全員監督になりたいですからね。アイドルがあそこまで流行ったのは、プロデューサーという名前をつけたからじゃないですか。スポーツ選手を育成したいという気持ちは必ずあると思う。

スポーツって間違いなくおもしろい

テセがフロンターレにいた時、川崎のファンの人たちと一緒に夜な夜なお酒を飲んでいたんですけれど、みなさん本当に楽しそうなんですよ。こんな生活いいな、と思いました。土日になったらみんなで家からスタジアムまで歩いて、途中で他の家族と合流して「今日も頑張ろう!」とか「子供たちが横断幕つくったよ!」とか言いながら、お父さんお母さんの後ろを子どもが付いて行く。スタジアムの帰りには、みんなでご飯食べながらあいつがダメだった、こいつは良かったと話す。これって本当に魅力的です。みんな同じユニフォームを着て、ものすごく幸せそうだった。でも、この喜びを味わえている人が少ない。もちろん家とスタジアムとの距離とか、いろいろな条件はありますけど、もっともっと運営側が手を差し伸べてくれたら、何かが変わる気がするんです。スポーツって間違いなくおもしろいですから。プレーしている本人たちはものすごい必死でやっているわけじゃないですか。アイドル以上に命を削ってやっているわけで、自分が具体的なことを言えなくて申し訳ないのですが、もっともっと楽しませる方法ときっかけを考えてもらえたらうれしい。
 

姜 成明が選んだベスト11

髪の毛にボリュームがあるベストイレブン

髪の毛にボリュームがあるベストイレブンにしてみました。見た目にもプレーにも大きい人たち。

姜 成明 プロフィール

姜 成明(カン ナリアキ/カン・ソンミョン)

姜 成明プロフィール

映像ディレクター。1979年東京生まれ。在日コリアン3世。早稲田大学卒業後、「ヒストリーチャンネル」番組制作でキャリアをスタート。2008年には李忠成と鄭大世を追ったドキュメンタリー「祖国の選択」を演出。主に海外ドキュメンタリーを中心に活動を行う。2011年冬には、自身が監督を務めるドキュメンタリー映画「TESE」が公開。現在、ミャンマー連邦共和国の民主化運動を長期取材中。

ページの先頭へ