サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

「脚のきれいな選手求む!」という選手募集を行うアマチュアチーム「東京クルセイド」とその助っ人選手沖千尋。彼らを軸に、現代サッカーにおけるインナーマッスルの重要性を取り上げた稀有なサッカーマンガ『フットボールネーション』。加えて『サッカーボーイ』『我らの流儀』など、サッカーマンガを数多くてがけ、Jリーグ以前から日本サッカーを見続けてきたマンガ家大武ユキは、辛口かつ渋めのサッカーファンだった。

なんで日本人選手は走ると頭がガクガク揺れるのか、という疑問

『フットボールネーション』は2009年の末から連載を始めたのですが、立ち上がりかけてはポシャるを繰り返し、企画段階からすごく時間がかかった作品です。01年の時、すでに主人公たちはネームの中に描かれていたんですが、その頃はまだインナーマッスルが話題になる前で、01年末に運動科学総合研究所の高岡英夫先生の『サッカー日本代表が世界を制する日―ワールドクラスへのフィジカル4条件』が出ます。読んでみたら「なんで日本人の選手は走ると頭がガクガク揺れるのに、海外の上手な選手はスーッとすべるように走っているんだろう」という長年の謎が解けたんです。それをマンガの中に落とし込もうと思い、サッカーマンガとは思えないくらい字が多い、いまのスタイルになりました。試合と蘊蓄とそれ以外という大きく3つの要素があり、1巻の中にバランスよく描くようにしていて、蘊蓄はだいたい1巻のうち3割くらいという、何となくのイメージはしています。連載当初は指導をしている人たちに読んでもらいたいと思っていたんですが、連載を続けている間にtwitterでタイトルをエゴサーチしていくと、着実に高校生のサッカー部員が読んでくれているのがわかったんです。さらに徐々に中学生ぐらいにまで下がっていきました。「ああ、よかったなー」と思いましたね。
若い頃の中村俊輔選手はフォトジェニックでした。高校選手権の神奈川予選の頃から目について写真を撮っていたんですけれど、今まで撮っていた選手と高校時代の彼は「ものが違う」というぐらい写りが違いました。高校の頃の中村選手は失敗写真が少ないというか、異常にフォトジェニックだったんです。インナーマッスルを知る以前ですが、あの時ぐらいからすばらしい選手はものが違う、写りが違うというのは感じていました。

優秀なボランチは強力なATフィールドを持っている

弟がわりと強いチームでサッカーをやっていたり、隣の家のお兄さんが高校で選手権に出て、その年優勝する帝京に負けるところを観ていたりという経験があって、子どもの頃からサッカーには馴染みがありました。そしてアデミール・サントスで盛り上がった時の東海大一高のサッカーを見て、なぜか主将だったDFの大嶽直人を好きになってしまった。そう、なぜか最初がDF…。高校サッカーを観るようになって、大嶽を観るべく進学した順天堂を観に大学サッカー観戦へ、そして卒業後は、私が88年から応援していたJSLの全日空サッカークラブに大嶽が入ったのはラッキーでした。
入り口がDFだったわけですが、その後はずっとボランチ好きです。DFとは違う守備範囲の広さが好きな一番のポイント。エヴァンゲリオンのATフィールドが広範囲な感じでわかりますか?(笑)。そこにいるだけで侵入できない、そういうボランチが好きですね。いいボランチはあまり動かず、間合いに入ってきたひとを必ず刈り取る。そう、刈り取らなきゃダメなんです。漂ってるだけで「ちょっとコースを消してみたよ」「ちょっと寄せてみたよ」と言うアリバイ系は一番唾棄すべきタイプのボランチ。雰囲気だけでじゃなく、「ちゃんとボールを取ってこいよ」と。かと言って釣られて動き回り過ぎなのもダメなところが難しいんですが。守備範囲の広さ、ボールの奪取、あとはカバー力とかいろいろありますけど、さらにいいハブ、基点になれたら言うことありません。『フットボールネーション』で主人公がボランチなのは、自分がボランチ好きだから。こういうボランチいたらいいな、ワクワクするだろうなというただその一心。あれがボランチの理想型です。
FWの選手で好きな人もいないわけではないんですが、「特にこういうタイプのフォワードが好き」というのはありません。基本的にボランチ目線、守備目線で見ているので、ドリブラーも実はあまり興味がない。サッカーの美学、醍醐味は、ディフェンスにあると思う。DFがサッカーを面白くしている。だって、どんなすごいFWでも、DFが素晴らしくいいディフェンスをしたら、力を発揮できないじゃないですか。ブラジルW杯準決勝のアルゼンチン対オランダ戦、マスチェラーノらが大活躍して誰にもまともなシュートを打たせなかったあの試合とか大好物の極み。ああいう風にいかに仕事をさせないかという、ディフェンスが素晴らしい仕事をした試合は観ていてすごく楽しい。でもあの試合、つまらないと言う人と、すごく面白いと言う人と評価は分かれていますよね。それを知って「サッカーを観ている部分が違うな」というのを改めて感じました。試合後の番組を見ていたら、岡田元監督が、あの準決勝の試合をすごくつまらなかったと言っていて、「え?」って思ってしまいましたから(笑)。一時も目を離せないあんなに面白い試合をつまらないなんて、と。スコアレスドローでも面白い試合は面白いんですよ。サッカーの楽しさは、必ずしも勝ち負けじゃない。

ドーハは悲劇ではなく必然だった

負けてよかったではないですが、ドーハは悲劇ではなく必然だったと思っています。逆にあれは行かなくてよかった。もし行ってしまっていたら、あの時のメンバーがレジェンドになってしまったわけですよ。ちょっと嫌じゃないですか(笑)。逆にジョホールバルはすごく楽しくて、岡野の1点決めた時は脳汁が出ました。日本サッカー的にもエポックメイキングだったと思うんです、あの予選は。国立も全試合行って、外で野宿もしました。9月ぐらいだったんですけれど、秋が深まり始め野宿がだんだん辛くなる頃で、若くなかったらもうできませんね。
フランスW杯は、3戦全部現地で見ました。3週間パリのアパルトマンを借りて、そこを基点に移動をして、トゥールーズのアルゼンチン戦はこみ上げるものがありました。弱い頃からずっと見ていた代表が、中田英寿という若いけどすごい選手の登場で盛り上がって、しかも相手が強敵アルゼンチン。あそこで君が代を歌った時はグッときましたね。「長かった…、よくここまできた…」みたいな。ちょっと感無量でした。

サポーターって基本的にマゾなんですよ。マゾじゃないとやってられない。

理想的なボランチは、かつてはヴィエラでしたが、いまはマティッチです。マスチェラーノ、シャビ・アロンソ、ケディラも好き。基本的には守備的なボランチが好きなので、ピルロにはそんなに興味ありません(笑)。でもヤットは好き。あの子は元々うちのフリューゲルスの子だし、デビュー戦を観た時に「ああ、こいつはすげぇ」と思った記憶もあります。ただ、代表でヤットを使うなら長谷部選手とじゃダメでしょと思っていて、そこには今野を置かなきゃダメなんです。日本人では今野選手が一番好き。今野選手がFC東京にいた頃は、彼観たさに味スタ行くようになりましたから。
一応オフィシャルには横浜FCのサポーターなんですが、いろいろな問題がからみ合い、年に1、2試合行くかどうかになってしまっています。実はいまは味スタの方に足が向っています。FC東京の方が好きな選手を集めてきてくれて、見ていて楽しい。実際のところ、どこのサポーターであるかの理由はみなさん説明できないんじゃないかと思うんです。最初になぜ全日空だったかというと、全日空横浜サッカークラブという名前が格好よかったから。名前が格好いいというのと、日航よりは全日空の方が好きだったという程度(笑)。そして何より観に行ったら試合が面白くて、すぐにハマった。だからたまたまに近い。そこからは好きな選手も出来て、好きになる要素が増えていきました。結婚したり恋人になったりするのに理由がないように、たいていのサポーターもそうだと思うんです。「なぜ急に俺はこちら側にまわってしまったんだ」みたいな感覚。今野選手が見たくて見に行っていたんですけれど、原博実さんが監督の頃までは本当に辛かった…。あまりにもやってるサッカーがつまらなくて(苦笑)。監督や選手が変わっていく中でだんだん面白くなってきたと思っていたら、今度は今野がいなくなっちゃった…。でも、いなくなっちゃっても、気がついたらFC東京を好きになってしまっている。そういうもんですね。だから好きになったチームが必ずしも強いチームなわけではないし、サポーターって基本的にマゾなんですよ。マゾじゃないとやってられない。いつか勝つ日がくる、みたいな気長さで、死ぬまでに夢を一回見られればいいかな。

ペップがどれだけポジショニング一個から具体的に教えていたのか

指導者に求めるものは具体的なメソッド。モヤッと「こういうサッカーがしたい」と考えている人が結構いるじゃないですか。選手に対して具体的に「こういう風に」という指示を事細かに教えられるメソッドを持っている日本人監督は、実はそんなに居ないのでは? と思っていて。パスサッカーがしたい、というのは分かる。でも、じゃあどうしたらいいんだ、ということを具体的に選手に教えてあげて欲しいんです。
バルセロナはペップじゃなくても機能するだろうと想像をしていたんですけれど、結果あのプレーは出来なくなってしまいました。ペップがどれだけポジショニングひとつから具体的に教えていたのか、という話しですよね。みんなが思っているほど、サッカー選手って客観的にサッカーを知っているわけでも、観れているわけでもないじゃないですか。プレーする側の選手は、教えてもらわないとできないことがある。羊(選手)には羊飼いが必要なんですよ。ジーコはまったく羊を飼わずに放牧しっぱなしで、勝手に草を食べるがままにさせていましたね…。ブラジル人は放牧をよしとしていそうですけど、ブラジル人自体がサッカーを知っている。セレソンレベルになったら、たとえ放牧してもそれなりにみんな何とかしてくるんだけど、まだまだ日本人では無理だと思うんです…。

夢・・・優勝までとは言わないので、ベスト4

わたしが死ぬまでに、代表がW杯ベスト4ぐらいになる。優勝とまで言う気はないです(笑)あと50年位でしょうか。ベスト8までならいける気がするけれど、ベスト4の壁はかなり高い気がします。W杯の回数で言えば、あと12回ですよね。12回って意外とすぐですよ。
あとは横浜FCがお金持ちに買われて、マンチェスター・シティみたいになるといいな。横浜という場所は悪くないし、本当にシティみたいじゃないですか? マリノス=マンチェスターUというでかいチームがあって、対抗するお金がなくて大変だったチームという点で、まさにシティ的(笑)。Jリーグも今のままではどん詰まり。プレミアリーグが腹をくくって切るところを切ったプレミア構想を見習ってほしい。外資を入れてある程度人気のビッククラブをつくって、良い外国人を呼んできて、ということをやらないとダメなんじゃないかな。とりあえず外資は絶対に入れて欲しい。まずはお金です(笑)。お金がないと現状に対してよい策は何にもできません。

漫画を描く時にも影響って

どん詰まり状態を解消してくためにも、自分のマンガにジャーナリスティックなことは盛り込みたいと思っています。もっと広い視点でサッカー界の話は盛り込みたい。日本のジャーナリズムはうっかり協会批判や選手の悪いことを書いてしまうと取材拒否をされたり、パスがもらえなかったりすることがあります。それはおかしいですよ。だから選手も世間の声に対してちょっと叩かれただけでへこんだりして、やわなまま。海外メディアの叩き方なんて半端じゃないですよ。書きたいことを書けないというのは、異常事態だと思う。だから日本のサッカーを本気で憂うものとして、「サッカー村の住人じゃないので書かせてもらいますよ」という姿勢で作品中に批評精神を盛り込んでいきます。

大武 ユキが選んだベスト11

ベストイレブン

大好きなボランチ、マティッチを含め、趣味よりもSBの人選で勝てそうなチームにしました(笑)。

大武 ユキ プロフィール

大武 ユキ(オオタケ ユキ)

大武 ユキプロフィール

神奈川県出身。1988年以来「日本サッカー後援会」に入り続け、日本サッカーの将来を常に憂いている。全日空サッカークラブ→横浜フリューゲルス→横浜FCを応援し続けるが、11年前からFC東京をウォッチし始め、数年前からはソシオ会員でもある。現在『ビッグコミックスペリオール』にて「フットボールネーション」を連載中。

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