サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

女性とサッカーの距離はいまどのくらいでしょうか。以前に比べれば格段に近づき、なでしこの世界一獲得によってプレーする人も増えてきています。小学校の頃からサッカーを始め、なでしこ入りを夢見ていた長谷川ゆうさんは、怪我で夢を諦めなければいけなくなったとき、自分がやっていた女子サッカーをもっと知ってもらうことを新たな夢にしました。

「女子サッカーを広める人間になりたい」

芸能界に入ったそもそもの理由が、地元で小中高とずっとやってきたサッカーを広めたいと思ったからなんです。高校を卒業した時、なでしこリーグのチームのセレクションを受けようかとも考えていたくらいサッカーに本気でした。ところが、怪我をして思うように上のレベルに進めなかった時、このままサッカーで上を目指すことより、そもそも低すぎる女子サッカーの認知度を上げるために「女子サッカーを広める人間になりたい」と思うようになったんです。でも、群馬の田舎でサッカーしかやってこなかった人間が、雑誌とかサッカーメディアにつてがあるわけでもなく、そもそもライターという職業さえ知らなかったわけです。だから、いざ広めたいと思っても何をしていいかわからず、自分が表に出る仕事をして女子サッカーについて喋っちゃえばいいんじゃないか、と思ったのが芸能界に入ったきっかけでした。
 

ビジネスサッカー好きみたいに思われること。

でもやっぱり、最初はサッカーの仕事なんて全くない。与えられた女優やモデルの仕事を数年続けていたんですが、このままでは一生サッカーの仕事になんてたどり着けない…、と3、4年前に気づいて、自分の本質からずれちゃうと思った。それで当時のマネージャーに、「本気でサッカーの仕事がしたいから、他の仕事を一切入れないでください」と言って、サッカーキングさんに仕事を勉強させてもらいに行ったんです。モデルの仕事をしていた私が、いきなりサッカーについて喋っても「こいつ知ったかぶりしているな」と思われるのがオチなので、ライターとしての経験やサッカー仕事の基盤をつくった後なら信用されるんじゃないかと思って、雑用でもなんでもいいから勉強させてくださいとサッカーキングさんに飛び込みました。そこでニコ生に出させてもらえることになって、いろんなライターさんとお話しする機会をいただき、徐々に本当にサッカーが好きなんだなと認知されるようになりました。最初のうちは、ニコ生に批判的な言葉はなかったんですけど、W杯シーズンで普段ニコ生を見ない人が見るようになって「なんだ、この知ったかぶりの女」みたいなコメントはありましたね。「女がサッカーを喋るな」とか。少なからずあるとは思っていたので、反論もしませんでした。もともと「女のコとサッカーを近づけたい」と思って始めたことなので、批判的な人たちをネガティブに捉えず、どうやったらこの人たちが、女の子がサッカーに関わることを認めてくれるんだろうと転換したんです。女の子がサッカーについて喋ることが当たり前になるように行動しようと。
 

未知の世界に入って不安でしょうがありませんでした

この3、4年間。最初は未知の世界に入って不安でしょうがありませんでした。サッカーの仕事をしている女性は、サッカー応援番組に出ているアシスタント役のタレントさんをはじめ、解説の元なでしこジャパンの選手や長年やっているライターさんやピッチアナウンサーさんに分けられます。サッカー経験者でタレントでもあるわたしは、それらの中間の位置にいるんじゃないかと思うんです。そういう曖昧さを活かして何か新しく広げられないかなという思惑がありながら始めたんですが、もともと仕事の分母がない中で広げるといっても簡単にいくわけもなく、最初の不安はすごかった。でも、他のライターさんと関わるようになって、話すうちに「あの子すごくサッカー好きだよ」「ほんとに詳しいよ」というのが少しずつ広まっていってくれました。そうしたら、サッカーキングのニコ生に出演するようになった約半年後に、連載すらしたことがないのに、女の子向けのフットサル本が出るから、女の子目線で書いてみない? というお話をいただいたんです。「これはチャンス。無理かもと思って諦めたら一生来ないチャンスだ」と思って本を書かせていただきました。そのくらいからいろいろサッカー大会やイベントで、MCやアナウンスをやらせていただくことが増えて、サッカーの長谷川ゆうという印象が、少しずつですけれど、出てきたかな。
同業他社というか、女性でサッカーをメインに仕事をしている方はいなくはないんですが、私も含めて続けるのが難しいと思うので限られています。そもそも男性でもサッカーメインで全員が食べていけるわけじゃないですからね。私もきついですけど、だからといってモデルに戻って本腰を入れてしまったら、今までやってきたこの数年は無駄になってしまうし、実際に続けている女性タレントが少ない中で、私がどこまでやっていけるかもチャレンジだと思っています。ここまできたら、もう「サッカーに捧げよう!」という気持ちです。
具体的には、単純に女子サッカー人口を増やすだけではなく、例えばJリーグのスタジアムに女の子をもっと増やしたいと思っています。女の子が戦術について詳しく喋ることが当たり前の世の中になったら、もっと日本のサッカー文化は深くなると思う。サッカー好きです! 楽しい! だけじゃない、何なら男性よりも詳しく見てる、もっとコアに好きな女の子もいることを認知してもらえるようにしたいですね。とはいえ、まだ少ないのが現状です。友だちでも、一緒にフットサルはしてもサッカーは見なかったりしますから。
 

プレーを辞めるとき、一番ショックだったのはずっと送り迎えをやってくれた両親でした

群馬出身なんですが、サッカーを始めた当初から女の子はいませんでした。最初はお兄ちゃんと同じ少年団に入ったんですが、当時女の子は公式戦に出ちゃいけないというルールがあったので、家から車で一時間半もかかる場所に、県で一番強い小学校の女子サッカーチームがあると知って、本気で行きたいなら通わしてあげると親が言ってくれて、通い始めました。でも女子サッカーは競技人口が少ないので、地元に強い相手はいないし、練習試合ができないから、毎週東京、埼玉、神奈川への遠征が当たり前でした。中学校にもやはり女子チームはなくて、また車で2時間近くかかる関東リーグ所属の社会人チームに通わせてもらい、続けました。土日も遠征ばかりだったので、週末に友だちと遊ぶとかはほとんどありませんでしたけど、それが全然苦じゃなかった。私、小学校の修学旅行すら行ってないんですよ。修学旅行当日、東京で大会があって、クラブチームなので学校優先にしてよかったんですけど、本当に当時はサッカーが好きすぎて「修学旅行休む! 試合行く!」と(笑)。で、その大会で優勝しました。もう当時はただサッカーができればよかったんです。恋愛にも興味がなくて、むしろ男子サッカーに対して嫉妬心がある時期でした。男子は注目されても、女子は全く注目されない。高校のときのアテネ五輪でなでしこジャパンが初戦スウェーデンに勝って活躍していたのに、結局男子ばかりが報道されていた。「なんだよ!」って。ただ、当時は女子サッカーをやっている子のなかでも温度差はあって、女子サッカーをやる女の子って、本当にただサッカーが好きな子の集まりで、あんまり女子サッカーのこれからとかを深く考えていませんでしたね。プロという道をまったく想像もできてなかった。
だから実業団まで入ってサッカーをやりたかった私を、両親はよく応援してくれたと思います。社会人のチームに通うのも、片道二時間近くかかっていたわけで、仕事から帰って私を乗せて行って、帰って迎えに戻ってくる時間はないので、私の練習している間、ずっと車で待っていてくれました。群馬の田舎で、近くにそんなお茶する場所もあるわけじゃないから車の中しかないんです。それを週に平日二、三回、休日は関東リーグなので県外遠征…。本当に親の協力なくしては続けられませんでした。私が高校で一旦プレーを辞めるとなったとき、一番ショックだったのはずっと送り迎えをやってくれた両親でした。
 

ディフェンスが楽しくてしょうがなかった

女子サッカーはメディアにほとんど情報がなかったので、観るのは必然的に男子サッカーでしたね。ずっとセンターバックをやっていたので、小学校の時から井原正巳さんがあこがれの選手でした。元々フォワードだったんですが、小学校のときにいつもセンターバックでやっている子が休みでいなくて、代わりにやってみろと言われて入ったら定着化しました。
小五で女子サッカーのチームに入って本格的に学び出して、すぐセンターバックにコンバートされたので、サッカーのルールがかろうじてわかるくらいの状態で、全体を観なくちゃいけないセンターバックですから…。一応、わけもわからず「(ラインを)上げてー」とかやるんだけど、上がってと言いながら不安で自分だけ下がっちゃうみたいな(笑)。よく「(手が)泳いでる泳いでる」とからかわれました(笑)。でも、ゴールを決める喜びより、1対1で負けないとか、シュートを打たせないという喜びを見つけてからはディフェンスが楽しくてしょうがなかったですね。今でも試合を観ていて一番キュンとする瞬間って、4バックのディフェンスラインがスッてきれいに揃った瞬間ですから!
 

もうサッカーはやらないと決めていた

実はサッカー選手の夢を諦めて芸能界に入る時、もうサッカーはやらないと決めていたんです。負けず嫌いで、高校のとき戦った相手の選手や仲の良い選手がなでしこリーグで活躍しているなか、自分だけが遊びでボールを蹴っていることを悔しく感じることがわかっていたから。だから私は一切ボールを蹴らないと決めて、4年間ほぼボールを蹴らないでいました。そこからボールに触るようになったのは、仕事の関係で芸能フットサルの女の子と仲良くなってからです。久々にボールを蹴って、やっぱり楽しかった。当時はフットサルのルールを細かく知らなくて、ミニサッカーの感覚で自由に、純粋にボールの感触を楽しみながらやっていました。ただ、気持ちとイメージはできているのに、体がボールに追いついていない自分がいました(笑)。実際に南葛に入って、細かいルールを覚えていくと、ディフェンスとの距離感がサッカーと全く違うわけですよ。サッカーではタブーとしているプレーが正解だったりして、ギャップで最初はうまくいかなかったですね。女の子がボールを手軽に蹴れるという意味では、フットサルってすごくいいと思うし、サッカーは男の子とやれないけれど、フットサルだったら意外と一緒にできたりする。女の子がボールを蹴るきっかけとしては、広まってよかったなっていうのはあります。ただ、フットサルはやるけれどサッカーは観ない人という人がけっこういるんです。それって、例えばランニングとフットサルでちょっと汗を流すことを同じように捉えている人が多いのかもしれません。一人で黙々と走ることは続かないけれど、みんなでフットサルするんだったら続けやすい、くらいの違いというか。ボールを蹴るのが好き、サッカーやフットサルが好き、だからフットサルをやるという子よりは、ちょっと運動のためって感覚の女の子も多いと思います。
 

スマートなサッカーよりも泥臭いサッカーが好き

サッカーの試合を観るときは、仕事のことが多いので基本的には記者席なんですが、プライベートの時はメイン側の上の方。引いて上から見たくて。全体的なボールの動きもですが、センターバック的にはディフェンスラインが気になるじゃないですか。テレビを見ていてもずっとワイプで全体を映しておいてほしいくらいです(笑)観戦中はノート片手に黙って、気づいたことをメモしています。試合後、選手の取材に行くとき、あの場面での選択はなぜなのか聞こうとか考えながらメモしたり、感想のような思ったことをそのまま書いたりしています。私は、スマートなサッカーよりも泥臭いサッカーが好き。熱いプレーヤーがいたり、ポジションで回すより走ってハードワークするチームが好きだったりします。私自身、技術のあるタイプではなくて、身長も低くフィジカルも弱いディフェンダーだったので、運動量と熱意に関して自分と重ねている部分はあるかもしれません。群馬出身ということもあり、松田直樹さんみたいな熱いハートのプレーヤーはすごく掴まれます。
 

宮間さんの「私たちは勝たないと頑張っていると思われない」という言葉

サッカーと女子を繋げるという大きな夢のゴールは永久にないですね。具体的な達成を何かイメージするなら、男子サッカーの解説を女性が務めるとか、女性が女子サッカーに限らずサッカー全般についてメディアで詳しく喋るのを日常的に見るようになりたい。元プロ、元なでしこの選手ではなくても、ただ純粋にサッカーを好きで見てきた女の子や私よりも詳しいタレントの女性もいると思うので、そういった人たちが当たり前のように地上波の番組に出て、戦術や試合について解説することに違和感がないくらいにまでなったらいいなと思います。そもそもなでしこを有名にしたいと思って芸能界に入ったのに、なでしこの方が私より先に有名になっちゃった(笑)とはいえ、まだまだなでしこは男子以上に結果が全て。試合の時しかフューチャーされないわけで、いくらなでしこジャパンといえども、勝てなくなった瞬間に今まで追ってきたメディアが急に手のひら返しになり得る。宮間さんの「私たちは勝たないと頑張っていると思われない」という言葉が、女子サッカーの現実を象徴していると思ったんです。彼女たちはすごく頑張っているんです。なのに、試合の時しかフューチャーされなくて、そういう風に思われやすいというところがあるので、もっと日常的に女子サッカーを見られる媒体や番組をつくりたいです!
 

長谷川 ゆうが選んだベスト11

ベストイレブン

現役時代に心を掴まれた女子サッカー選手。青春の全てです。
 
フォーメーション:4-5-1
監督:高倉麻子
 
FW:荒川恵理子、
MF:山本絵美、澤穂希、宮本ともみ、酒井興恵、小林弥生
DF:中地舞、山岸靖代、大部由美、川上直子
GK:山郷のぞみ
 

長谷川 ゆう プロフィール

長谷川 ゆう(ハセガワ ユウ)

長谷川 ゆうプロフィール

モデル・キャスター・スポーツライター。群馬県出身。10歳でサッカーをはじめ、前橋エコークラブに所属。中学生時代は社会人チームのFCすばるに所属していた。2011年からは、芸能人フットサルチーム「南葛シューターズ」で活躍。【おとな×ブカツ・フットサル部】として、フットサル本の監修・執筆も行ない、サッカー・フットサルメディアを中心に活動中。
 

ページの先頭へ