サッカーを愛して止まないあの人の ゆめのはなし

第96回天皇杯でJ2やJ3などの格上を次々となぎ倒し、アマチュアチームとしては唯一のベスト16進出を果たしたHonda FC。大会の醍醐味であるジャイアントキリングを起こし、その象徴たるゴールを表彰する「SURUGA I DREAM Award」には、ベスト16進出を決めたグルージャ盛岡戦で劇的なアディショナルタイム弾を挙げた中川裕平選手が輝いた。

カテゴリーを飛び越えて得た実感と痛感したトップリーグのクオリティ

このような栄えある賞をいただき、本当にありがとうございます。僕らHonda FCは6年ぶりの本戦出場ということで、初戦のFC岐阜戦(2016年8月27日/長良川球/2-1)こそ硬さがありましたが、その後の松本山雅FC戦(同9月3日/松本/2-1)もグルージャ盛岡戦(同9月22日/ユアスタ/2-1)も、もちろん相手は格上という意識はありましたが、その一方で「そこまで差はないな」という手応えも感じていました。しっかり足元でボールをつないでゴールに迫るという、自分たちが徹底して取り組んで来たトレーニングの成果が出せたと思っています。「一発勝負だったら食うチャンスはあるな」という感覚もみんなで共有できていたと思います。

ただ、J1のカテゴリーになるとちょっと別でしたね。最後に戦ったFC東京(同11月9日/味スタ/1-2)には中島翔哉選手にしても室屋成選手にしても、違いを生む選手がたくさんいて、個々のレベルを見せつけられた印象です。攻撃のエリアまではなんとかボールを運べるのですが、向こうからしてみれば「攻めさせている。ボールを持たせてやっている」という想定内だったかもしれません。その先で1枚はずす。ちょっとしたギャップを作ってそこに人とボールを送る。そのあたりが足りなかった。力強さや個々の技術、あるいはグループ戦術が必要だなと痛感しました。

でも、だからこそ天皇杯は面白くて、僕らJFLのチームにすれば格上との距離を測る絶好の機会なんですよね。今後もアマのチームがどんどん盛り上げていってほしいと思っています。

「SURUGA I DREAM Award」ゴールの裏話「中川さんだぞ」

3回戦の盛岡戦、僕はJFL優勝がからんだゲームを控えていたこともあってベンチスタートだったんです。

井幡(博康)監督の「途中から行くぞ」という試合前の言葉どおり、残り20分ちょっとですかね。1-1の同点の場面で左サイドに入りました。その時点で相手は2人の退場者を出していたので、おそらく延長PKに持ち込む狙いだったと思いますが、数的優位だった僕らはリーグ戦も控えていましたしなんとか90分以内で決着をつけたかった。

本来、僕はフィニッシュにからむ仕事をするわけではないのですが、監督からは「点を取るために高い位置にいろ」と言われましたし、相手も出てこなかった。僕のサイドにはずっとスペースがあったんですよ。けっこう呼んでたんですけどそこまで効果的に使えてなくて、最後の最後にやっと細貝竜太からいいボールが上がってきた。前のディフェンスにかぶってちょっと見えづらかったんですが、なんとか当てて、うまくGKの股を抜けてくれた。もちろん股なんて狙っていたわけではありませんので、ラッキーでしたね。ずっとDFだったのでサッカー人生で決勝点を挙げたことなんて記憶にないですし、アディショナルタイム弾も初めてですし、かなり興奮しました。

ただ、僕、若干、髪の毛が薄いんですよ。あの日は雨も降っていて、濡れたままチームメイトにバシバシ頭を叩かれて、ぐちゃぐちゃの状態で試合後のインタビューを受けたんです。その時に何人かのチームメイトがベンチからガヤを飛ばしてきたからふざけて彼らに投げキッスをしたら、それがばっちりスカパーさんに抜かれてしまって……。

嫁には「アレ何? すごい気持ち悪かったんだけど」と真顔でひかれて、チームメイトには「ピッチのトレンディエンジェル」とか「中川さんだぞ」とかイジられ続ける、という日々でした。

自分なりのケジメと引退後のゆめのはなし

実は昨季で選手を引退しました。シーズン前から決めていたのですが、それが開き直りというか、最後のシーズンでいい方向に働いて、あのゴールにつながった気もしています。

僕たちHonda FCのメンバーは本田技研で午前中に働かせてもらって、午後からトレーニングをするサイクルで活動しています。会社には感謝しかありません。

僕はエンジンにドッキングするトランスミッションという機構を作っている開発センターに所属しています。サッカーと仕事の情熱を天秤にかけるのは違うかもしれませんが、ここ数年で仕事が楽しくなってきて「こっちで勝負したいな」という気持ちが強くなってきたのを自分でも感じていたんです。

もちろんそれでもピッチに立てば100%の力で勝ちに向かいますし、トレーニングにも集中して向かい合ってきたつもりです。フィジカル的にはあと数年、プレーできると自負していますし、「残ってくれ」「まだできる」という関係者やチームメイトの言葉もいただきました。

ただ、それでも自分はベテランの域に入ってきて、チームを牽引していく姿勢を示していく中でそれができているかと自問したらクエスチョンマークがつくというか、これじゃいけないなという葛藤もずっとありました。

そして最終的には、自分がもっとも大切にしてきた、情熱であったり夢であったり戦う気持ち。それらがあって身体がはじめてついてくるんだな、という結論に至り、ケジメをつけて引退を選びました。

少し寂しいですが、後悔はしていません。僕はサッカーしかしてきませんでしたが、逆に言えばサッカーを真剣にしてきたおかげで早稲田大学という有名な大学に入れて、本田技研という素晴らしい会社に入社できた。いろいろな場所にも遠征でき、多くの人に出会え、最後にこんな誇り高い賞までいただき、家族と一緒に新しいスタジアムで天皇杯決勝を観戦できた。最高です。

これからはピッチの外で多くのことにチャレンジしていきたいですね。今まではサッカーを通してしか知らなかった世界を、ビジネスというシーンで見てみたい。本田技研はグローバルな企業なので、どこか遠い異国で触れるサッカーを、現地の文化でどう形成されているか、なんていうのを自分の肌で感じるのも新しいゆめのひとつかもしれません。

中川 裕平が選んだベスト11

第96回天皇杯で戦った特にキレッキレだった11人

恩師の樋口さんを監督に据え、GKはノってくればビッグセーブを連発する清水谷さん。その前の3枚もHondaから出します。彼らはみんな人に強いDFですね。特に中央の鈴木選手はライン統率もしてくれますので、今後もHondaの最終ラインは安泰です。

ボランチには若いのに落ち着いたプレーが印象的だった岐阜の風間選手。あの一族はやっぱりすごいですね。右アウトサイドには同期枠として細貝竜太を一応、入れておきます。というのは冗談ですが、彼はキックの質が高いですね。左には美しいループで僕らを沈めたFC東京の室谷選手。あれってファーストタッチからフィニッシュまでイメージしてたんですかね。だったらすごいなあ。

2シャドーはまず、中島翔哉選手。推進力と思い切りの良さがある、怖い選手でした。もう1枚の古橋さんはとにかくうまいし、男として本当にカッコいい方です。引退を告げたら「今までありがとうな」と松阪牛を送ってくれました。そのお礼も込めて。

トップはFC東京戦でもスコアした久野純弥。前から献身的に、センターバックみたいなエグい守備をしてくれるので助かりましたね。あとは「決めると勝てない」というジンクスをどうするか今後に期待してます。もうひとりは松本の左サイドにいた石原選手。キレッキレでしたね。このチームだったらまた、ジャイアントキリング、起こせますかね?

 

フォーメーション:3-5-2 監督:樋口士郎(四日市中央工業)

GK

清水谷侑樹(Honda FC)

DF(右から、以下同じ)

須藤壮史(Honda FC)、鈴木雄也(Honda FC)、川嶋正之(Honda FC)

MF

(1ボランチ)

風間宏矢(FC岐阜)

(右ウイングバック)

細貝竜太(Honda FC)

(左ウイングバック)

室屋成(FC東京)

(2シャドー)

中島翔哉(FC東京)、古橋達弥(Honda FC)

FW

久野純弥(Honda FC)、石原崇兆(松本山雅FC)

中川 裕平 プロフィール

中川 裕平(ナカガワ ユウヘイ)

中川 裕平プロフィール

1987年三重県四日市市出身。四日市中央工から早稲田大に進学し、主将も務めた。2010年からHonda FCに所属し、2016年までの7シーズンで通算184試合に出場するなど、同チームの主力として活躍。16年シーズンで引退を表明している。

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